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第9話 待ち時間の瞑想

 通された良弘の部屋は母屋と思しき建物から幾分離れた位置にあった。

 出入り口はその屋敷から延びる一本の通路のみ。両側は壁に阻まれ、たどり着くまでに、多大な圧迫感を与えられる。

 部屋は16畳ぐらいと大きさはあるが、窓の数が極端に少ないために薄暗く感じてしまう。一応、天上近くに明かり取りの窓がいくつかありはするが、それも少ししか役立っていない。その上、いずれの窓も遠くから見て判るほど頑丈な鉄格子がはめ込まれており、雰囲気を悪くしていた。

 唯一、通気だけは考えられているのか空気は淀んでいない。

 メイド達は良弘をベッドに横たえるとさっさと部屋を出ていった。

 ただ、去り際に壮年のメイドが「つきそっていたいなら、どうぞ」というありがたい言葉を残していったので、彼は遠慮せずに居座る事を選択した。

 まず、良弘が寝苦しくないように学ランを脱がせて適当なハンガーに掛ける。ついでに襟元まできっちりと止められているワイシャツの釦も上から3個めまで外してやった。

 身体が冷えないようにきちんと布団に入れてやり、目に付いたストーブに火を入れた。

 最後に保健室の養護教諭から預かってきた良弘の伊達眼鏡をベッドの横にあるサイドボードの上に乗せた。

 一連の作業を終え、一息ついた浩一郎は良弘の机の側から椅子を持ってくると彼の顔が見える位置に腰を下ろした。

「さて、何をしよう」

 ストーブが利き始めたのか徐々に部屋は暖まってきている。

 居座る事を決めたのはいいが何もせずに過ごすというのは相にあわなかった。

 浩一郎は取り敢えず、椅子から立ち上がると部屋の中の物色を開始した。彼は勉強机の隣にあった本棚へと行き、良弘の蔵書を眺める。

 きちんとジャンル別に並べられたそれらの本は良弘が集めた本以外も入っていた。

 彼が前から興味を持っていた自然科学・考古学・心理学・医学。浩一郎が無理矢理押しつけて読ませた、経済学・経営学・帝王学。そして明らかに異色な魔術や呪術の洋書・・・古書に分類されるそれらのものは前の住人の遺物であろうか。

 浩一郎はその中からドイツ語で記された呪術書とロシア語で書かれた心理学の本を選び、時間つぶしのために読み始めた。




 どれぐらい時が経ったのだろうか。

 浩一郎は何冊めかの本から顔を上げると大きく伸びをした。

 時間を確かめるために見上げた天窓は、来た時とは違い薄闇に覆われている。

 浩一郎は椅子から立ち上がり、ベッドの近くへ移動した。

 良弘の顔色は余り良くなったとは言えない。時折、零れる呻きが彼の状態の悪さを表している。

「眠っている間でも・・・心を休めればいいのに」

 浩一郎は自分では救えない状況に、ぼやくように呟くと眠っている良弘の髪を梳いてやる。

 自分と同じ年齢でありながら、自分とは別の過酷な境遇を強いられている彼、それを与えているこの家の人間に静かに怒りを憶える。

 それにしても、この家の違和感はどういうことだろう。

 先程逢ったまだ仕えて間の浅いメイド以外、殆どの物の目が淀んでいるように見えた。

 特にそれは立場が上の方がひどいようだ。最後に対応してくれた壮年の女性など、人間の目をしていなかった。

 おかしいのは仕えている者だけではない。すれ違う人、すれ違う人が、意識のない良弘の姿を見ても心配をする気配すらなかった。眉を顰めるもの、蔑む者・・・一番ひどいのはそこに彼がいることすら認識しない者だろう。

 この家の人間は、どこかおかしい・・・人間として有るべき感情を逸しているように感じる。

(それに、こいつの妹の件も・・・だ)

 あの若いメイドとは話の途中だったが、ある程度の情報を残してくれた。

 やはりこの家の当主というのは特別な能力を持ち合わせていなければならないようだ。そして、それを良弘は持っていない───ここまで邪険にされると言う事はその片鱗すらないのだろう。

浩一郎、病人を放って考え事をするの巻でした。

次回はもう一人の良弘の妹の香帆が出ます。

最後の主人公・焔はまだまだ出てきません。

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