16話 夢の中 暗がりのランニングは解放感が半端ない
ベッドの中で目を覚ますと、全身に鈍い重さがまとわりついていた。
伸びをしても、手も足もいつもよりぎこちない。
まるで自分の身体がほんの少しだけ裏切っているみたいだった。
腹をそっとつまむと、わずかに肉があるのを感じる。
慌てて鏡の前に立つ。
見た目にはあまり変わらない。
相変わらず、鏡に映る自分は腰まである金髪に青い瞳の美少女のまま。そして、細い身体。しかし、よくよく見れば少し肉付きが良くなった気がする。
そう思うと、心拍数が速くなる。
「……太った? ステータスオープン」
名前:マコト アズマヤ
レベル4
性別:女
EXP:102 / 150
HP:52/ 52
MP:61 / 61
身長:150 cm
体重:66.1kg
筋力:14
魔力 : 17→20
敏捷:11
知力 : 13→15
耐久:11
魅力:12
スキル : 格闘Lv1、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性lv1、睡眠耐性Lv1、検索Lv2、話術Lv1、回復魔法 Lv3、人体構造理解Lv1→Lv2、猫に好かれやすい、疲労回復(速)
ステータスの体重を見る。一週間前よりも1キロくらい少ないのに、何故?
筋肉が減って脂肪の割合が増えた?
そういえば……現実の体重減りすぎだよな……ランニングしても月に1キロから2キロくらいだと聞いた気がする。それを軽く超えている気がする。
こっちのステータスの体重の減りが影響しているような……
でも、こっちは何故、見た目が太り始めた?
現実と夢の中の僕がリンクし始めている?
そんな馬鹿なことありわけない。
現実と夢が影響し始めるだなんて。
ぞっとする。
現実の僕の姿のような女の子になったら、みんなどんな風に僕を見るだろう。
良いわけがない。
見た目が可愛いから優しくしてくれているんだ……。
確かに大きくは変わっていない。けれど、少しの太るという変化に敏感になってしまう自分がいた。
夢の中くらい、痩せている姿になっていたい気持ちが強かった。
夢の中の治療院は、いつもより重く、そして鈍く感じられた。
手に持つタオルの感触も、足を踏み出す感覚も、どこかぎこちない気がした。
「今日はどうした?」
院長シグレの冷たい問いかけに、冷や汗を感じ
「具合でも悪いの? いつもより、動きが遅い感じゃん」
受付のアカリさんの冗談混じりの声が、そのまま真実なので、焦りを感じた。
周囲の評価が気になり、僕の焦燥が膨らんでいく。現実の僕の体型のように。
痩せなければ……
もしくは、ステータスの敏捷や筋力を上げよう。
昼休みにただ座っていると太ももの肉がいつもより重なっている気がして、落ち着かなかった。
この余分なお肉を削ぎ落としたい。
その焦りだけが、ずっと燻っていた。
仕事が終わり、日も暮れた街に足を踏み出す。
『走らないと』ではなく、『走らなきゃ」という義務感が背中を押した。
僕は宿屋に荷物を置いて、食事をもらう。そのあと、軽装になってブーツの紐をきつく結び、外に出た。
夜風が肌を撫でる。
数分もすると、身体は徐々に軽さを取り戻していくようだ。走る、それは僕にとって心の解放となっていた。
それにこの夢の中の努力は、数字になって現れる。それも、現実世界よりもずっと大きく。
息が整うにつれて、頭の中のモヤモヤが少しずつ晴れていく。
ランニングフォームは、現実で培った感覚や知識と夢の世界の身軽な身体が不思議に混ざり合い、まるで自然に整う。
足先から指先まで、身体が自分の思う通りに反応する感覚が心地よい。
この感覚、現実まで持って帰りたい
そう思った。
魔力で光る街灯の魔導ランプが明るく光り始めた。
石畳の道と煉瓦造りの建物たちが、日光の光とはまた違う、温かみのある色合いへと変わる。
その光景を見ながら、僕は他にどんな街の光景が見れるのだろうと足を伸ばしていく。歩いたことのない道だけど、反対方向に走れば、きっと、家に戻れる。だけど、足を踏み入れると、空気が一変する場所に入った。
街灯の光の明るさが弱々しかった。
変だな、と思いながらも走り続けると、建物の壁はボロボロに剥がれ落ち、どこからか生ゴミが腐ったような臭いが漂ってくる。
……ここ、入っちゃいけない場所だ。現実の街にもある、ヤバい人ばかりの場所。
誰かに見られているような感じがするのに、さらに裏路地に入りたくなる……誘導されるような……。
やばい! こっちに来ちゃいけない!
