竹藪と猪
如月。
一番寒い時期だ。
今日から、竹藪の整備に取りかかる。
間伐をして、光を入れる。
古い竹を伐り、道も作っていく。
切った竹は粉砕機にかけて細かくし、地面に撒いていった。
「……しばらくはこれだな」
竹藪の整備を進めながら、春の筍を待つ。
ある日――
作業中に、ふと気配を感じた。
その方向を見る。
自然と体が強張る。
カラスが近くに降りてきた。
「でかいのが来る」
「……まじか」
少し身構える。
しばらくして――
大きなイノシシが現れた。
こちらに気づいていないのか、ゆっくりと近づいてくる。
「……でかいな」
とにかく大きい。
百メートルほど先まで来たところで、イノシシがこちらを向いた。
目が合い、睨み合いになる。
「来るぞ」
カラスが言う。
「頑張れ」
そう言って飛び立ち、安全な場所へ移動した。
「……おい」
思わず呟く。
普通のイノシシなら、ここで逃げていく。
だが――
今回は違った。
イノシシは動かない。
いや、むしろ――
様子を見ている。
「……百五十キロはあるな」
それ以上かもしれない。
逃げようと思えば逃げられる。
空間移動もある。
だが――
「……ここに居座られると困るな」
作業ができなくなる。
考えている間にも――
イノシシが動いた。
一気に距離を詰めてくる。
「……来た」
反射的に空間移動で逃げる。
祠へ移動した。
心臓がバクバクしている。
すぐに気配を探る。
イノシシは――
うろついている。
こちらを探しているのか。
「……しつこいな」
しばらくして、カラスが祠にきた。
「おい、やれよ」
「あそこは、死闘の場面だ」
「晩飯の牡丹鍋が」
即答する。
「……無理だろ」
「中型犬ぐらいのサイズならまだしも、あれは無理だ」
カラスが言う。
「あいつここに居座る」
「ここ根城にされる」
「……そうなんだよな、困るな」
そのとき――
「あー、来てるぞ」
カラスが木の上に飛び去る。
「お前なら楽勝だ」
軽く言ってくる。
「……」
少し考える。
標的にされたままも面倒だ。
「……やるか」
決めた。
武器は、腰のナタだけ。
腰袋の中を探す、ねじシャックルがあった。
クレーンの玉掛け用に入れていた、金属で丈夫だ。
少し大きめだがいいか。
それを握る。
気配を探る。
そして――
イノシシが、こちらを認識できる距離まで来た。
イノシシが鳴く。
イノシシがどこか嬉しそうだと思った。
「……悪いな」
躊躇はしない。
力いっぱい投げる。
――次の瞬間。
イノシシに穴が空いた。
向こう側が見える。
そのまま、イノシシは倒れた。
「……」
自分の手を見る。
少しだけ、笑った。
「……やりすぎたな」
小さく呟く。
そのまま倉庫に戻り。
小型ユンボを持っきて、深く穴を掘り。
倒れたイノシシを埋める。
「……こんなもんか」
何もなかったように整地する。
作業を終えて。
家に帰る。
風呂に入る。
飯を食べる。
部屋でくつろぐ。
カラスが一言。
「あーあ、牡丹鍋食べたかった」
「……あれじゃー無理だろ」
そう返して、寝転んだ。




