18話 夢の中 ほとんどの勉強の内容は二度と使わない。だけど、何が2度以上使うだなんて誰にも選べない。
起きて、部屋を見回す。
木製の家具で揃えられた宿屋の一室は、今日も森の匂いに包まれていた。
お腹を触ると、やはり若干の柔らかいお肉がある。急激に増えた感じはしないが、ランニングで減らしていこう。
僕はまだ朝早い。寝巻きのチェニックを運動着がわりにして、ブーツの紐をキツく縛り、外へ出た。
日本の夏とは違う、湿度の少ない爽やかな空気。
ゆっくりと走り始めると、本当に気分がいい。汗ばむほどでもないのに、身体の奥に火が灯るようで気持ちがいい。
いつまでも走って行けそうだ……けれども、危険な場所は絶対に行かない。自己防衛が大切だ。
表通りの比較的多い道、知り合いや知っている人のお店のところを走る。
ゆっくりと1時間くらい走り、宿屋に戻り朝ごはんを食べたころにはしっかり疲れは無くなっていた。僕はすぐに支度をして、職場である治療院に向かった。
「おはよー、マコっちゃん! すぐ手伝って!」
受付のアカリさんが、少しだけ焦った声で僕を呼んだ。
奥の診察台では、浅黒い肌の青年冒険者がぐったりと横たわり、返事もなんか虚げだ。
「……呼吸が浅い。脈が細くて速い……?」
汗は出ているのに、肌が乾いていて、やけに体温が熱い。
これ、クラスメイトが熱中症で倒れた時の様子に似てる。
脈も、触れた指を押し返すように速くて弱い。
汗をかきすぎると血が濃くなって、心臓がすごく頑張ってるのに押し返す力が弱くなるって生理学のサイトで読んだ……。
だから、これは、熱中症っぽい……。
自分の頭の片隅に隠れていた、現実で学んだ医療知識が、初めて目の前の患者とつながった。
「アカリさん、この人……熱中症、かもしれません」
僕が言うと、別の患者を診ていたシグレ院長が、珍しい物を見たように僕に振り向いた。
「どうしてそう思った?」
そう言いながらもシグレ院長は処置をする手は止まらない。
「えっと……脈がすごく速いのに弱くて……肌も乾いていて……。
たしか、体を冷やしたり、水分を摂らせて……水だけより……塩も少し必要って……」
自信はなかったけど、口に出すしかなかった。
シグレ院長の表情が、ふっと緩む。
「よく気づいたな。正しいぞ。こいつにはただ回復魔法を使ってもどうにもならない」
その一言で、胸が軽くなる。
「アカリ、水分は少量ずつだ。塩をほんの少し混ぜてくれ。
マコト、冷やした布だ。手のひら、脇の下と首筋に重点的にな」
「はい!」
指示を受けて、僕は急いで冷たい布を用意し、指示された場所に当てていく。
青年の呼吸は荒いままだったけれど、やがて少しずつ落ち着いていった。
「……喉、かわ……」
「少しだけ飲んでください。いっぱいは危ないです」
スプーンでゆっくり口元に運びながら、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
シグレ院長が僕の肩に手を置く。
「マコト、さっきの判断、良かったぞ。
回復魔法を使うやつは、何も勉強しないで魔力を高くすれば人を助けられるという一定数のバカがいる。知識がないと救えない命がたくさんあるのにな。
お前はしっかり勉強しているな」
「そ、そんな……本当に少しだけで……」
口には出さないけれど、褒められてめちゃくちゃ嬉しかった。
ランニングで鍛えた身体も、現実で少しだけ学んだ知識も、全部ここで役に立っている。
役に立てたんだ、僕。
青年冒険者の呼吸が安定し、シグレ院長が「もう帰っても大丈夫だ」と告げると、彼は少しふらつきながらも起き上がった。
「……先生、助かったよ。お嬢ちゃんも、ありがとな!」
そう言って、照れくさそうに笑いながら治療費をアカリさんに渡して去っていく。その背中を見送った瞬間だった。
「す、すみませーん! こ、子どもが転んで……結構大きい傷に……!」
入口から、若い母親が泣きそうな顔で駆け込んできた。腕に抱かれている小さな男の子の膝は、見事に擦りむけて赤い。
「マコっちゃん、お願い!」
