帰還と水脈
桃の花が、ふっくらと綻び始めた。
陽の光の温もりが、いっそう愛おしく感じられる。
「……春だな」
小さく呟く。
子狐は出荷に出ている。
俺は
果樹を植える場所を広げるため、整地作業をしていた。
ユンボを動かしていると
ふっと影が落ちる。
カラスだ。
そのまま、ユンボに止まる。
「……ただいま」
短く言う。
「……おかえり」
返す。
見た目は変わらない。
だが――
「……少し変わったな」
思わず言う。
「迫力というか……なんだろうな」
「……一段階、上がった感じだ」
カラスが、わずかにこちらを見る。
「……分かるか」
そんな顔に見えた。
「見た目じゃ分からんが」
「……成長したな」
そう言っておく。
カラスは言う。
「修行の成果、見せる」
「……子狐が帰ってからにしろ」
そう返す。
「分かった」
カラスは飛び立ち
ロバの方へ向かった。
作業を続ける。
しばらくして
子狐が戻ってきた。
荷台には、果樹の苗木が積まれている。
「ただいま」
「おかえり」
声を交わす。
「カラスが帰ってきた」
「ロバのところにいる」
「修行の成果、見せるらしい」
「……見に行くか」
子狐がうなずく。
そのまま、ロバの小屋へ向かう。
カラスがいる。
声をかけ、そのまま移動する
ログハウスの前へと移動した。
カラスは、烏天狗の姿になる。
錫杖を持つ。
以前と同じように
地面に突き立てる。
抜く。
静かな時間が流れる。
一分ほど。
次の瞬間
水が勢いよく吹き出した。
やがて勢いは落ち着く。
カラスがこちらを見る。
「……どうだ」
「……おお」
思わず声が出る。
「すごいな」
「ありがとう、カラス」
少し大げさに言う。
秋田犬たちが、水たまりを走り回る。
「……おい」
「そのまま家に入るなよ」
ロバも、なぜか歯をむき出しにして喜んでいる。
「……なんでだ」
少し笑う。
カラスは言う。
「次、行く」
倉庫の方へ向かう。
カラスは上空を旋回する。
しばらくして
降りてくる。
烏天狗の姿になる。
動き回りながら
「……ここだ」
「ここがいい」
そう言って、錫杖を突く。
もう一度。
さらにもう一度。
抜く。
待つ。
その間
聞いてみる。
「さっきの水、枯れないのか?」
カラスは答える。
「水が無くなれば、枯れる」
「主とは違う」
「水源がある場所を突いているだけだ」
「……なるほどな」
納得する。
しばらくすると
土が湿ってくる。
さらに――
湯気が立ち始めた。
「……おい」
手をかざす。
「……熱いな」
カラスを見る。
「これ……温泉じゃないか?」
カラスが少し考える。
「……かもしれん」
さらに待つ。
三十分ほど。
温かい水が、ゆっくりと流れ出した。
だが――
それ以上、勢いは増えない。
「……こんなもんか」
子狐を見る。
「これ、どうする?」
「許可とか、いるんじゃないか?」
子狐はスマホを取り出す。
調べ始める。
「……いる」
「申請も、許可も必要」
「……そうか」
うなずく。
「任せる」
そう言う。
子狐は短く答える。
「分かった」
そのまま
豆腐の車に乗り、出かけていった。
リビングでくつろいでいると
子狐が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
軽く声を交わす。
子狐が報告する。
「温泉は、勝手に湧き出したことにした」
「……なるほど」
余計なことは聞かない。
「水質検査も出してる」
「温泉設備の業者にも依頼した」
「掘削から配管まで、全部やってくれる」
「あと、井戸の業者にも頼んだ」
「……全部か」
「全部」
即答だった。
「……任せる」
そう言っておく。
井戸は
すぐに完成した。
配管を通し、ポンプで汲み上げる。
蛇口から普通に水が出るようになっている。
「……便利だな」
小さく呟く。
温泉は――
掘削したところ、勢いよく湧き出た。
温度も高い。
そのまま工事が進む。
設備が組まれていく。
温泉の成分分析も終わった。
結果は
単純温泉。
「……よく分からんが」
まあ問題ない。
排水も整備した。
排水溝を作り、沢へ流す。
だが
それにも申請し許可が必要らしい。
「……面倒だな」
思う。
そのあたりは
全部、子狐がやった。
忙しそうに動いていた。
その結果
問題なく、すべて完成した。
「……すごいな」
素直に思う。
あとは使うだけだ。




