新緑と出荷
見渡す限りの風景が新緑に包まれている。
柔らかい日差しが心地よい。
この時期になると――
田舎の道には、大きな鯉のぼりをよく見かける。
「……季節だな」
小さく呟く。
軽トラで移動中、今朝のことを思い出す。
日が昇りはじめる。
カラスと子狐は裏山へ向かった。
キノコや山菜の採取だ。
その間に――
俺は筍を掘る。
慣れた手つきで掘り出していく。
「……こんなもんか」
ひと区切りつける。
しばらくして、カラスと狐が戻ってくる。
収穫したキノコや山菜を広げる。
土やゴミを取り除く。
袋詰めをする。
ラベルを貼る。
箱に入れる。
「……よし」
出荷の準備が整って、出発した。
今日の出荷は、俺が担当することにした。
軽トラに荷を積み、道の駅へ向かう。
到着して、作業を始める。
品出し、値札、並べる。
やることは分かっている。
だが――
「……」
人が来て、気軽に声をかけてる。
知り合いに声をかけているみたいに。
そう俺に声をかけているのだ。
「おはよう」
「お見合いとかどう?」
「昨日はどうも、これお礼に貰って」
「うちの子供がね」
「また持ってきてね」
「これうちの商品の漬物もって帰って」
「これいいね、どこで採れたの?」
「また持ってきてね」
知らない人ばかりだ。
「……ああ、どうも」
愛想笑いをして、適当に返す。
正直――
「……疲れるな」
そう思う。
手早く作業を終わらせる。
確認する。
問題ない。
「……よし」
すぐにその場を離れる。
軽トラに戻る。
「……やっぱり向いてないな」
「……山で一人でいるのがいい」
小さく呟く。
子狐は、これを普通にやっている。
むしろ――
うまくやっている。
「……すごいな」
素直に思う。
子狐に聞いた話では――
すでに顔見知りも増えているらしい。
「……友達か」
少し考える。
「……俺には無理だな」
そう結論づけた。
その日の夜。
親父が話しかけてきた。
「最近、上手くやってるみたいだな」
「評判いいぞ」
嬉しそうに話している。
「……」
嫌な予感がした。
「……やばいな」
心の中で呟く。
急いで食事を済ませる。
そのまま部屋に戻る。
子狐と向き合う。
「……ちょっといいか」
「なに?」
子狐はスマホをいじっていたが、こちらに向く。
人付き合いも上手く、友達もできている。
楽しそうだ。
だが――
「……ちょっとまずい」
正直に言う。
「お前、人付き合いが上手いし優秀すぎる」
「……そう?」
「そうだ」
即答する。
「俺を演じてるのに、優秀なんだよ」
「……あー」
少し納得した顔をする。
「だから――」
少し考えてから言う。
「もうちょい、普通でいい」
「人付き合いも苦手っぽく、コミュ障で」
「ちょっと頼りない感じで頼む」
子狐は黙って聞いている。
「……あんまり出来ると」
「委員会や役員とか回ってきたり、推薦されたり」
「地区とか町とか、組合とか」
「消防団とか勧誘があるかも、どう?やらない?とか」
真顔で言う。
「……それは嫌だ」
子狐が素直に言う。
「だろ」
うなずく。
「だから、ほどほどで頼む」
「……わかった」
子狐はうなずいた。
「……すまんな」
小さく言う。
「ごめんな、こんな俺で」
ちょっと申し訳なく思った。




