山を買う
夕食の時間。
いつも通り、家族で飯を食べていた。
そのとき、親父が口を開いた。
「裏山の一部、買わないかって話が来てる」
「……山?」
箸を止める。
「うちの裏山はな、三軒で分けて持ってるだろ」
「……ああ」
なんとなく知っている。
「そのうちの一人がな、手放したいらしい」
親父が続ける。
「三年前に爺さんが亡くなって、今は婆さん一人だ」
「子供たちはみんな都会で暮らしてる」
「戻る予定もないらしい」
「だから、今のうちに処分したいって話だ」
「田畑は離れてるからな」
「うちには山のほうをどうかって来た」
「……なるほどな」
話は分かる。
だが――
「うちも、引き継ぐやついないだろ」
親父が苦笑する。
「お前いるけどな」
「……ヒキニートだけどな」
「孫もいないしな」
母親も苦笑する。
「将来どうするかって話はしてる」
「最悪、墓じまいも考えてるくらいだ」
「……そこまでか」
思ったより重い話だった。
少しだけ考える。
「……じゃあ」
口を開く。
「俺が買うよ」
二人がこちらを見る。
「どうせ誰も手入れしなくなるんだろ」
「荒れるくらいなら、俺がやる」
「手入れして……遊び場にする」
「……遊び場か」
親父が少し笑う。
「まあ、誰も買わんだろうしな」
「ちゃんと手入れするなら、いいんじゃないか」
「本当にやるの?」
母親が聞く。
「やるよ」
即答する。
「……分かった」
話はそこでまとまった。
そこからは早かった。
話はとんとん拍子に進み――
一万円で購入が決まった。
「……安くないか」
「手入れもされてない山だからな」
「引き取ってくれるだけでもありがたいって話だ」
「……なるほど」
納得する。
その話を聞いた、もう一人の持ち主も――
「うちも売りたいって言ってきた」
「……まじか」
思わず笑う。
「どうする?」
「買うよ」
即答だった。
さらに――
「うちの分も、どうする?」
親父が言う。
「いらないなら、まとめて処分するぞ」
「……それも買う」
もう迷いはなかった。
結局――
一万円ずつ。
合計三万円で、山はすべて自分のものになった。
「……俺の山か」
小さく呟く。
なんとなく、実感が湧かない。
だが――
「……悪くないな」
そう思った。
それから数日。
四駆の車も納車された。
「……いいな」
軽く触れる。
自分の車だ。
それだけで、少し気分が上がる。
山の手入れも始めた。
ユンボ。
木材運搬車。
ユニック付きの四トン平ボディロング。
すべて中古だが、問題なく使える。
「……揃えたな」
自分でも少しやりすぎかと思う。
だが、どうせやるならちゃんとやる。
前に祠を頼んだ建築屋に連絡を入れる。
「倉庫、お願いできます?」
ユンボやトラック、道具を置くための倉庫だ。
ついでに、木材を置く場所も確保したい。
場所を決める。
「……ここだな」
一帯を見渡す。
そのまま作業に入る。
ユンボで削る。
怪力で押す。
均す。
整地していく。
「……便利すぎるな」
普通なら何日もかかる作業が、あっという間に進む。
倉庫ができるまでは――
林道を作ることにした。
ユンボで道を切り開く。
邪魔な木を伐る。
運ぶ。
また道を作る。
その繰り返しだ。
「……悪くない」
単純な作業だが、嫌いではない。
自分の山を、自分で作っていく。
そんな感覚があった。