「はいっ!」
僕は急いで水を用意し、膝の砂をやさしく流す。
「痛いのいやだぁぁ……!」
「大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと冷たいだけだからね」
子どもは泣きながらも、僕の手をぎゅっと掴んでくる。かわいい……けど、少し痛い。
最後に単価の安い新陳代謝を早める回復魔法を使って、処置が終わり帰ってもらう。ほっと息をついた瞬間、
「し、失礼します! 指……切っちゃって……!」
次は料理人らしい男性が、布でぐるぐる巻きにした手を押さえながら登場した。
「ちょっと深いな……消毒と止血を用意!」
「えっ、はい!」
言われるがままに処置を手伝い、血を見て顔が青ざめたけど、なんとかこらえた。
その直後、
「い、院長……さっき階段で足をひねりまして……」
今度は冒険者風の女性が足を引きずって現れた。
「マコト、患部を触ってみろ」
「は、はい!」
触ると、じんわり熱い。
「炎症だ。筋肉が損傷するとこうやって熱をもつ。腫れは強くない。軽い捻挫だな。どうする? 回復魔法ならすぐ治るが高く付く。でも、これから狩りの仕事ならゆっくり湿布貼って自然治癒なんて命取りだ」
「魔法で!」
院長が僕に回復魔法を使うように指示を出し、僕は必死に魔法を使う。
そして休む間もなく、
「すみません……朝起きたら首が回らなくてねぇ……」
「これは寝違えだ。ストレッチをして血行を良くする方がいい。回復魔法で治せるけど、こういうのはクセになるから、ストレッチや運動で直した方がいい」
「やだわ、先生。こんなババに運動させるのかい!」
「運動して身体を健康にした方が長生きするさ。最近、孫さんは元気かい」
気づけば、治療院の中はバタバタで……僕の頭も身体もフル回転だった。
「マコっちゃん、これ受付お願い!」
「こっちは書類!」
「湿布もうひとつ!」
もはや何がなんだかわからないけれど、僕は今誰かのためになっているという実感だけが、胸の奥を支えてくれていた。
そんな中、シグレ院長がふと僕を見て、目を細める。
「……マコト。お前、動きが良くなってきたな」
「えっ、そ、そうですか……?」
「知識だけじゃない。現場でどう動くべきか判断できてきている。これは現場で成長しようとした証だ」
そう言われると、少しむず痒かった。
ーーー
特別クエスト終了
初めて正しい診断を下す
exp +10 解析Lv1 知力+2
ーーー
クエスト終了
減量目的のランニング(長時間)をする
体重-1.2 耐久+2
ーーー
クエスト終了
治療院で見習いとして仕事をする
exp +10 MP +2 魔力+1 知力+1
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名前:マコト アズマヤ
レベル5
性別:女
EXP:52/ 200
HP:51/ 59
MP:27/ 66→68
身長:150 cm
体重:65.1kg→63.9kg
筋力:17
魔力 : 23→24
敏捷:14
知力 : 17→18
耐久:14→16
魅力:15
スキル : 格闘Lv2、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性Lv1、睡眠耐性Lv1、検索Lv2、解析Lv1、話術Lv1、回復魔法 Lv4、人体構造理解Lv2、猫に好かれやすい、疲労回復(速)
読んでいただきありがとうございます。
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体温を下げる方法として、昔は首・脇・足の付け根の太い血管が通る場所を冷やすのが鉄板でしたが、最近ではAVA血管(動脈静脈吻合)がある場所を冷やすのが非常に効果的であると注目されています。
手のひらにそれがあります。
でも、氷などで急激に冷やすと、毛細血管が閉じてしまいますので効果落ちます。
15度くらい、水道水と同じくらいの温度でお願いします。
明日も21時に更新します




