7話 夢の中 どぶさらいの方から拒否される
むくりと起きる。
窓から見える景色に、車や自転車なんて物はない。
窓の外には、車も自転車もない。
石畳を歩く人の足音、馬車の車輪が土をきしませる音が朝の静けさに溶け込んでいる。
窓を開けるとふわりと、木々の匂いと焼きたてのパンの香りが入り込んだ。
まるで『おはよう』と誰かに言われたような気がした。
鏡の前に立つと、現実の僕とは似ても似つかない、華奢で可愛い女の子が立っていた。パジャマ代わりにしている白いチュニックドレスのレースのひだが風で揺れ、金の髪が光を受けてきらめく。青い瞳の奥には、女の子らしい柔らかさが宿っているように見えた。
現実とは違う……華奢で可愛い。
別に、女の子になりたい、という気持ちはない。でも、本来ならば手の届くことのない、触れることすらできないその姿に、胸の奥が熱くなる。
ああ……今日も、この夢の続きができるんだ
誰かに優しくされること、認められること。
そのどれもが、僕の心の奥で足りなくて、心から欲しがっていたのかと、気づく。
楽しみの方が強くて、思わず息が弾んだ。
ーーー
眉間に眉を寄せたギルドの受付のお姉さんが
「あなたに、どぶさらいの仕事は紹介させられませんっ!」
朝一番でギルドへ向かった僕に、受付のお姉さんは眉間にしわを寄せて、窓ガラスが震えるほどの声を響かせた。
周囲の冒険者たちが「なにごと?」とこっちを向く。
それだけでも恥ずかしいのに、そこから聞こえてきた声がさらに追い打ちをかけてくる。
「あー、あの子。どぶさらい頑張ってるけど……下着姿でやってた子ね」
「見たかったなー」
「何言ってんのよバカ!」
パンッ、と音がして、調子に乗った男性冒険者が女性仲間に後頭部をはたかれる。
「二日前に言いましたよね? 下着姿でどぶさらいは禁止、って。女の子があんな格好しちゃダメなの。わかるまで別の仕事!!」
いや、汗で服が張り付いてキツイのに、服を着ろだなんて……それに所詮夢なんだから別にいいじゃん、そう思うけれど受付のお姉さんは頑なに拒絶した。
明晰夢って、自分で夢を操作できると聞いたんだけどなあ。
そういうわけで、僕は渋々、『ネコ探し』の仕事を選んで街の中を走り回ることとなったのだ。
道ゆく人に、鈴付きの首輪をつけた白くて鼻の周りだけ茶色の猫を見なかったか聞いて回る。
現実世界ではできないだろう。仕事でも見知らぬ人に声をかけるのは恥ずかしい。それに現実世界なら僕の容姿は底辺の人間だ。デブの13歳の男の子の話なんて、聞いてもらえないに違いない。特に女性に声かけたらナンパと思われるかもしれない。
でも、夢の中の女の子なら、僕は少し、いやそれ以上に足を止めて真面目に聞いてもらえる気がした。
僕がこんな女の子に声をかけられたら、鼻を伸ばして話を聞いているだろうし、女性も普通に足を止めて話を聞いてくれるに違いない。
そう思ったとおり、僕の声に街の人は足を止めた。
道ゆく、お姉さんたちや子供、大工のおじさん、野菜や果物を売る店員さん、酒場の眠そうなお姉さん、衛兵さんに同業の冒険者たち。
僕が恥ずかしくて、少しどもりながら声を出していたら、
「白い猫? 昨日はあっちで見たな」
「慌てなくていいよ。ゆっくり話して」
「こんな可愛い子が探してるなら、協力してあげたいな」
だとか笑いながら話を聞いてくれた。
みんな優しく答えてくれた。
その度にやわらかい声が胸に染み込んでくる。
多分、今の僕が女の子として可愛いからなのだろう。
そう思うと、くすぐったくて、少し誇らしかった。
同時に本当の自分を騙して近づいていることに気付いて、自分のことが嫌いになった。
本当の姿を隠し、可愛い女の子の顔を借りて、人に優しくしてもらっている……クズ野郎だ……
そう思うと、嬉しさの隣に小さな罪悪感が生まれた。
教えてくれた場所を巡る。
いろいろな猫とすれ違うが、目的とする白い子猫は見つからない。
街の隅々を走り回りながら探し、迷路みたいな裏路地をさまよいながら歩き、隙間を除くがやはり見つからない。
夕暮れになり、白い子猫はとうとう見つからなかった。
アニメや漫画なら簡単に見つかっていたのに……実際は簡単に見つからないもんなんだ……夢の中なのに。
ーーー
薄く暗くなり、これ以上の検索は無理だと思い、冒険者ギルドへ、トボトボと歩き、扉を開ける。扉がいつもより重く感じた。
冒険者ギルドの中はもう閑散としていた。多くの冒険者たちはとっくに仕事の結果報告をあげてお酒でも飲みに行ったのだろう。
仕事の結果を伝えに受付へ向かう。事務作業をしているのだろう、いつもの受付のお姉さんは机に目を落としながらペンを紙の上に滑らせていた。
受付のお姉さんの前に立つと、彼女は僕に気付き、ふっと柔らかく微笑んだ。
「おかえりなさい。たくさん聞き込みして走り回ってたって聞いたわ。ケガしてない?」
そのまなざしがあまりに僕には優しすぎて、胸が少しドキドキしてしまう。
「だ、大丈夫です。でも……猫、見つけられませんでした」
「仕方ないわよ。猫って隠密スキル持ってる子多いからね。検索や看破のスキルない子が見つけるのは難しいの」
動物にもスキルがあるなんて知らなくて、思わず。えっ、と声を漏らした。
受付のお姉さんは説明を続ける。その声は、どこか僕だけに優しい。
「失せ物の依頼はね、見つからない可能性も織り込み済みなの。ちなみに本当に見つけなきゃいけない場合の依頼は個人依頼で出されるの。だから今日の分、ちゃんと払うわよ。はい、一日分。6000ゴールド」
「えっ……失敗しても、ですか?」
「あなた、真面目に頑張ってくれたじゃない。
手を抜いた冒険者なら、依頼主に怒鳴り込まれて面倒なのよ?
でもあなたなら、ちゃんと探してくれたってわかるわ」
僕に向けられる優しさに、夢の世界が急にもっと大切に思えてきた。
クエスト終了
私の白い子猫を探して(失敗case2)
できることは一生懸命やったけど、未達成
報酬 exp+13 筋力+1 俊敏+1 知力+1 検索Lv1
特別クエスト終了
知らない人50人に声をかける
報酬 知力+2 魅力+2 話術Lv1
名前:マコト アズマヤ
レベル4
性別:女
EXP:1 / 150
HP:40/ 46
MP:22 / 26
身長:150 cm
体重:69.0kg
筋力:10→13
魔力 : 7→10
敏捷:7→9
知力 : 5→8
耐久:8→9
魅力:5→8
スキル : 格闘Lv1、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性lv1、睡眠耐性Lv1、検索Lv1、話術Lv1
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今日はこれで終わりです。
明日もまた21時ころに投稿します




