26話 夢の中 キノコパーティ(合法)
虫の知らせだろうか、ランニングを今日は早めに切り上げて、宿に帰った。
ノックの音がして扉を開けると、ユキさんのお父さん、マッスルさんが立っていた。大きな体に似合わず、肩がしょんぼり落ちている。ユキさんの治療に何か問題でもあったのだろうかと思った。
彼を招き入れると、深く息を吐いた。
「すまないが早めに別の宿を探して欲しい。この宿、売らなきゃいけなくなって……」
話を聞くと、火傷の治療費の支払いが足りなく、宿を売るしか他に道がないという話だった。
「こんな話をすると、あんたが気にしちまうのはわかるんだ。でも、移動してもらわないと、最終的に君が困ることになるから……すまないな、嫌な思いをさせて」
重度の火傷をただ治すならそこまでお金はかからない、痕を残さず、後遺症を残さないとなると術者がほとんどいないので治療費も高くなる。シグレ院長はそれでも比較的に安い方、しかも手の治療費は治るかどうかわからない私にやらせたのでお金を取らなかった。
「マッスルさん、この宿、売ってどうされるんですか?」
「これでも、元々は冒険者だったんだ。冒険者ならなんとか食っていけるだけ稼げる……」
「でも、一度辞めたんですよね、冒険者?」
「そうだ。妻も子供も残して死ぬかもしれない仕事は出来ればしたくないからな……」
その言葉が、どんよりと部屋の中の時間が遅くなるような、そんな感じがした。
僕は静かに頷き、宿を出て冒険者ギルドへ向かった。
久しぶりに冒険者ギルドに入ると、一斉に僕への視線が貫いた。
なんなんだろう。受付のアンナさんの前に立つ。
受付のアンナさんが手を止め、ぱちりと僕を見上げた。
「 久しぶりね、マコトちゃん。治療院から依頼?」
「いえ、お金たくさんもらえる仕事はないかな……って思って……」
「えっ、治療院より? マコトちゃん、悪い男に騙されてない」
「いえ、そういうのじゃなくて……」
しばらく、心配症のアンナさんから尋問を受けた。
「ユキちゃんの治療費でマッスルさんが宿屋を手放さなきゃいけない、それで金銭的に割りのいい仕事を探して、一緒にやってなんとか宿を守りたい、ってことか……」
アンナさんは指を机でトントンと叩き始め、少しして止まった。
「きのこ狩り。この時期に生える香りの素晴らしいトリュフと骨折も治せるポーションの材料になる葉月茸。どちらも拳大くらいのサイズ一個であなたの治療院の1日の忙しい日のアルバイト代を超える」
えっ、それなら……と言いかけるが
「トリュフを狙って、オーク、葉月茸を狙って、コカトリスが森の中を闊歩しているわ。全盛期のマッスルさんならソロでもいけるけど、現役を退いて10年。ブランクがね。でも、あなたが一緒に行って無理さえしなければ大丈夫かな。検索のスキルは使える?」
僕は、はい、と元気に返事した。
治療院におずおずしながら今日は休むと言うと意外なことに普通に休めた。
そして、宿に戻り、マッスルさんにあうと、既に冒険者用の装備を整備しているところだった。人の背丈ほどある剣が鈍く光っていた。きのこ狩りの話をすると、
「そういえば、その時期だったか……うまくいけば……いや、今更チームを組んでくれる馴染みの奴らなんて……」
「アンナさんが、僕に一緒に行け、と言っていました。僕なら、マッスルさんのサポートも、検索スキルでキノコ探しもできます」
「いや、でも……」
「僕、マッスルさんの助けをしたいんです。ユキさんにたくさん助けてもらったんです。そのユキさんが帰ってくる家がなくなったら、辛いんです!」
僕が言い切ると、グズリと鼻をマッスルさんがすすり、目尻をぐっと押さえた。
「お嬢ちゃん、いや、マコトちゃん。わかったよ。ありがとう、ありがとう! 急いで準備するから待っていてくれ」
泣きっ面のマッスルさんを残して、僕は自分の部屋に戻り準備をした。
街から出て東側に広がる森に入る。30分ほど歩くと、鎧を着た二足歩行の豚がいた。
「オークだ」
そう言って、マッスルさんはオークに向かって飛び出し、大きな大剣で頭を叩き切る。
「久しぶりだと息切れがする……体が鈍っていやがる……。足や腰が痒くなってくる」
