24話 夢の中 無知は罪
新品のブーツでランニングをする。すると30分もしないうちに足が痛くなり始めた。靴擦れみたいだった。足の中ではなく、皮膚が熱くなっていて痛い。回復魔法をかけて治療するが今日から治療院で仕事が始まる。ランニングのペースを遅くして、宿屋に帰り、室内で素振りをする。
現実で覚えた感覚を再現すると、ヒュンといい音が聞こえた。
父さんの素振りを思い出しながら、丁寧に動かす。
そういえば、すり足。すりながら前後左右に移動する方法。そんなことしないで走って切ればいいんじゃないか、と思った。でも、確かに左足首を使って飛ぶと、一瞬で移動できる。これは走るではできない移動方法だ。それに走れば、これから相手に切りに行きますね、と言っているものだ。
うーん、難しい。
深く考えることも大事だけど、父さんの素振りを真似てできるようになることが強くなる近道のようなきがした。
ステータスの恩恵なのか、振りは速い。しかし、父さんのような鋭い振りではない気がした。
でも、努力は裏切らないはずだ。
僕はひたすら素振りを続けた。
治療した患者を送り出した。その時、よく声を聞いた人の叫び声が聞こえてきた。男性の励ます声も聞こえてくる。
黒い給仕の格好の少し年上の女の子。ユキさんだ。ユキさんはコック姿のお父さん、マッスルさんにお姫様抱っこで現れた。
顔が真っ赤にただれ、手も赤い。
「揚げ物の鍋に物が落ちて、ユキの顔と手に!」
酷い火傷だ。顔の半分くらいと右手が真っ赤だ。ユキさんは顔を手で抑えて、熱い、と悶えていた。
「そのままベッドに寝かせてください! シグレ院長! 急患! 重度の火傷!」
アカリさんの声が治療院内に響く。僕はマッスルさんに治療室のベッドを案内した。
彼女に買い物に付き合ってもらったときのこと、汗だくの僕にはしたないと起こりながらも笑ってくれたこと、不安になりながらも宿屋のドアを開けて初めて会った時の人懐っこい笑顔と優しさを思い出し、早くなんとかしなきゃ、いう思いに急かされた。
とにかく治療しなければと回復魔法を使うための魔力を手に集めた。淡い白い光が掌に集まり始める。
すると、その手を弾かれ魔力が飛散する。鬼のように顔をしかめたシグレ院長の手が僕の手を平手打ちしたのだ。
「何をしている! お前にそんな指示はしていない! 一生の傷をつける気か! 勝手に治療するなら辞めろ!」
怒気というより、殺気に近い迫力だった。
「アカリ! 患者の上半身を脱がせて患部を露出させろ! 油を清潔な布で拭い取ったら、患部を冷却。水魔法と造形スキルで出来るだろ!」
と言いながらユキさんに手をかざす。解析スキルを使っていた。
「もうー、私、一応受付なんだよ?。マコッちゃんは邪魔にならないように見ていて。重度の火傷は特殊なの」
アカリさんはユキさんの服を剥ぎ取り、付いていた油を拭い、患部の形に合わせて、かつ、鼻や口にかからないように冷たい水のシートを造形し、それを当てた。その指先は震えず、呼吸も乱れない。
「こういう重たい火傷の治療は特殊なのよ。皮膚の奥の真皮ってところにダメージがあると、ただ塞いだだけじゃ、皮膚が硬くなって跡が残っちゃうの。まずは呼吸器と患部を冷やして、熱の進行を止めないと」
僕にだけ聞こえるように小声でアカリさんは呟いた。
「温度、冷えすぎないよう気をつけてくれ。やはり、呼吸器に炎症がある。まずはそこから治療する」
「わかったよ」
僕は二人の隙のない流れるような動きを呆然と眺めていた。
シグレ院長はユキさんの顔に手をかざしたまま、険しい顔で呟く。
「呼吸器は治療した。顔と手は真皮の損傷が認められる。治療の方針は、顔を優先に真皮の位置を狙って一点回復させる。手前の皮膚に魔力を当てないよう、解析スキルを使いながら極限の精度で回復魔法を使わなければならん。時間がかかる」
マッスルさんがおずおずと声を出した。
「院長先生、……手は?」
「顔を優先にすれば、手が後になる。跡は残るかもしれない。マッスル、手の見た目の方が大事か?」
「顔を優先にしてやってください」
