表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/38

見えるものと、繋がる場所




 ほとんど眠れなかった。


 目を閉じても、数字が浮かぶ。

 当選画面が頭の中で何度も再生される。


「……12億」


 小さく呟く。


 現実感がない。だが、何度思い返しても結果は変わらない。


 当たっている。


 


 結局、朝まで起きていた。


 


 いつもの時間より少し早く、外に出る。


 


「行ってくる」


 


 居間に向かって声をかける。


「今日はちょっと遅くなる。朝と昼飯はいらない」

「分かった。気をつけてね」


 


 母親の声だけが返ってくる。


 


 外の空気は、少し冷たい。だが頭は妙に冴えていた。


 


 裏山へ向かう。


 


 昨日の場所まで来ると、足を止めて見渡す。


 


 木々がなぎ倒され、中心だけが何もない。昨日と同じ光景だ。


 


 だが、何かが違う。


 


「……分かるな」


 


 動物の気配が、はっきりと分かる。


 茂みの向こう、小さな動き。鳥の位置。遠くの音。


 意識しなくても、入ってくる。


 


「五感も鋭くなってるのか」


 


 試しに目を閉じるが、それでも分かる。


 どこに何がいるか。


 


「……便利だけど、落ち着かんな」


 


 目を開ける。


 


 とりあえず、片付けることにした。


 


 倒れた木をどかす。軽く持ち上げるだけで、簡単に動く。


「これくらいなら……壊さないか」


 慎重に置く。


 


 何本も運び、気づけばかなり片付いていた。


 


「……こんなもんか」


 


 中心の空いた場所はそのままだが、周囲はだいぶ整った。


 


 ひと息つく。


 


「……さて、能力か」


 


 予知と千里眼は、ある程度分かっている。だが――


 


「空間移動と、変化か」


 


 まだ試していない。


 


 周囲を確認する。人の気配はない。


 動物はいるが、それだけだ。


 


「……やるか」


 


 立ったまま、意識を集中させる。


 


 行きたい場所――少し離れた木の前を思い浮かべる。


 


 だが、何も起きない。


 


「……違うか」


 


 空間を渡る。空間と空間を繋ぐ。


 


「……繋ぐ、か」


 


 もう一度、自分のいる場所と行きたい場所を意識する。


 


 その間を通すように、繋げる。


 


 ――次の瞬間、視界が切り替わった。


 


「……あ」


 


 目の前に、さっき見ていた木がある。


 


「……出来た」


 


 ゆっくり振り返ると、元いた場所が少し離れたところに見える。


 


 もう一度試す。戻る。


 


 出来る。


 


「……なるほどな」


 


 何度か繰り返すうちに、感覚が分かってきた。


 


「見えてる場所なら……いけるな」


 


 ふと、思う。


 


「……千里眼」


 


 遠くを見る。


 


 少し離れた場所が、はっきりと見える。


 


「……じゃあ」


 


 そこをイメージし、繋ぐ。


 


 ――移動する。


 


「……は?」


 


 成功した。


 


「……これ、最初からやればよかったやつか」


 


 小さく呟く。


 


「……まあ、いいか」


 


 気を取り直す。


 


「次は……変化」


 


 意識する。


 


 小さな動物を思い浮かべる。


 


 ――視界が低くなる。


 


「……うわ」


 


 体が小さい。軽い。


 


 だが――


 


「……弱いな」


 


 元に戻る。


 


「サイズで変わるのか。力も、重さも……感覚まで違う」


 


 納得する。


 


「大きいのは……やめとくか」


 


 なんとなく、嫌な予感がする。


 


 空を見上げる。


 


「……山菜でも採るか」


 


 千里眼で探すと、すぐに見つかった。


 


 場所を確認し、空間移動。採る。


 


 また移動して、採る。


 


 繰り返す。


 


「……便利すぎるな」


 


 あっという間に、そこそこの量になった。


 


 あらかた採り終えて、空を見上げる。


 


「……こんなもんか」


 


 そのまま帰るつもりだったが、ふと足を止めた。


 


「……祠、いるよな」


 


 あの二人のことを思い出す。


 助けられた形にはなっている。


 何もしないのも、なんとなく落ち着かない。


 


 山を下り、そのまま家には戻らず軽トラの鍵を取る。


 


「借りるぞ」


 


 誰に言うでもなく呟いて、エンジンをかけた。


 


 町まで出る。


 


 まず向かったのは、建築屋だった。


 


「すいません」


 


 店先にいた男に声をかける。


 


「祠みたいなやつ、作れます?」


 


 男が少しだけ考える顔をする。


 


「これぐらいのサイズで、こんな感じのやつがいいんですけど」


 


 手で大きさを示しながら言う。


 


「簡単なものでいいなら、いけるぞ」


 


「じゃあ二つ、お願いします」


 


 細かいことは決めず、だいたいの大きさだけ伝える。


 


「いつ頃になります?」

「急ぎじゃなきゃ、数日で用意できる」


 


「それでいいです」


 


 話を終えて、店を出る。


 


「……あと石か」


 


 次に石屋へ向かう。


 


 店の奥に並んだ石像を見て、少しだけ考える。


 


「小さいやつ、作れます?」


 


「何のだ?」


 


「天狗と……狐で」


 


 男が一瞬こちらを見る。


 


「九尾か?」

「まあ、そんな感じで」


 


「大きさは?」

「手のひらくらいで」


 


「できるぞ。少し時間はかかるが」


 


「お願いします」


 


 それだけ伝えて、店を出る。


 


 軽トラに戻る。


 


「……なんか、普通に頼んだな」


 


 さっきまで山であれだけのことがあったのに、妙に現実的なことをしている。


 


 少しだけ笑う。


 


「まあ、いいか」


 


 エンジンをかけ、そのまま家へ戻る。


 


「ただいま」


 


 玄関で声をかける。


「おかえり」


 


 母親の声が返ってくる。


 


 山菜を渡す。


 


「今日はちゃんと採ってきたんだね」

「まあな」


 


 それだけ言って、部屋に戻る。


 


 扉を開け、慎重に中に入る。


 


「……さて」


 


 やることは、まだある。


 


 金のことも。能力のことも。


 


 全部、これからだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