9話 夢の中 白い子猫プロジェクト
小鳥の鳴き声が聞こえてきて、薄く目を開けた。
カーテンの隙間から差し込む淡い光が、部屋をゆっくり照らしていく。
体が……だるい。
特に足が重くて、筋肉がきしむような感覚があった。
昨日、持久走を全力で頑張ったせいだろう。
だけど、このだるさは『ただの疲労』とは少し違う気がした。
カーテンを開ける。
視界に広がったのは、煉瓦造りの家々。
石畳を馬車がゆっくり通り過ぎていく。
……また、夢の世界か
少しだけ、息をついた。嬉しいはずなのに、今回はそうでもない。
そもそも、夢のはずなのに、この世界の空気が、妙に現実のような気さえしてきた。
今日は……少しだけ休もう
疲れが抜けきらない。
そう思い、もう一度布団に潜り込んだ。
髪が頬に触れた。
自分のものではない、長い金髪。
そして微かに甘い女の子の香り。
その違和感が、なぜか今日は心の疲れを強めた。
ーーー
冒険者ギルドに着いた頃には、すでに人影もまばらだった。
朝の喧噪が去った後の、温かい光だけが残っていて、どこか安心する。
クエストボードには、数枚だけ張り紙が残っていた。
その中に、白い子猫の捜索クエストがあった。
……あの白猫、ちゃんと帰れてなかったんだ
無意識に、その依頼を手に取っていた。
受付のお姉さんのところへ持って行く。
「今日はお寝坊さんだったの?」
優しい声に少し肩の力が抜ける。
「はい……疲れが取れなくて、少し遅くに出ました」
「風邪?」
「いえ、ただの疲れだと思います」
お姉さんは眉を少し寄せたが、それ以上は聞かなかった。
「そっか。無理はしないでね。
……この白猫のクエスト、不思議なんだよね」
「不思議?」
「うん。捕まえたと思っても、するっと逃げたり……気づいたら屋根の上にいたり。
まるで、どこか別の場所へ案内してるみたいだって、皆が言うのよ」
さらりと、少し気がかりになるような言葉を彼女は述べて、僕のクエストを受理した。
ーーー
街を歩きながら、石畳の路地を何度も曲がる。
こっちのような気がする、そう思った方へ足を進め続けると、ふとした瞬間……視界の端に、白い影が見えた。
「いた……!」
白い子猫が、こちらを振り返る。
まるで『ついてこい』と言いたげな、澄んだ青い瞳だ。そして、子猫が駆ける。
「待って……!」
筋肉痛で鈍い足を必死に動かす。さらさらと長い髪が舞う。
曲がるたびに猫の姿がちらりと見え、そのたびに距離が微妙に近づいたり、遠のいたりする。
「おかしい……こんなに細い路地、あったか?」
気づけば、街の喧騒は遠くなっていた。
白猫が薄暗いアーチの向こうへ走り込む。
僕も追いかけ、そして足を踏み入れた瞬間。
世界が、静かに変わった。
そこは、噴水のある小さな広場だった。
だが、目に映った光景に思わず息を呑む。
猫がいた。
白、黒、三毛、縞……大小さまざまな猫たちが、二本足で立っていた。
小さなテーブルの前で器用に椅子や木箱に座ったり、爪先でカップを持ち上げ、ミルクを飲んでいる。
別の猫は、爪で小さな太鼓やバイオリン、チェロを鳴らしていた。
一定のリズムに合わせて、猫たちが輪になって踊る。
声が出ない。
まるで絵本の中みたいで、だけど少しだけ不自然で、心地よいのにどこか怖い。
……なんだ、この光景
呆然と立ち尽くす僕の前に、影が落ちた。
振り向く。
そこには、人間の腰ほどもある巨大な猫がいた。
黒くて毛並みが艶やかで、金色の目が賢そうに光っており、大猫の瞳の奥に人間みたいな何かを感じた。
その大猫が、ゆっくりと頭を下げた。
「えっ……あ、はい……」
思わずこちらも頭を下げる。
次の瞬間、猫たちがわらわらと集まってきて、
僕の腕を引いたり、足元にまとわりついたりしてくる。
え、ちょっと、なんでぇー!