マッスルさんが視線を落とした。その姿にいても立ってもいられなくなる。
「腕、僕にやらせてもらえませんか! 解析スキルあります」
「お前の治療で傷が残ることになってもいいのか?」
僕は生唾を飲み込んだ。
「やらせてください!」
「ならやってみろ」
僕は急いで解析スキルを使う。不要な情報が出てくる中、皮膚から真皮までの距離を見つける。ほんの少しだけしか離れていない位置に、空間を挟んで回復魔法をかけていく。スキルを二つ同時に使いながら、離れた位置に魔法をかけるのは非常に困難だった。
頭がガンガンと痛くなって胃が反転するほど吐き気が込み上げても、止める気はなかった。
治したい
その思いと
遠くで見ているだけの昔の無力な自分でいたくない
という気持ちが僕の心を突き動かして、体の芯の底にある魔力を残さず流し込み、そして意識が途切れた。
がばりと起き上がる。
治療院のベッドで寝ていたようだ。隣には、ユキさんがいた。シグレ院長の治療した頬や額には火傷の痕はない。
そっと、右手に目を向けると、滑らかな肌。そこにも火傷の痕はなかった。
良かった……上手くいったんだ。
「ねぼすけ、起きたか。治療途中で意識を無くすな。腕の真皮の治療は終わっていたかもしれないが、皮膚自体の治療はされてなかったぞ。意識を無くす前に誰かに引き継げ」
シグレ院長が顔をしかめて、苦言を述べ、離れて行った。
受付の席からアカリさんがやってきた。
「マコっちゃん、大活躍だったじゃん。よく頑張ったね。シグレ院長、ああーは言っていたけど、真皮の治療が完全に終わっていたの驚いていたし、我流だが、その集中力は評価に値する、なんてぼそっと褒めてたよ」
僕は立ち上がり、寝息を立てているユキさんを見る。治せて本当に良かった。
ーーー
特別クエスト終了
刀の振りを理解する
筋力+1 敏捷+2 刀術Lv1
ーーー
特別クエスト終了
初めて重度の火傷を治療する
exp+50 MP +10 魔力+2 知力+2 回復魔法Lv5 解析Lv2 マルチタスクLv2
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クエスト終了
減量目的のランニングをする
体重-1.0kg 耐久+1
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クエスト終了
治療院で見習いとして仕事をする
exp +10 MP +2 魔力+1 知力+1
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特別クエスト終了
適正体重に近づく
身長+5cm 魅力+10
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名前:マコト アズマヤ
レベル5
性別:女
EXP:152/ 200
HP:48/ 62
MP:3/ 73→85
身長:155 cm
体重:59.7kg
筋力:21→22
魔力 : 26→29
敏捷:16→18
知力 : 19→21
耐久:23→24
魅力:18→28
スキル : 格闘Lv2、刀術Lv1、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性Lv2、睡眠耐性Lv1、検索Lv2、解析Lv2、話術Lv2、回復魔法 Lv5、人体構造理解Lv2、マルチタスクLv2、犬と猫に好かれやすい、疲労回復(速)
いつも読んでいただきありがとうございます。
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火傷はすぐに冷やしましょう。流水で20〜30分などと言われています。患部は冷えているように感じていても、深部の熱は取れてないそうです。
あと、低温火傷これには気をつけてください。気づくのに遅れて高温の火傷よりも深い火傷になりやすいそうです。
特に今時期の冬期の便座。暖かくして長く座る癖のある方。気をつけましょう。
カイロや湯たんぽも気をつけて。




