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余裕と、お供え





 この1週間は、能力の扱いに慣れるための訓練で終わった。


 空間移動はほぼ問題なく使えるようになり、千里眼も安定している。

 変化も、ある程度はコントロールできるようになった。


 とはいえ、気を抜けば何かを壊すのは変わらない。


「……まあ、慣れるしかないか」


 


 慎重にスマホを操作する。


 


 画面に表示されているのは、口座の残高だ。


 


「……」


 


 しばらく見つめる。


 


 桁が多い。


 


「……12億」


 


 何度見ても、変わらない。


 


 気づけば、少し口元が緩んでいた。


 


「……あるな」


 


 当たり前だが、ある。


 


 それだけで、妙に安心する。


 


 金があるというのは、それだけで強い。


 


 今までなかったものが、ある。


 


 それだけで、気持ちが違う。


 


 ヒキニートにとって、金がないというのはわりと深刻だ。


 


 家にいる以上、生活はどうにかなっていたが、それは親がいるからだ。


 


 親がいなくなったらどうするのか。


 


 考えたことがないわけではない。


 


 考えて、やめた。


 


「……まあ、いいか」


 


 今は、もう考えなくていい。


 


 それだけで十分だった。


 


 スマホを置く。


 


「……取りに行くか」


 


 祠と石像だ。


 


 軽トラに乗り、町へ向かう。


 


 まずATMに寄り、現金を下ろす。


 


「……あるな」


 


 画面の数字を見て、少しだけ笑う。


 


 そのまま建築屋へ向かう。


 


「すいません」


 


 店先にいた男に声をかける。


 


「祠、お願いしてたやつです」


 


「おう、できてるぞ」


 


 用意されていた祠を確認する。


 


「二つで間違いないか?」

「はい、大丈夫です」


 


 現金で支払いを済ませる。


 


 軽トラに積み込む。


 


 次に石屋へ向かう。


 


「頼んでた石像、できてます?」


 


「ああ、これだ」


 


 小さな天狗と狐の石像。


 


「……それっぽいな」


 


 手のひらに収まる大きさだ。


 


 こちらも現金で支払う。


 


「……まあ、こんなもんか」


 


 軽トラに載せて家に帰る、もう昼か。


 


 食卓には、いなり寿司と蕎麦が並んでいた。


 


「いただきます」


 


 慎重に箸を持つ。


 


 いなり寿司が多い。


 


「……これ、持ってくか」


 


 お供えにちょうどいい。


 


 蕎麦を食べながら考える。


 


「酒もあった方がいいか」


 


 買ってくればよかったと一瞬思う。


 


 だが――


 


「……あったな」


 


 父親の酒だ。


 


 とっておきのやつが、確かあったはずだ。


 


「……少し借りるか」


 


 食事を終え、台所の奥から酒を取り出す。


 


 慎重に持つ。


 


 割ったらまずい。


 


 外へ出る。


 


「行ってくる」


 


 声をかけて、山へ向かう。


 


 いつもの場所に着く。


 


「……ここだな」


 


 祠を置く。


 


 二つ、並べる。


 


 石像を、それぞれの祠の中に置く。


 


 天狗と、狐。


 


「……まあ、こんなもんか」


 


 いなり寿司を並べる。


 


 コップに酒を注ぐ。


 


 少しだけ、考える。


 


「……一応、礼な」


 


 軽く頭を下げる。


 


「助かったのは事実だし、お金の心配もなくなった。ありがとうございます」



そう言って、深く頭を下げ直す。


 


 それから、少しだけ間を置く。


 


「……あと、この馬鹿力、なんとかならんか」


 


 ぼそっと愚痴る。


 


 返事はない。


 


 風が吹く。


 


 それだけだった。


 


「……まあ、いいか」


 


 立ち上がる。


 


 ついでに山菜を探す。


 


 千里眼で見ても、あまり見つからない。


 


「……もう少ないな」


 


 いくつか採るが、量は少ない。


 


「終わりか」


 


 季節の終わりだ。


 


 そのまま家に帰り、風呂上がり部屋で口座を眺める。


 


 数字を見て、にやけてしまう。


 


「……あるな」


 


 そのとき――


 


「あああああああっ!?」


 


 下から父親の悲鳴が響いた。


 


「……あー……」


 


 一瞬で理解する。


 


「バレたか」


 


 階段を下りる。


 


 居間で、父親が酒瓶を持っていた。


 


「これ、どうした!」


 


「ちょっと借りただけだって」


 


「借りただけじゃねえよ! これ高いやつだぞ! しかも封も開けてねえのに!」


 


 父親が本気で焦っている。


 


「まだ半分以上残ってるだろ。それ飲めばいいだろ」


 


「それはそれ! これはこれだ!」


 


 即答だった。


 


「ちゃんと新しいの買うから」


 


「お前、そんな金あるのか?」


 


「ある」


 


 即答する。


 


 父親が一瞬止まる。


 


「……は?」


 


「今注文する。すぐ来るから」


 


「ほんとか……?」


 


「ほんと」


 


 それだけ言って、さっさと階段を上がる。


 


 部屋に戻る。


 


「……危なかった」


 


 ベッドに腰を下ろす。


 


「……先に注文しとくべきだったな」


 


 慎重にスマホを取り出し操作する。


 


 酒を注文する。


 


 続けてスマホも注文する。


 


 店舗受け取りにする。明日受け取れる。


 


「……明日、取りに行くか」


 


 二時間はかかる。


 


「……まあ、いいか」


 


 画面を閉じる。


 


 ひと息つく。


 


 天井を見上げながら、そう思った。






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