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西の国の愉快な王様のお話

作者: yutaka_kinjyo

儂は不愉快である。儂の顔は、この世で一番愉快であるようで、誰もが儂の顔を見ては笑い転げるのである。皆はさぞかし愉快であろうが、笑われる儂はちっとも愉快ではおれないのだ。国民の前で威厳高々しく演説すれども、巻き起こるは笑いの渦であり、儂を称える拍手などではない。家来を集め会議をしようものなら、宴会場の如く笑いで包まれ、誇り高く未来を語る言葉は飛び交わない。それならばと、目をつむらせて見ようものなら、誰もが暗闇を右往左往するようになり、まったく役に立たなくなってしまいおる。嗚呼嘆かわしい! 王たる気品が儂には無いではないか! 王なら、王らしく、凛々しく、猛々しく、毅然と儂はなりたい! 儂の顔は愉快な呪いに呪われておる! 実に不愉快だ! これでは妃も見つけられぬ! 儂は、ついに辛抱たまらなくなってマスクで顔を隠した。その日からなんと気分の良いことか。誰も儂を見ても笑わず、 儂の演説に国民は耳を傾け、一言一句に拍手喝采が起きる。会議は厳粛に、静粛に、粛々と厳正な雰囲気で進められていくではないか! 。これが儂が望んでいたことである!


--それから数年が経った--


儂は頭を悩ませておる。年々我が国の作物の収穫が衰えておるのだ。国に住まうものは、満足に飯を食うことが出来ておらん。活気が、賑わいが、喧騒が、笑い声が無くなってきておる。ここ周辺の土地は作物が育ちにくい。土地が弱いのじゃ。国民の力が無ければ、工夫が無ければ、満足な暮らしは難しいのだ。あぁ、なんたることか! あの街の賑わいは一体何処へ! 街に人影は無くなり、静寂が代わりに闊歩しておるではないか! いつも活気がある家来達も、空腹のあまり城内の至る所で座り込んでしまう始末だ。飢えは苦しく辛い。愛すべき国民たち。このままではこの国は滅んでしまう。いったいどうしたことか。困ったものだ。儂の腹も虫も鳴る一方じゃ。これでは良い考えも巡り用がないではないか。ああなんと儂の情けないことか! この国の民を導いてはいけないのか! 儂は儂の力の無さに落胆するばかりである。


それから何日か経ったある日である。我が国に、世界中を旅しておるという、旅人が現れた。旅人は一人の娘を連れておった。実に怪訝な、蒼白な、虚ろな顔をした娘であった。二人は風のうわさで儂のことを聞きつけ、この地にやってきたというのだ。

「王様、この娘は笑えない呪いにかけられた者であります。娘は生まれてこの方笑いを知りませぬ。そのため、心は暗く、いつも虚ろであります。笑うことを、幸せを知らないのです。この世の最上の幸福を知らぬのであります。どうかその呪いを解くために、王様のお顔を拝見させては貰えないでしょうか。」

「ほぅ、世界には不思議な者もおるものだ。笑うことが出来ぬとは不憫なものだな。さぞ苦しいことであるだろう。どれ儂の顔でその呪いが解けるものか、試してみるのも一興か。」

儂はマスクを外した。その瞬間にドッと笑いがあたりを包んだ。家来達の懐かしい声が響き渡る。もうどれほどこの声を聞いていなかったかの。旅人も大いに笑っておる。そしてあの娘である。娘はじっと儂の顔をみておった。どれぐらい儂の顔を見ておったかの、なんとクスクスと笑いだしたのだ! その姿は美しいことこの上なかった。娘を包んでいた暗闇がみるみる晴れていくのがわかる。娘はどんどんと元気になって、我慢できなくったのか、ついには踊り始めおった! にこやかに笑いながら、喜びの涙を流しながら、この世の幸せを噛み締めながら、笑い声で包まれる中を、ヒラリヒラリと美しく踊るのである。素晴らしいことじゃ、呪いは解けたのである。それを見ていると、儂もなんだか可笑しくなって、思わず笑いだしたのじゃ。とても不思議な気分じゃ。なんとも笑いとは幸せじゃの。そう思った時である、まるで儂の心にかかっていた雲が晴れたように、儂は唐突に理解したのじゃ。そして城中を走り回った。息がいくら上がろうが、なんど躓いて転ぼうが、城の中を端から端まで、誰一人逃さぬように一時も休まずに儂は走った。台所、トイレ、地下道、地下室、主塔、居館、庭園、城門、跳ね橋、武器庫、看守部屋、儂の行く所行く所に笑いが起こった。みるみると城内は笑いで満ち溢れる行く。これぞ、まさしくこれぞ!

「さあ、家来達よ! 立ち上がれ! うな垂れている場合ではないぞ! 国民を集めよ! 儂が奇跡を見せようぞ!」

国民が集められた。儂は国民の前立ったその時である、静寂が闊歩していた国に、笑いが起こったのだ。

「愛すべき国民よ! 静寂は去った! 今一度立ち上がれ! 」

笑いの渦の中で儂は叫ぶ。これは儂にしか出来ぬことだ。忌々しい我が顔ながら、この地に暮らすことが出来、儂がこの国の王たる所以はこの顔にあったのだ! 喝采の拍手など不要、厳粛なる会議など不要! 威厳などなんの役にもたたぬ! 見よ! 誰もが笑っているではないか! 飢えに喘いでいようが、暗い気持ちなどもはや微塵も感じておらぬ! これこそこの国に今、必要なものだ! 儂はこの世で、唯一無二の、最も力強い、愉快な王だ! 儂は笑った。国民とともに大いに笑った。


それから国は笑いという力で満たされた。国民たちは奮い立ち、そのこんこんと湧き出るエネルギーで、土地を耕し、交易を行い、土、肥料の研究は進んだ。今や土地は強くなった。もはや飢えに喘ぐことはない。儂の心は自信と誇りで満ち溢れた。とても忌々しく、呪われた儂の顔であったが、この地には必要な顔であったのだ。この顔は人々を幸せにするのだ。だから儂はもう顔を呪うことはやめ、顔を隠すことをやめた。

あらかた復興を終えた後、儂は感謝の意をこめて、旅人をもて成した。代わりに旅人は、笑い転げながらも、世界の様々な摩訶不思議な、奇々怪々な、面白くも悲しい話を聞かせてくれた。世界は実に広く、面白いものであるのだな。とても有意義な時間が流れていった。

「王様、あなたは自分の『才』にお気づきになった。自分の道を、進むべき道を、信念を見出された。実に素晴らしいことです。これほど豊かで活気ある国を私は他に知りません。私はまたこの世界の広さを知りました。この世界の素晴らしさを知りました。今日、私は去ります。さらなる世界を目指して。お世話になりました、またいつの日か、私が見聞きしたお話を持ってこの地に参りましょう!」

そう言って、旅人は去った。またいつか世界の話を語りに来ると約束して。儂はにこやかに微笑む妻と一緒に、その姿を見えなくなるまで見送った。


おしまい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もう少し改行を増やした方が見やすいかと思います。
2017/09/05 16:37 退会済み
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