年の瀬と開業
年の瀬。
寒さが一層、厳しくなってきた。
朝の空気は刺すようで
息を吐くと、白く広がる。
「……寒いな」
小さく呟く。
午前中。
町まで買い物に出る。
餅、しめ飾りに門松。
正月の準備だ。
店も、少し賑やかだ。
年末の空気がある。
「……もうそんな時期か」
適当に揃える。
必要なものだけ。
それでいい。
戻ってから
正午まで探索をする。
新しい区画。
今日も変わらない。
探す。
感じる。
だが、見つからない。
「……まあいい」
焦らない。
そう決めている。
28日、午後。
温泉施設の受け渡しの日だ。
両親を誘う。
一緒に施設へ向かう。
すでに
ご近所の人たちが、ちらほら集まっていた。
少しざわついている。
その空気が、悪くない。
まずは、業者から説明を受ける。
鍵の受け渡し。
建物や設備の確認。
一通り、目を通す。
「……問題ないな」
そう判断する。
そのあと
事前に声をかけていたご近所が、集まる。
業者から、直接説明してもらう。
カードキーの使い方。
受け渡し。
顔認証の登録。
暗証番号を渡され。
設備の使い方。
一つずつ、丁寧に。
28日、29日は
業者も待機してくれるらしい。
「……助かるな」
小さく思う。
一通り終わる。
場が少し落ち着く。
そのとき、親父が前に出る。
俺の代わりに、挨拶をする。
「……」
静かに聞く。
短い。
だが、ちゃんと伝わる。
それでいい。
そのまま、開業となった。
施設を見て回る。
風呂は、男湯と女湯。
それぞれ、五、六人は入れる広さ。
脱衣所も分かれている。
鍵付きロッカーもある。
銭湯のような作りだ。
休憩所もある。
洗面所、トイレ。
必要なものは、揃っている。
入口と周辺には
防犯カメラも設置してある。
緊急通報のボタンをある。
体調の急変や、不審者など。
ボタンを押すと、警備会社が対応してくれる。
「……まあ安心か」
完全ではない。
だが、十分だ。
用意していたものを配る。
ボディーソープ。
バスタオル。
フェイスタオル。
紅白饅頭。
赤飯。
袋に入れて、一人ずつ渡していく。
「ありがとう」
「助かるよ」
そんな声が返ってくる。
軽くうなずくだけでいい。
蒸し料理の場所も使えるようにしてある。
そこでは、ゆで卵を用意した。
自由に食べてもらう。
湯気が立つ。
匂いが広がる。
それも、悪くない。
そのまま、風呂に入る人。
挨拶だけして帰る人。
それぞれだ。
好きに使ってくれればいい。
親父と母親は
「せっかくだから入っていく」
そう言っていた。
楽しそうだった。
それでいい。
俺は、先に帰る。
振り返る。
人の声。
湯気、明かり。
冬の中に
少しだけ、暖かい場所ができていた。
「……いいな」
小さく呟く。
ここが
ご近所の憩いの場所になればいい。
そう思いながら、帰路についた。