いつも運動してない人は毛細血管が急激に広がって、痒くなる、だったかな。疲れは、僕みたいにランニングしている人と違って、心肺機能が弱く、酸素の供給が足りなく、またミトコンドリア数が少ないから本来有酸素運動になるべきところが無酸素運動になる。さらに細くなった毛細血管には老廃物が流れにくくなっているから、糖を分解する過程で発生する水素イオンによる筋肉の酸性化により筋肉の動きが悪くなる、だったかな。
もし、一時的に毛細血管の拡張を手伝って、赤血球の酸素運搬効率自体も上げることができれば……
僕はマッスルさんの背中に手を当てて、解析をしつつ、毛細血管の拡張と赤血球への働きかけをしてみる。するとマッスルさんの頬や掌に赤みが刺す。
「今、何やった? なんかさっきに比べて少し息がしやすくなってきた」
「そういう魔法を使ってみました」
「回復魔法だけじゃなくて強化魔法まで使えるのか?」
「強化魔法?」
「そうだ。マコトちゃん、知らないで使っていたのか?」
「いえ、なんとなくで……」
「それなら、マコトちゃん、すげえな! 御伽話の賢者様みたいだな、ハハハ!」
マッスルさんは立ち上がる
「オークがいるということはこの近くにトリュフがあるはずだ。マコトちゃん、魔法使ってもらって早々悪いが検索スキルを頼む」
僕は頷き、目を瞑る。地中に隠れた通称黒色のダイヤモンドを探す。
「ここから東に12メートル、地面の下20センチメートル」
マッスルさんにそう伝えると、その場所まで歩き大剣を地面に突き刺し、スコップのように掘り起こす。
「当たりだ。しかも2個分。こんなに簡単に稼げるなら冒険者に戻ろうかな……」
「ダメですよ、今の時期だけだから」
「冗談だよ」
その後は、マッスルさんはそれは破竹のようにオークを蹴散らした。頃合いを見計らい、僕は検索スキルで探してトリュフを見つけ出し、オークが食べようとしたトリュフを奪い取り、切り倒した。
僕の持っていたマジックバッグに詰め込み、宿屋を売らなくても良くなるくらいまでもう少しだ。
「あれはコカトリス……」
鶏に、尻尾だけが蛇の胴体と頭部
目が合うと石になるという魔物だ。
そして、その石を喰らうのが至高であるとする化け物。
喉の奥が張り付いたように乾き、意味もなく何度も唾を飲み込んだ。
目の前の茂みの向こうに、特殊能力が厄介な捕食者がいる。そう理解した瞬間、小刻みに腕や太ももが震えた。
「目が合うとダメなのは鶏の方だ。それと、離れていれば石化の効果はない」
マッスルさんが大剣を引き抜き、構える。余裕そうな笑みなのに、一筋の汗が流れた。
「茂みに隠れて奇襲するのがベストだ」
一歩、一歩とコカトリスは進んでくる。
何かを探すように彷徨い歩き、時々横を振り向く。
近づくにつれて、僕は嫌な予感を感じる。これはきっと、僕一人では戦えない相手だからだろう。手に刃のついていない鉄の棒を強く握りしめる。
「今だ」
マッスルさんは茂みから飛び出る。重そうな装備を感じさせない速さ。音もほとんどない。
しかし、マッスルさんはコカトリスとあと数歩の位置ですっ転んだ。ズザーといい音を立てていた。思わず、嘘だろ、僕は声が漏れる。
当然、コカトリスは気がつき、マッスルさんを見つめた。マッスルさんは起き上がる瞬間にコカトリスと目が合い、カチカチと乾いた音を立てて、足元から灰色に染まっていく。
マッスルさんは両眼を閉じ、大剣を胸元で隠すように持ち替えた。
コカトリスは石化が途中で石化の止まったマッスルさんに更なる攻撃を加えようと、飛びかかり、くちばしが振り上げる。
鋭利なくちばしがマッスルさんの体に突かれる瞬間、マッスルさんは胸元の大剣を勢いよくコカトリスのくちばしに向かって突き刺した。
くちばしから大剣は反れ、コカトリスの眼球に刺しこまれた。
コカトリスは奇声を発しながら頭を振り回した。蛇の尻尾がマッスルさんへ向かう。
僕は夢中で茂みから飛び出して蛇の頭付近に鉄の棒を振り下ろした。痺れるような感覚が手に感じるとともに蛇の頭は力無く地面に伏せた。
「ナイスだ」
マッスルさんは腰に差していた小さな斧を手に取り、コカトリスの頭に目を向け、振り抜きながら
「スラァァーッシュ!」
と叫んだ。振り抜いた斧から刃が発生し、振った範囲の5倍以上広がりながら進む。その刃はコカトリスの首を鋭利に切り落とした。
そして、コカトリスは地面に倒れ、動かなくなった。
「今の、なんですか!?」
「スキルだろ。知らないのか? あの技は低レベルでも使えて、しかも大体の武器でできるぞ」
さすが夢の中だ、と感心するけれど、これ街の中とかでやったら大変なことになりそうだなと思いながら、僕は石化の治療をどうしようか迷った。