僕はハッとして体を反転し、何も気づいていないふりをして走り続けた。
すると、戻っている方向の路地裏から4、5人の男が出てきて道を塞いだ。
最悪だ。
僕の額からランニングでできた汗ではない、別の汗がひと雫ぽたりと落ちた。
「お嬢ちゃん、そんなに急いでどこいくの?」
「お兄さんたちと遊ぼうよ」
いやらしい顔つきの男たちが近づいて、手を伸ばしてきた。
僕はとっさに手を払い、すり抜ける。
「はあ!? 優しくしてやったら、舐めやがって!」
伸びてくる腕を払い、自分の体が自然に右手の拳を近づいてきた男の腹に勢いよく突き入れた。
するとその男は、腹を抑えてゲロを吐きながら地べたに転がった。
えっ、僕、こんなに強かった?
格闘スキル。
ステータス。
それらが、この小さな身体に思った以上の力をまとわせている。
顎を打ち抜かれたもう一人が崩れ落ちたとき、ほんの一瞬だけ、誇らしさが頭の中を巡った。
だがすぐ背後から腕が回され、羽交い締めにされる。
腹に打撃を受け、呼吸が千切れた。
「クソガキが。調子に乗りやがって」
「でも、俺たち二人で楽しめるぜ」
「いい匂いがするな……10代の若い女なんて久しぶりじゃねえか?」
「ひひひ、初モノかもしれないな」
腹の痛みに堪えながらこれからされるかもしれないことを想像して、寒気がした。
また別の足音が聞こえた。
正面に立っていた男が掬い上げられるように浮かび、地面にドサリと落とされ、腹を踏まれ、うめき声を上げた。
腹を踏んでいたのは、久しぶりに見た冒険者ギルドの受付のお姉さんだった。
さらに後ろから、ひっ、と声がした。
「その子から手を離さないと、手元が狂って首に刺しちゃうかもじゃん」
羽交締めにした男の力が抜けたので、男から離れて振り返ると、笑っているのに笑っていない治療院の受付のアカリさんがいた。
手元には銀色のナイフが握られていた。
そして、僕が完全に離れるとアカリさんの蹴り足が、男の首を刈り、男は倒れた。
「さっさとここから離れよう」
受付のお姉さんはそう言って私の手を掴み、駆け出した。
少しおしゃれな飲食店に入り、個室に連れて行かれる。
「私とアンナが飲みに行こうって合流した時に、身一つで暗くなりかけの夜道を走るから、どうしたのかなって思って悪いけどつけたんだよねー。でも、今回はつけて行って良かったわー」
アンナと呼ばれた受付のお姉さんが
「なんであんなところに走って行ったの?」
と、私をじっと見つめる。
二人の声や視線には怒りがあった。でも、その裏には僕を助けることができて良かったという気持ちがあるように見えた。昔、両親に叱られた時に似ていて、それで黙っていることはできず声を出してしまう。
「……ダイエット、じゃなくて。体力づくりで」
言い換えたつもりでも、二人はしっかり聞いていた。
「はあ? 太ってないよ!」
「気にしすぎじゃん!」
「最近、なんか身体が重くて……運動したほうがいいと思って……」
「じゃあ、単に走り込みしてただけなの?」
「脅迫されたとかじゃないんだね?」
「でも、なんで治安の悪いスラムに行こうとしたの?」
「この街にスラムなんてあったんですか?」
ぽかんとした私に、二人は同時にため息をこぼした。
「あー、そういえば、マコトちゃん、まだこの街に来て一か月も経ってないんだ……なるほど」
「んー、もう! もうちょっと周りを気にして生活しないと大変な目に遭うよ! 街のどこが安全とかそうじゃないかは、しっかり調べて! というか、聞いて! 女の子なんだから!」
叱られる声はどこか温かかった。
ーーー
特別クエスト終了
暴漢を一人を返り討ちにする
exp +30 ステータスall +1
ーーー
特別クエスト終了
暴漢を連続で返り討ちにする
exp +30 ステータスall +1
ーーー
特別クエスト終了
格上の格闘スキルを見学する
exp +10 格闘Lv2
ーーー
クエスト終了
減量目的のランニングをする
体重-0.5 敏捷+1 耐久+1
ーーー
クエスト終了
治療院で見習いとして仕事をする
exp +10 MP +2 魔力+1 知力+1
ーーー
名前:マコト アズマヤ
レベル5
性別:女
EXP:32/ 200
HP:29/ 52→59
MP:61 / 61→66
身長:150 cm
体重:66.0kg→65.5kg
筋力:14→17
魔力 : 20→23
敏捷:11→14
知力 : 15→17
耐久:11→14
魅力:12→15
スキル : 格闘Lv1→Lv2、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性lv1、睡眠耐性Lv1、検索Lv2、話術Lv1、回復魔法 Lv3、人体構造理解Lv2、猫に好かれやすい、疲労回復(速)
読んでいただきありがとうございます。
感想、ブックマーク、評価などありがとうございます。励みになっております。
夜間にランニングは開放感がありますが、基本的におすすめしません。平成27年の資料で日本国内において、面識のない者に対する性犯罪事案は夜間に集中します。
運転する車からも、夜間はランナーを見つけにくいです。
『走らなきゃ』という義務感に駆られる時もあるかもしれませんが、皆さんはぜひ安全な時間帯や、反射材を装備した仲間内でのランニングを心がけてくださいね!
明日も21時に更新します。




