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30話 夢の中 籠城に向けて

 朝起きて、時がゆっくり流れているような木目調の宿の部屋から出てランニングをする。

 疲れすぎないように適度にゆっくり走り、素振りをする。教えてもらった素振りを思い出しながら、父さんの型を丁寧に写すことを心がけていると、かちりとなにかがハマったような気がした。

 その瞬間、手に伝わる重みがふっと消えた。力で振るのではない、重さを速さに変える流れに乗った感覚。


 シュンッ


 素振りに使っていた鉄の棒から空気を切り裂く音が響いた。

 もう一度、丁寧に型をなぞるように、そして勢いは殺さないように振る。


 シュンッ


 木刀で起きる音とは違うけれど、この音だ。多分、木刀で同じような振りをすれば、きっと、父さんと同じような空気を切る音が聞こえるに違いない。

 だけど、何度も父さんの素振りを間近で見てきて、真似ても何百や、千本以上の素振りを超えてやってきた僕にはわかる。これは、父さん達のような剣士の背中に一歩近づいただけの音なんだ。

 でも、できたんだ……とりあえず、夢の中だけど。

 僕は宿の床に転がり、片腕を天井に突き上げた。




 朝食を食べ終えて、食器をキッチンの方へ持って行く。キッチンの奥でユキさんが掃除道具を持って、地下室らしき場所に降りていくのが見えた。忙しそうなので声をかけずに、食器だけ置いてその場から立ち去った。

 治療院に向かう。すると街の外の方へ向かう人たちとすれ違う。大きな木材や金属の尖った棒やスコップを持っていた。

 顔色は暗かった。


 治療院にたどり着き、シグレ院長から昨日と同様に軽症の治療を一人で行うように指示され、事務仕事も一人でこなすように指示された。アカリさんは薬の材料を揃えるために街の内外を走り回っていると言われた。

 治療院はお金が儲かる、そうアカリさんは冗談混じりに悪い顔を作って言っていた。それなのに薬の材料を揃えるのに苦労している!

 ずっと、喉の奥に小骨が刺さっているような違和感があった。それが、シグレ院長の『薬の材料が、揃わない』という言葉をきっかけに、雪崩のように崩れ落ち、一つの形を作り上げる。




 薬の材料がお金を出しても買えないほど、薬の材料が街にない。

 冒険者達が、軽症なのに治療院を使っていた人が多く、重症者も多い。

 アカリさんにシグレ院長ずっと薬を作るように指示していたこと。

 今日、治療院に向かう途中の土木作業をしようとしていた人たち……ずっと外壁の工事の話は聞いていない……急遽の工事、補強や堀を深くしたりするものでは……。

 宿屋の贅沢シチュー。腐りやすいものを消費してしまおうという趣旨で、かつ保存の効く燻製を作っていた理由はただの気のせいか?

 なぜ、領主の館の中で泊まり込みで働く文官のレオナさんが、館から抜け出して、物を溜め込むように夫のマッスルさんに勧めていたか。

 マッスルさんは僕に困ったことがあれば宿屋に駆け込んでくるよう勧めたのか。

 マッスルさんとキノコ狩りのクエストをこなした時、なぜか妙に魔物が少なかったのか。

 それなのに、妙に森の奥から見られているような気配があったのか。


「マコト、急患だ! 手を貸せ」


 爪で切り裂かれ血だらけの冒険者3人が運び込まれる。

 まだ、始業時間じゃない。


 知恵のある魔物の集団がこの街を攻めている?




 治療院には重症の冒険者が昨日の倍訪れた。

 それらをさばき切り、日が落ちた。

 重症者の治療も回復魔法だけで治療できるものは任された。治療院の仕事で、色々と見た目の耐性はついたと思っていたが、内蔵がぼろりと腹から飛び出している姿には込み上げるものを感じた。

 衛生を理由に何度も生活魔法のクリーンをかけるが血の臭いが鼻の奥に染みついたままだった。


「マコト、ここ最近、仕事に慣れたみたいだな。かなり動きが良くなったし、余裕ができたからか気が利くようになったな」


 僕自身はそんなつもりはなかった。でも、シグレ院長が僕を褒めることはほとんどなかったので、認められたことに嬉しさを感じた。

 シグレ院長がポケットから葉巻を出した。葉巻は燻した煙を吸うとMPを回復させる薬草で作られているそうだ。ナイフで先端を切り、生活魔法の点火を使って赤い火を葉巻に灯す。揺らぐ煙が天井に上り消えていく。

