第1話 「神交代のお知らせ」
天界は今日も平和だった。
正確に言えば、やる気が無かった。
雲でできた円卓を囲み、サロンパス12神が揃っている。
本来なら世界の行く末を決める、神聖極まりない会議——
のはずだった。
「……ゴホン」
咳払い一つで場を支配したのは、
威厳だけは一級品の存在——絶対神ゼアス。
「諸君。
本日は重要な議題がある」
神々が一斉に身構える。
“重要”という言葉に、嫌な予感しかしないからだ。
ゼアスはゆっくりと立ち上がり、
腰を押さえながら言った。
「腰が痛い」
沈黙。
「……え?」と誰かが呟いた。
「いや、冗談ではない。
ここ数百年、ずっと痛い。
もう限界だ」
「つまり?」とエルメスが眉をひそめる。
ゼアスは威厳たっぷりに宣言した。
「神を交代する」
——ざわっ。
「ちょ、ちょっと待て!」
真っ先に声を荒げたのはメラだ。
「交代って、誰がやるんだよ!」
「私は嫌だぞ」
コスイドンは腕を組み、即座に距離を取る。
「リスクしかない」
「私は反対でしたからね?」
まだ何も決まっていないのに、
セメテルは早くも責任回避の布石を打つ。
「え? いま何の話?」
ハテナは完全に置いていかれていた。
「予言では……えーと……」
アホロンは羊皮紙を逆さに読んでいる。
アルイテミスはすでに半分寝ていた。
へーパイロットは完全に寝ていた。
「ふん、私こそが適任だが」
アキレスは胸を張るが、
誰一人賛同しない。
「じゃあ私がやります!」
アフロが手を挙げると、
全員が同時に一歩下がった。
「……公平に決めよう」
ゼアスが言った。
「かみだくじで」
——沈黙、再び。
「……あみだくじ?」
エルメスが確認する。
「そうだ。
神々、天使、見習い天使、
全員参加だ」
その言葉を聞いた瞬間、
天界の片隅で雑巾を絞っていた
一人の見習い天使が、嫌な予感に震えた。
「……え?」
名前はオチル。
掃除、配膳、雑用、謝罪担当。
存在感は限りなくゼロ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
天使総括ヨクミテルが声を上げる。
「見習い天使まで含めるのは——」
「公平だろ?」
ゼアスは威厳ある笑顔で言った。
「差別はいけない」
——その言葉の裏に
“自分が当たらなければいい”
という本音が透けて見えるのを、
オチルは感じ取っていた。
数分後。
雲に描かれた、巨大なかみだくじ。
神々も天使も、恐る恐る線を辿る。
オチルの指は震えていた。
「……お願いです……
お願いですから……」
線の先。
そこにあったのは——
「神」
「……え?」
オチルの声は、あまりにも小さかった。
だが、静まり返った天界には
はっきりと響いた。
ゼアスは一拍置いて、
満足そうに頷いた。
「決まりだな」
「いやいやいやいや!!」
オチルは叫んだ。
「ボク、見習いですよ!?
まだ羽も半人前で——」
「大丈夫だ」
ゼアスは肩を叩く。
「神とは、なってみるものだ」
神々は一斉に立ち上がり、
まるで嵐が去るように去っていく。
「じゃ、後は頼んだ」
「質問はエルメスへ」
「私は最初から反対だった」
取り残されたのは、
玉座の前に立つ一人の天使。
ヘタレな見習い天使、オチル。
彼は震える声で呟いた。
「……ヘタレの俺が神になったら、
世界は……どうなっちゃうんだ……?」
——こうして世界は、
最も頼りない神に託された。