そんな治療、現代には存在しない。
マッスルさんは
「回復魔法で普通に治るはずだぞ」
と言うので、その通りやると、本当に治った。
「石になった体の一部が欠けたりすると、その部分が欠けた状態になって戻るから、最悪、復元のできる治療師を頼らないといけない」
そんなことを、今回は運が良かった、とマッスルさんは軽い感じで言って喜んでいたが、命が軽すぎる。
検索すると、葉月茸を見つけた。サイズも拳二つ分だった。
「これだけでも火傷の治療費以上になる。その上に、コカトリス一匹もあるから、本当に助かったよ」
マッスルさんは自分の体よりも大きいコカトリスを背中に抱えた。コカトリスの体もいい値段で取引されるそうだ。
「今日はついていた。きのこ狩りの時期に、マコトちゃんと組めたし、思ったよりモンスターが少なかった」
「あれでですか?」
「いつもならオークは2、3匹固まって出るし、コカトリスも番でいることが多いんだがな……それにしても、静かすぎるな……早く帰るか」
薄闇の森に、どこからか、無数にある目から見つめられているような気持ち悪さが背中を刺した。
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特別クエスト終了
たくさんの高級きのこを見つける
検索Lv3
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特別クエスト終了
オーク狩り
exp+200 HP +10 MP +10 筋力+2 魔力+2 耐久+2
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特別クエスト終了
コカトリス駆除
exp+150 HP +10 MP +10 筋力+1 魔力+1 敏捷+2 知力+2 石化耐性Lv1
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特別クエスト終了
格上のモンスターしかいないフィールドへ
精神耐性Lv3
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特別クエスト終了
半日以上森の中を歩く
体重-1.0kg 耐久+2
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特別クエスト終了
初めてパーティを組む
絆の連結Lv1
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特別クエスト終了
漢気 友達のためならえんやこら
魅力+3
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クエスト終了
減量目的のランニング
体重-0.5kg
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特別クエスト開始
予兆
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名前:マコト アズマヤ
レベル7
性別:女
EXP:196/ 350
HP:58/ 66→86
MP:23/ 85→109
身長:155 cm
体重:59.6kg→58.1kg
筋力:22→27
魔力 : 29→33
敏捷:18→23
知力 : 22→26
耐久:24→29
魅力:28→32
スキル : 格闘Lv2、刀術Lv1、生活魔法[クリーン、水生成]、絆の連結Lv1、精神耐性Lv3、睡眠耐性Lv1、石化耐性Lv1、検索Lv3、解析Lv2、話術Lv2、回復魔法 Lv5、人体構造理解Lv2、マルチタスクLv2、犬と猫に好かれやすい、疲労回復(速)
いつも読んでいただきありがとうございます。
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私の住んでいた実家の敷地で夏頃になると『ハタケシメジ』が生えてきました。いつの間に生えなくなったのか、あまり興味を家族が持てなくなったから全く見なくなりました。
仮に生えていても今では本当にハタケシメジかわかりません。
思い出すと急にハタケシメジのバターソテーが食べたくなります。




