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第15話:凶暴な自分への畏怖

 一方、浩一郎はひどく困惑していた。

 しっかりと押さえつけてなければ自らの眼球を抉り出してしまいそうなほど、彼の腕には力がこもっていた。怯えきったその瞳には自分を押さえつける人間の顔など映ってはいない。

 なぜ、これほどまでに自分の瞳の色が代わるのを嫌がるのか・・・浩一郎はそこからわからなかった。

 香帆が言っていた『良弘でない良弘』というのに関係しているのだろうか。でも、彼女の言葉からはもう一人の良弘も、この良弘も同等に炎が使えるだけであまり変わりがないようにも思える。

「とにかくっ落ち着けぇっ」

 必死に呼びかける声も届いてはいないのだろう。

 彼は誰に聞かせるでもない言葉をずっと繰り返している。

「どうするべきなのか・・・私の中の彼が・・・彼が、ずっと閉じ込めていたのに」


ーーーーーーこの瞳は、彼のもの。


 自分とは表裏一体の炎の申し子。

 親戚から逃げる途中、突然現れたもう一人の自分。

 真帆と一時的にはぐれて香帆と一緒に逃げている最中に追っ手に見つかった。

 人里離れた山の中、絶体絶命のピンチに、自分は武道で身に付けた構えを取った。しかし、見えない炎の手は容赦なく無力な良弘へと襲いかかる。

 あまりの衝撃に白濁する意識の中、良弘は一心に願っていた。


 −−−−−−彼らを殺す能力が欲しい、と。


 異変はすぐに起こった。自分の意識がなくなり、あたりが赤い炎で包まれる。覚えていられたのはそこまでだった。

 再び目がさめると、ところどころに火傷を負った香帆は呆然と自分をみていた。

 見るとは辺り一面は高温の炎で焼き払われたように焦土と化していた。鼻につく異臭は、ところどころに散った肉片の焼けた臭い。それらが先ほど自分たちを追い詰めていた大人たちであることは焦土とまだ少しは無事な部分との境目に落ちていた持ち主のいなくなった右腕から察しがついた。

 自分の目には、自分の覚えていない残酷な光景が焼きついていて、自分の耳には聞いた覚えのない悲痛な悲鳴がこだましている。

 その一部始終を見ていた香帆はその時のことについて、喋ろうとはしなかった。ただ、ポソリと呟いた「もう一人のお兄ちゃんと約束した」という言葉で、すべて判断できた。

 その頃から良弘は自分の中にあるもう一人の人格を意識するようになった。そしてその人物が出てこないようにずっと念じてきた。

 たしかに守るための力が欲しかったーーーしかし制御できない力の恐ろしさは認識している。

 自分でも制御できない力を使う、自分では扱いきれない人格。

 だからこそ、この家に囚われる苦痛に耐えながらも『彼』を封じることを選んだ。

 きちんと、彼を封じることができたと思っていた。

 ・・・・・・そう、信じていたのに・・・・っ!

「良弘っ!」

 耳元で強く、大きな声で名前を呼ばれた。

 見上げるとそこには不安そうな顔をした浩一郎の顔があった。

 どうやら先ほどから自分を押さえつけていたのは彼だったようだ。そういえば先ほどまで香帆もいた気がする。

 ふと彼は不安の中あることを思った。

 目の前にいる洞察力の鋭い親友の目には自分はどう映るのだろうか、と。いつもどおりの情けない自分なのか、それとも狂気に満ちたもう一人の自分なのか。

「浩一郎、正直に答えてください。私は誰に見えますか?あなたの目にもちゃんと『桧原良弘』として写っていますか?」

 良弘は自分を押さえつけている浩一郎の腕を逆に掴み、真剣な眼差しで問いかけてくる。

 唐突な質問に浩一郎ははじめ面食らったが、あまりにも真剣な良弘の様子に彼の中の異変と不安を読み取り、常には見せない真剣な眼差しで良弘を眺める。

「悪いが、俺には『桧原良弘』にしか見えない。大丈夫だ」

 呪文みたいに彼はその言葉を数度繰り返す。やけに落ち着いて響く彼の声が、恐怖に高ぶっていた彼の心をゆっくりと解きほぐす。

 自分はまだ狂気に侵されてはいないーーー自分は、まだ正常な『桧原良弘』である。

 その言葉に良弘は大きく安堵の息を吐き、強張っていた肩と腕の力を抜いた。

良弘と浩一郎のランデブーの巻(?)でした

いや、本当はランデブーはしてないんですが。

寝ぼけの良弘さんがようやく浩一郎を認識しました。早くもう一人の良弘がでてこないと物語が進みません。

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