そして、猫の輪の中心へ。
太鼓のリズムが鳴り響く。
「えっ、ちょっと、踊れって……?」
猫たちが拍手するように前足を叩く。
巨大猫がうんうんと頷いている。
「わかった、わかったよ。やればいいんでしょ……!」
半ばヤケになった僕は、えいっと気合を入れて、猫たちの動きを真似してみた。
ぴょんっと跳ねると、腰まである金の髪がふわりと広がり、青い瞳の前で光がきらりと揺れる。
両手を胸の前で丸め、くるんと一回転。小柄な体だからか、思っていたより軽やかに回わり、スカートがふわりと舞上がった。
「こ、こんな感じでいいのかな……?」
僕がそっと尋ねると、周りの猫たちが一斉に「にゃあーっ!」と大歓声を上げた。
尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに跳ね回っている。
「わっ、そんなに喜ぶの?」
思わず苦笑いしながらも、胸のあたりがくすぐったくなる。
見た目は女の子になってしまったけれど、中身は普通の男の子のままだ。
こんなふうに踊るなんて、かなり恥ずかしい。
でも、猫たちがあまりにも嬉しそうにしているから、不思議と僕も楽しくなってくる。
「よし……じゃあ、もう一回やってみるよ!」
そう言うと、猫たちはさらに大きな声で「にゃーっ!」と叫んだ。
その元気な声に、僕は思わず笑顔になるしかなかった。
そして、ヤケになった僕は、猫たちが満足するまで一緒に踊った。
気づけばミルクのような甘い飲み物を渡され、
川魚の串焼きに、ニシン蕎麦、湯気のこもったのサーモンのグラタンに、バナナや桃にぶどう等の果物の盛り合わせ等を取り分けられて差し出された。
僕はそうやって宴会へと巻き込まれていった。
今思えば、ミルクのような飲み物にはアルコールが混じっていたのかもしれない。
気持ちがふわふわと揺れて心地良かった。
……楽しい、かもしれない
ーーー
ゆっくりと目を開けた。
長く寝ていたような、すっきりとした感じ。
疲れていたはずの体はもうどこにもないみたいな感じ。
見に覚えのある石畳の路地に僕は倒れていたようだ。
夕暮れの光が、優しく世界を染めていた。
……今のは……夢?
すると、足元で、白い何かが動いた。
白い子猫だ。ちょこんと僕の足に身体を寄せていた。
まるで『届けて』と言うように、こちらを見上げている。
「……一緒に帰ろう。ギルドまで」
正直、仕事をした気分にはなれなかった。ほとんど遊んでいたのだから。
でも、ここ最近頑張り過ぎていた。
こんな日もいいのだろう。それと誰かと遊ぶだなんて、久しぶりだった。
子猫を抱き上げた瞬間、
ーーー
特別クエスト終了 街の猫たちからの歓迎会ご招待
報酬 魔力+3 魅力+3 回復魔法 Lv1 猫に好かれやすい
ーーー
と目の前に表示され、クエストの名称に思わず、にやりと笑ってしまった。
「歓迎……されていたんだ」
思わずつぶやくと、白い子猫が「にゃ」と鳴いた。
その声が、不思議と胸の奥を温かくした。
ーーー
クエスト終了 私の子猫を探して〜新人様一名、宴にご招待にゃ〜
報酬 exp +10 HP+5 MP+5 筋力+1 魔力 +1 敏捷+1 知力 +1 耐久+1 魅力+1 検索Lv2、疲労回復(速)
ーーー
名前:マコト アズマヤ
レベル4
性別:女
EXP:11 / 150
HP:46/ 51
MP:26 / 31
身長:150 cm
体重:68.0kg
筋力:13→14
魔力 : 9→14
敏捷:9→10
知力 : 8→9
耐久:9→10
魅力:8→12
スキル : 格闘Lv1、生活魔法[クリーン、水生成]、精神耐性lv1、睡眠耐性Lv1、検索Lv2、話術Lv1、回復魔法 Lv1、猫に好かれやすい、疲労回復(速)
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