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番外編2−3:明日の約束

 良弘は少しだけ何かを考えると、それを顔に出さず質問を続けた。

「将来は企業家にでもなるのですか?」

 『マニュアル通りの返事』に続けられた、良弘の『通り一遍の型に嵌った問い』に浩一郎は少し落胆する。

(やっぱり、こいつも普通の奴と同じか・・・)

 浩一郎の中にあった刺激的で楽しい気分が急速に萎えかける。

 彼は内心で溜息をつきつつ、自分好みではある良弘の顔をもう一度だけ見た。

(あ・・・・・・)

 それは自分の考えを一変させる表情だった。

 彼は浩一郎が発した『マニュアル通りの答え』に対し、明らかに不快を示していた。彼自身を見極めない浩一郎をバカにしている。

 そして浩一郎自身に意趣返しをするように『極一般の人が考えそうな質問』ばかりを投げてきていたのだ。

 浩一郎は少し考えてから、今度は本心の答えを返してみた。

「俺の家系は銀行屋を営んでいる。親父も、爺さんも・・・親族の殆どがその職についているといっていいぐらいだ。俺も将来はその二人の意思をついで銀行組織を継がなくてはならない。そうなれば相手は世界の経済となる」

 良弘は問いを続けない。浩一郎に視線だけで話の先を求めてくる。

「そのための勉強は日々欠かすことのできない事だ。確かに自分の知らない知識を得るという快感があるから、苦痛だと思うことはないんだけど」

 この瞳の前に見られていると何故か真実を報告しなくてはならないという強迫観念が生まれる。それは太古の昔から決められていることわりのように自分の中に明確に刻み込まれている。

「それに経済だけに興味があるわけじゃない。経済を操るのは人と情報だ。それを操るためには一つのジャンルだけの情報では駄目になる。自分の持っていないジャンルの本でもそれが新たな知識だとおもうなら真剣に読みたくなる」

「その衝動はわかります」

 至って真面目に良弘は浩一郎の意見に同意した。その顔には作られたものではない柔らかな表情を浮かんでいた。

(お・・・・・・この顔、好みかも)

 表情を現した良弘の顔は浩一郎の琴線に触れるほどの可愛らしさを秘めていた。

 少しだけ釣りあがったぱっちりした目、艶やかな黒髪、まだ少年らしさと少女っぽさの同居する顔立ち、無表情の時ですら美形と騒がれていたそれらに、表情という彩りが添えられるだけでこんなにも違うのかと目を見張るほどだ。

(これは、なかなかの見つけ者をしたな)

 浩一郎はみんなの知らない良弘の姿を知ったということを大いに喜んだ。

「なあ、明日もここに来る?」

「ええ、来るつもりです」

 自分がまた新たに友人を作ることに途惑いはあるものの、良弘はそう答えてしまっていた。彼もほんの短い間の浩一郎との接触で何かを感じ取っていた。

「よっしゃ、それじゃ明日はもっと面白い本を持ってくるよ」

 浩一郎は地面に放りっぱなしだった自分の本を拾い上げると、ゆっくり立ち上がる。

 良弘も彼に倣い、浩一郎から返してもらった本を片手に立ち上がった。

 立ち上がってみると少しだけ上にある浩一郎の顔が喜びで紅潮しているのが判った。

「そんなに喜ぶことですか?教室でいつも逢えているはずですが」

 溢れんばかりの喜びを示している浩一郎に良弘は心底、呆れてみせる。

 確かにあまり接触したことはないのは認めるが、同じ教室にいるのは確かなのだから、ここまで喜ぶ必然性が見えてこない。

「どうして?ここにくれば俺だけしか知らない隠された良弘の顔が見れるんだぜ、それだけで何か得したような気分にならないか?」

「えっとそれは教室のみなさんが知らない松前さんを私だけが知っていることも幸せとなるんでしょうか」

(・・・・・・それほど喜ぶべきことではないような気がする)

という言葉を良弘は喉元で飲み込んだ。

 そんな良弘におかまいなしに浩一郎はハイテンションのまま良弘に詰め寄る。

「松前さんなんて他人行儀じゃなくて『浩一郎』って読んでくれればいいよ。俺も『良弘』って呼ぶから」

「はあ・・・」

(他人でしょう・・・と言っても聞いてくれないでしょうね)

 こういうハイテンションな人間に何を言っても暖簾のれんに腕押し、ぬかに釘、右から入ってきたものを左に受け流されるだけだ。

浩一郎、良弘が好みの顔だと気付く、の巻。

浩一郎の好みはパッチリ猫目の女の子です。美人系も好きですが年齢よりも若く見えるタイプが好き。性格は意地っ張りで頑張り屋さんがベストです。顔立ちだけだと、成長前の良弘も好みの顔になります。(でも全ての条件が当てはまる焔には負けます)

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