 シグレ院長は天井の消えていく煙を見つめながら、ため息を吐いた。


「俺は今日当直(※当直=交代制勤務で翌日の朝まで業務に就くこと。夜勤とも言われます)でここに残る。マコト、お前は時間外だけど仕事だ。これからここにある薬品をアカリと一緒に持てるだけ持って冒険者ギルドの医務室に行け。その後、受付に施錠してもらって直帰。そして、お前は明日からそっちで仕事だ。

 あっちでちびっ子のスチュアートの傘下に入って指揮を伺え」


「えっ、どういう……」


「治療院の拠点は明日から冒険者ギルドの医務室にする。領主とギルドから要請があった。

 できるだけ正門に近いところで治療する。治療が間に合わないやつが出てきている」


 間に合わないって……、と口に言いかけそうになりやめた。それは、死人が出たと言うことだ。それをはっきり口に出せば、気持ちはもっとどんよりする。


「マコト、お前は街の噂には疎いような気がするけど、森から鬼人が湧いているのは知っているか?」


僕は横に首を振った。


「マジか……。鬼人はゴブリンに似ているが、肌は赤く、一本のツノが生えている。統率されていて集団戦ができる。しかも、個体としての力もあるし知能もある。魔物だけど、人間との戦闘に近い。だから、魔物に精通している冒険者泣かせの魔物なんだ」


 シグレ院長は葉巻の煙を吸い込み、深く息を吐いた。


「まあ、ギルドにはたくさん冒険者がいるだろうから大丈夫だと思うが、鬼人が入り込んできた時は普通の魔物と思って戦うなよ」


 シグレ院長の言葉が、冷たい水のように背筋を伝う。 獣の暴力ではない。意思を持ち、弱点を狙い、連携して命を奪いにくる知性。それと命をかけて戦わなければならないだなんて……。

 気持ち悪さと恐怖が僕の体を包んだ。




ーーー

クエスト終了

治療院で見習いとして回復魔法に特化して仕事をする(繁忙)

exp +100 MP +10 魔力+3 知力+1 耐久+1

ーーー

クエスト終了

減量目的のランニング

体重-1.0kg 耐久+1

ーーー

クエスト終了

刀術のトレーニング(素振り)

exp +10 HP+1 筋力+1 俊敏+1

ーーー

特別クエスト終了

刀術のトレーニングで上達する

筋力+3 俊敏+2 魅力+1 刀術Lv2

ーーー



名前:マコト アズマヤ

レベル8

性別:女

EXP:16/ 500

HP:31/ 87→93

MP:2/ 114→128

身長:155 cm

体重:56.9kg→55.9kg

筋力:28→33

魔力 : 35→38

敏捷:24→29

知力 : 27→29

耐久:30→32

魅力:32→36


スキル : 格闘Lv2、刀術Lv2、生活魔法[クリーン、水生成]、絆の連結Lv1、精神耐性Lv3、睡眠耐性Lv1、石化耐性Lv1、検索Lv3、解析Lv2、話術Lv2、回復魔法 Lv5、人体構造理解Lv2、マルチタスクLv2、犬と猫に好かれやすい、疲労回復(速)、姿勢(良)

 いつも読んでいただきありがとうございます。

 感想、ブックマーク、評価など、とても励みになっております。


 本編に『当直』という言葉が出てきましたが、社会を支えるエッセンシャルワーカーと呼ばれる方々は特にこのような勤務体制になっていることが多いですよね。

 本当にお疲れ様です。

 

 当直の仕事をついている方は体調を崩されやすいと言われております。特に将来的に糖尿病や心疾患へのリスクが高まるという医学的なデータもあるそうです。

 読者に、当直勤務のある方々がいらっしゃいましたら、どうかご自身のお体を第一に、大切にお過ごしください。


 明日も21時に更新します。

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― 新着の感想 ―
やっぱり来ましたね、魔物の群れ。^_^; それも集団戦ができる知能があるとは脅威です。相手方の統率のレベルによっては、こちらも騎士団とか必要かもしれませんね。刀術のレベルアップはしましたが、前線には出…
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