雪と水場
真夜中の静寂の中。
音もなく、粉雪が舞い始めていた。
クリスマスの朝。
目を覚ますと、外はうっすらと雪が積もっている。
「……降ったか」
小さく呟く。
昼前。
カラスと子狐と一緒に、祠へ向かう。
手には――
お供えと、プレゼント。
父と母には、昨日のうちに渡してある。
祠に着き。
石のテーブルの上に
ケーキと、いなり寿司を置く。
酒をコップに注ぐ。
準備はそれで終わりだ。
持ってきた弁当を広げる。
そのまま、三人で昼を食べる。
静かな時間が流れる。
しばらくして
気配が変わる。
天狗と九尾が現れた。
何も言わずに、いなり寿司を食べ
酒を飲み始める。
「……美味い」
様子を見る。
新しく渡したスマホは。
あまり興味がなさそうだった。
「壊れてないのに、いらない」
そんなことを言っている。
「……まあ、サブで使ってください」
「二台あっても困らないし、壊れるかもしれない」
そう言っておく。
しばらくすると――
天狗がこちらを見る。
「何か欲しいものはあるか」
「願いでもいい」
そう言われる。
「……」
少し考える。
そして――
「ここに、水場が欲しいです」
「井戸みたいなものがあれば」
そう答える。
天狗はうなずく。
「それならば――」
錫杖を手に取る。
祠の中心にある、少し窪んだ場所へ向かう。
そのまま――
錫杖の柄を、地面に叩きつけた。
鈍い音が響く。
錫杖が地面にめり込む。
天狗はそれを引き抜く。
しばらくして――
地面から、水が湧き出してきた。
「……」
思わず見入る。
天狗は軽く言う。
「水場だ」
「……すごいな」
小さく呟く。
お礼を言っておく。
「ありがとうございます」
そこで、気になったことを聞く。
「これ、枯れたりしませんか」
天狗は即答する。
「枯れぬ」
「湧き続ける」
「……それなら」
少し考えて
「倉庫のところと、ログハウスの近くにも」
「お願いできますか」
そう言う。
天狗はうなずく。
「ならば――」
錫杖をカラスに渡す。
「これを授ける」
「お前がやれ」
そう言った。
カラスは少し驚いたあと――
「ありがとうございます」
「やってみます」
嬉しそうに答える。
それから一時間ほど。
適当に過ごす。
「……じゃあ、帰ります」
一言だけ言う。
そのまま立ち上がる。
カラスと子狐は――
「スマホ、設定してから帰る」
そう言って残る。
「……任せた」
軽く手を振る。
雪の残る道を下り――
そのまま家へと戻った。
翌日。
カラスが言い出す。
「水場、作る」
「……もうやるのか」
少し驚く。
カラスと子狐は外へ出る。
俺もついていく。
場所を見て回る。
「……この辺か」
カラスが止まる。
「ここにしよう」
そう言った。
その瞬間――
カラスの姿が変わる。
烏天狗の姿になっていた。
その手には、錫杖。
「……おい」
思わず声が出る。
「変化できたのか?」
カラスは首を振る。
「違う」
「変化ではない」
「どちらも、本当の私の姿だ」
「……なるほど」
納得する。
「狐とは違うのか」
「そうだ」
短く答える。
カラスは、昨日の天狗と同じように
錫杖を地面に叩きつける。
だが――
何も起きない。
もう一度。
さらに何度も。
繰り返す。
だが、水は出てこない。
「……出ないな」
一時間ほど続けるが
結果は同じだった。
カラスは言う。
「……練習してくる」
そう言って、飛び立った。
そのまま、姿が見えなくなる。
「……さて」
見送ってから考える。
「……作業でもするか」
祠へ向かう。
到着すると――
「……水浸している」
すでに水が広がっていた。
ユンボを持ってくる。
そのまま、水路を掘る。
ユンボでできないところは、スコップで掘る。
近くの沢まで繋げる。
「……こんなもんか」
形はできた。
あとは――
U字溝を設置すればいい。
「……正月明けだな」
そう決める。
「……まあ、解決だ」
小さく呟く。
そのまま帰宅する。
その日。
カラスは、帰ってこなかった。




