夏と放牧
見上げるほどの入道雲。
抜けるような青空。
肌を焼くような日差しに、夏の力強さを感じる季節になった。
――だが。
エアコンの効いた部屋の中で、それを眺めている。
「……暑いな」
外に出る気はない。
草刈りは一通り終わっている。
だが――
「……また秋にやるのか」
考えるだけで、面倒になる。
部屋の中でぼやく。
「……山羊とか、羊でも飼うか」
草を食べてくれる。
そんな動画を見ながら考える。
「……でも放し飼いは無理だよな」
「どっか行くな」
現実的ではない。
そのとき――
「ねー」
子狐が声をかけてくる。
「放し飼いできる」
「……は?」
間を置く。
カラスが言う。
「話せばいい」
「言い聞かせられる」
「契約もできる」
「眷属にもできる」
「言うことは聞く」
「……まじか」
思わず言う。
「お前らすごいな」
素直に感心する。
「……頼む」
深く頭を下げる。
「小遣い、倍にする」
条件もつける。
子狐がぼそっと言う。
「……もう草刈りしたくない」
「……だよな」
納得する。
そこで――
ふと思いつく。
「なあ、鶏とかもいけるか?」
ついでに聞いてみる。
「あと――食ったりしないよな?」
子狐を見る。
「失礼」
「そんなことしない」
即答だった。
「ちゃんとお菓子があれば」
「……そうか」
安心する。
カラスが言う。
「鶏でもいける」
「……よし」
決まった。
スマホを取り出す。
すぐに検索する。
山羊。
羊。
鶏。
「……買うか」
小さく呟いた。
「……いや、待てよ」
少し考える。
鶏は小屋がいる。
卵は小屋で産んでほしい。
山羊も羊も、小屋は必要だ。
「……囲いはいらないか」
放し飼いにするつもりだ。
だが――
「……襲われたりしないか?」
気になる。
子狐に聞く。
「結界、張れるか?」
「放牧する範囲に、害獣が入らないように」
子狐は少し考える。
「できるよ」
「今、田畑にしてるところもあるし」
「追加でいける」
「……負担は?」
「問題ない」
「お菓子があれば」
「……そうか」
安心する。
子狐が付け加える。
「あと、車が欲しい」
「豆腐屋の車」
「……」
一瞬止まる。
「……分かった」
「探しといてくれ」
「見つかったら買いに行く」
「うん」
これで決まった。
スマホを取り出す。
建築屋に電話をかける。
「小屋、作れるます?」
事情を説明する。
少し間があって――
「今はちょっと忙しくて」
「職人2〜3名体制なら、そちらに伺わせることが可能。」
「一気には無理無理ですね」
「時間かかっていいならできますよ」
「どれくらいかかります?」
聞く。
「整地と基礎は別で――」
「このサイズの鶏小屋を一つ」
「山羊の小屋を二つ」
「羊の小屋を二つ」
「それと餌や道具の小屋をそれぞれ一つ」
「……二十日から三十日くらいかな」
「……いけるな」
そう思う。
「それで頼みます」
「では、後ほど現地を確認に伺いますね。」
「わかりました。」
電話を切る。
「……準備はできたな」
小さく呟いた。
翌日。
子狐が言ってくる。
「見つけた」
「……何を?」
「車」
スマホを見せてくる。
サイトを確認する。
「……高いな」
古い車だが、某漫画の影響で人気がある。
値段も上がっている。
「……場所は」
確認する。
「……ちょっと遠いな」
少し考える。
「……まあいいか」
「空間移動で、今から行くか?」
子狐が言ってくる。
「一人で行ける」
「……そっか、今日、契約する?」
「すると思う」
「……分かった」
必要なものを用意する。
マイナンバーカード。
通帳。
印鑑。
免許。
財布。
まとめて渡す。
「印鑑証明いるから、コンビニで取れ」
「わかった」
「準備できてる」
子狐はすでに調べていたらしい。
愛車の四駆のキーを渡す。
「……気をつけてな」
「ちゃんと車、確認して試乗もしろよ」
子狐は軽くうなずく。
「騙されたら呪う」
「……こわ」
思わず呟く。
「……いってらっしゃい」
子狐はそのまま出ていった。




