豊作
今年の夏も猛暑らしい。
雨も少なく、野菜の収穫量が減少しているとニュースで言っていた。
だが――
「……うちは違うな」
我が家の周りでは、そうでもない。
暑いのは確かだ。
だが、定期的に通り雨が降る。
野菜もすくすく育っている。
むしろ、豊作だった。
「……なんか、ズレてるな」
世間と状況が合っていない。
少し考える。
視線を横に向ける。
子狐が、いつものようにスマホでゲームをしていた。
「……おい」
「何」
「この辺だけ雨が降って、作物が育ってるの、お前か?」
聞いてみる。
子狐が、ちらっとこちらを見る。
「そう」
「……やっぱりか」
納得する。
「結界張ってる」
「害獣来ないように」
「雨も降らしてる」
「豊作になるように」
さらっと言う。
「……お前」
思っていたより、ちゃんとしていた。
今まで、ただのヒキニートみたいなものだと思っていたが――
「……すごいな」
素直に言う。
そして、軽く頭を下げる。
「悪かった」
「ちゃんとやってたんだな」
子狐が、少しだけ得意そうにする。
口元が緩んでいた。
「……そういえば、たまに踊ってたよな」
「豊作のため」
「……あれ、そういう意味か」
見かけたことはあった。
何をしているのか分からなかったが――
「……そういうことか」
妙に納得する。
正直、ちょっとかわいそうなやつだと思っていた。
違ったらしい。
「……できるじゃねえか」
そう言うと、子狐がニヤニヤする。
スマホをいじりながら、どこか誇らしげだった。
「……見直した」
小さく呟く。
この状況なら――
「……秋の米、すごいことになりそうだな」
そう思った。
子狐を褒めたあと。
少しして、こちらを見てくる。
「……お願いがある」
「……なんだ」
嫌な予感がする。
「フリマ」
「使いたい」
「……フリマ?」
聞き返す。
「あなたのスマホに入ってるやつ」
「あれのアカウント」
「使いたい」
「……ああ」
登録だけして、ほとんど使っていないアプリだ。
少し考える。
「何するつもりだ?」
先に聞く。
子狐が少し身を乗り出す。
「山で採ってきたもの、売る」
「それで課金する」
嬉しそうに言う。
「……ハマってるな」
思わず呟く。
だが――
「……まあいい」
完全に否定するほどでもない。
「持ってきたら、俺が出品してやる」
そう言っておく。
子狐が頷く。
「分かった」
そのままスマホをいじり始める。
少し考える。
「……でもな」
子狐を見る。
「そんなちまちま売るより、別のやり方もあるぞ」
「何」
「SNSで発信して、人集めたほうが稼げる」
一瞬、子狐の動きが止まる。
「……」
まじか、みたいな顔をした。
「……なるほど」
次の瞬間――
すごい勢いでスマホを操作し始めた。
「……食いついたな」
小さく呟く。
「耳と尻尾、そのままでもバズりそうだけどな」
「……でも子供の姿はやめとけよ」
「警察沙汰とかはごめんだ」
子狐の動きが一瞬止まる。
「あと、場所も特定されるなよ」
「ここ来られても困る」
「……分かった」
素直に頷く。
「変化できるんだから、コスプレとかにしとけ」
「衣装代もかからんだろ」
「……それ、いい」
また勢いよくスマホを操作し始めた。
少し付け加える。
「最初は広告くらいにしとけ」
「アフィリエイトは今はやめとけ」
「企業案件はやめとけ、撮影会とかも駄目だ」
トラブルになるのが目に見えている。
子狐がこちらを見る。
「……分かった」
「収益化できるようになってから、口座とか税金は考えればいい」
「あとアカウントは、俺の情報で登録しときな」
「今はそこまで気にするな」
軽く言う。
「……うん」
素直に頷いた。
「……忙しいやつだな」
横からカラスが口を挟む。
「俺も出品したい」
「……お前もか」
ため息をつく。
「普通の物ならな」
変なものを出されても困る。
「分かった」
カラスが頷く。
ふと思い立って、スマホを手に取る。
タブレットと林檎ブックを注文しておいた。
自分のPCはあるが、型落ちだ。
あいつらに使わせるには、少し厳しい。
「……まあ、必要経費か」
小さく呟く。
部屋の中を見る。
カラスは、酒をちびちび飲んでいる。
子狐は、相変わらずスマホをいじっていた。
「……ほんと、増えたな」
やることも、使う金も。
だが――
「……まあ、いいか」
悪くはなかった。




