25話 現実 バカっぽい犬と子供は悔しいほど可愛い
朝起きて、いつも通りジャージに着替えてランニングを始めようとする。
家を出る直前にジャージのズボンがストンと落ちた。
だいぶ痩せたなあ、と思いながら、ズボンの紐を調節する。それでも、ジャージが大きすぎて不恰好だ。
まあ、走れたら問題ない。
そんなアクシデントのせいでまた公園側のルートを走ってしまった。今更ルートを変えるのも、と思いそのまま走っていると、ボクサー犬と共に歩く二人の姿が見えた。たちばなさんと、その弟君だった。やっぱり姉弟だったか。
僕は帽子を深く被り素通りしようとすると、ボクサー犬のジローが僕に飛びかかって戯れてきた。
「こら、ジロー! って兄ちゃん! 久しぶり! ほら、この人、ジロー探すの手伝ってくれた兄ちゃんだよ」
ジローの手綱をたちばなさんの弟が引っ張ってジローを剥がした。
「この人? あっ、前はありがとうございました。弟まで迷惑かけてしまったようで……あれ、クラスメイトの東屋君だよね?」
終わった。
僕はこのクソ暑い夏なのに寒気が走った。
助けるためとはいえ、デブの僕に体を触られたとか、キモいと思われるに違いない。
「どうしたの、めっちゃ痩せたよね? ずっとランニングしていたでしょ? すごいなー、って見てたんだよね。まさか東屋君だったなんて」
「そういえば、兄ちゃん痩せたよね! ダイエット?」
矢継ぎ早に2人から言われて
「あ、うん、ダイエットしようかな……と思って……」
「顔、小さくなってるよね! すごい。私も運動頑張らないと……」
「姉ちゃんも最近太ったから、夏休みはジローの散歩頑張るって……イテテテェ!」
たちばなさんの手が、弟君のお尻に伸び、捻っているように見えた。
「あははは、何言っているのかな、颯太。じゃあ、お互い頑張ろうね!」
騒がしくたちばな姉弟は離れて行った。何故かジローは僕に悲しげな目線を送りながら離れていった。
でも、キモいと思われてなかったようで安心した。
むしろ、頑張ったことを褒められて、嬉しかった。
ランニングを終え、家に帰り、白樫の木刀を持って振るう。
夢の中でできた動きを思い出して、上下素振りと正面素振りを行う。途中で、仕事に向かう父さんに素振りを少し見てもらい、手本の素振りを見せてもらう。やはり、僕とは全然違う。一瞬の勢いが速い。
「見違えたよ。昨日よりすごく上手い……手がマメだらけだぞ。少し休みなさい」
どおりで手が痛いと思ったら……回復魔法が使えたらいいのに。
木刀を玄関に置いて、リビングを抜ける。
「おはよー、兄ちゃん。ランニングお疲れさまー」
リビングにいた妹がそう言って僕を見ると、すぐに目を丸くした。
「え……やっぱり! 兄ちゃん、すごく痩せたよね? というか、身長伸びてない?」
「そうかな?」
確か、夢の中で身長が5センチメートル伸びたみたいな表示があった。
体重だけでなく身長もリンクしているのかな?
妹は僕の横に並ぶと、自分の頭の位置と僕の頭の位置を比べている。
「伸びたって! 私の目線が違うもん。それに、そのズボン、ブカブカだよ? どんだけ紐締めてるの!? ていうかさ、本当に病気じゃない?」
「ランニングしてたら少し痩せたんだよ」
「少しどころじゃないって! 顔もスッキリしたし、体ががっしりしたっていうか、前はぶっちゃけトドみたいな……」
ハルカは言葉を選んでいるようだったが、以前の体型を『だらしなかった』と暗に言っていることは明白だった。
でも、僕は喜びで満ち溢れていた。
だって、そんなに酷かった身体が、今は他人からまともに見れる身体になってきたんだから。
風呂場でシャワーを浴びながら鏡を見る。
弛んでいた体は少しずつ引き締まってきた。
二重顎で腫れぼったかった頬がシャープになり、細かった目はパッチリとした二重に変わっていた。
夢での努力と成長が、わずか一ヶ月も経たないうちに、僕の体を劇的に変えていた。でも、現実でも僕は頑張った。現実での運動ではほとんど体重は変わらなかったけれど、確かに現実でも僕は頑張り続けたんだ。
手のマメがシャワーでしみた。でも、その痛みさえもが僕を応援しているように感じた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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誠君みたいに、スタイルが良くなったね、痩せたんじゃない、とかランニングやダイエットをしている時に言われると嬉しいですよね。
実は私自身も、過去にランニングで弛んだ体を引き締めた経験があるのですが、 私がランニングしていることを知らなかった方からの当時の反応は
「スタイル良くなったね!」
ではなく、
「えっ……ゾンビ化してない? 大丈夫?」
でした。




