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第20話:鮮紅の目覚め

 良弘に眠る前に示した場所にはいろいろな寝具が詰まっていた。その中から毛布を選び四苦八苦しながら引き摺り出すと、浩一郎は自分の身にそれを巻きつけた。

 防寒の準備をしっかりと行い、眠っている良弘の様子を見守るために近くの椅子に腰をおろす。

 あの騒動の後、浩一郎は一度だけ香帆を良弘の傍に呼び寄せ、先ほどとは違う安らかな寝顔を見せて安心させた。

「俺がついているから、安心して」

と言ったら、彼女はにっこり笑って「お願いします」と返した。

ただ香帆が部屋を出るときに浩一郎に言った一言が頭をよぎる。

「お兄ちゃん、最近、悪夢ばっかりみてるみたい」

 もしかしたら、良弘の寝不足の原因はそれが原因かもしれない。だが今の寝顔からはそんな不快な夢を見ているようには見えなかった。


トントン・・・


 ノックの音がしたので浩一郎は仕方なく良弘の傍を離れて、扉をあけた。

 現れたのは門の外で話をしてくれた侍女だった。彼女は他の家人の目を盗み、夕飯を食べていない浩一郎たちのためにおむすびを差し入れてくれた。

 そのときに、「あまり遅くまで明かりをつけていると文句が出ます」と忠告してくれたのは彼女の優しさだろう。

 浩一郎は優しい笑みで「ありがとう」と返して、夕飯の入ったバッグを貰った。

 彼女はまた人目につかないようにしながら足早に廊下の向こうに消えていく。

 自分たちに親切にしたせいで怒られなければいいけどと浩一郎は本当に心配しながら、重い扉を再度閉めた。

 バッグを持って良弘に近づくと、彼は本当に安らかに眠っていた。

「大丈夫、かな?」

 浩一郎は少し息を吐くと、空腹にあえぐ体を満足させるためにバッグをあけた。

 大き目のおむすびが6個、それと魔法瓶に入れられたお湯、プラスチック製のカップに、インスタントの味噌汁−−−本当にすべてがありがたかった。

 とりあえず、彼はおむすび3個と味噌汁で体を温める。残りはバッグに戻し、良弘が目を覚ましたときに食べれるようにしておいた。

 それから勉強机のデスクランプをつけると大本の電気は落としてしまう。とたんに訪れた薄闇の中で規則正しく上下する良弘の胸を確認した。

 浩一郎は今度はドイツ語の医学書を数冊手にとると良弘の勉強机で読書を再開した。もともと宵っ張りの彼はこの時間に眠るなど無理な話だった。

 速読するようにめくられるページの音が、夜のとばりの中で静かに存在を示していた。




 あれからどれぐらいの時がたったのだろうか。

 取り出した3冊の医学書を読み終え、参考のために取り出した6冊の医学書も眺め読みをし終えた浩一郎は大きく伸びをした。

 腕時計で時間を確認するともうすぐ日付を跨ごうとしていた。大分読書に没頭していたらしい。

「そろそろ寝るか・・・」

 他人の家で読書三昧した上で徹夜するのはさすがにまずいだろう。

 そういえば香原に連絡を入れなかったが彼は家に帰ったのだろうか・・・いや、職務に忠実なあの男の事だ、きっとこの近辺で隠れるように車を走らせているはずだ。

 取り留めのない事を考えながら、本を本棚に戻すと寝る前にもう一度彼の寝顔を確認するためにベッドの脇に立った。

 良弘の寝顔は変わらない。いや先ほどよりもずっと穏やかになったように見える。

「気の回しすぎだったかな?」

 浩一郎はほっと胸を撫で下ろすと無粋な光を放つディスクランプを消した。

 今日は幸い満月だ、月明かりは強い。このぐらいの明るさがあれば良弘の顔を確認することも、物にぶつからず移動することもできる。


(あれ?)


 闇の中、不意に空間が歪むような奇妙な感覚に囚われ、浩一郎は首を傾げた。

 良弘に視線を戻すとつい先ほどまで規則正しかったはずの息が乱れ、寝ているのに眉根を寄せている。よほど苦しいのか、彼の秀麗な顔は歪み、歯を食いしばっている。

「良弘っ!」

 取りあえず起こそうと近寄った浩一郎の目の前で異変は起こった。

 月が生み出す青い光とは対照的なまでの赤い紅い光。それが良弘の体全体を包み込んだ。

 良弘が倒れたときに見たのとは違う、もっと印象的で透明で、澄み切った光。それは段段と輝きをまし、部屋全体を熱く照らし出した。

浩一郎、むやみやたらに寛ぐの巻。

っていうか、事態を知らないにしても寛ぎすぎのような気もする。人の家に来て日付を跨ぐまで本を読むってどういう了見なんでしょうかね。

とにかく、事態は動き始めました。

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