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8.気がかり②

 眉間のあたりに人差し指をグリグリとされ、さらに眉根を寄せた。

 秀弥の指が離れた後、そこを自分の指先え抑える。


 そんなに顔に出ていたのか。気をつけなきゃ。


「お前はもっと周りに頼ることを覚えろ。なんのための副部長だ、バカ」


「……ありがとう。正直助かった、今日は早く帰りたかったから」


「マジで用事あったんか」


「用事ってわけじゃないんだけど……ちょっと気になることがあって」


 脳裏に浮かぶのはあの日、保育園から彼女を連れ帰った日に浮かべていた寂しげな笑顔。

 もし、今もあんな表情をして一人で耐えていたらと思うと正直気が気じゃない。


「……」


「あー、なんだっけ。さくら…だっけ? その子が関係あんの?」


「……うん。両親と色々あるみたいで、今も一人かもしれなくて……。あんまり首を突っ込みすぎるのも良くないってわかってはいるんだけどどうしても気になっちゃって」


 自分でもどうしてこんなにも桜ちゃんのことが気になるのか分かっていない。

 京香と同じ歳で心配だからか、隣で彼女の生活状態がありありと分かってしまう状況にいるからか。はたまた同情か。


「でもそんなの部長の仕事を疎かにして良い理由にはならない」


 さっきの後輩にも、他の部員にも、もちろん秀弥にも、桜ちゃんのことは全く関係のないことだ。

 全く関わりのない、秀弥以外は名前すら知らない赤の他人。秀弥だって名前を知っているだけで、その他のことは何も知らない。

 もし自分が一生懸命やっていることを他人の私情で疎かにされることがあれば。どれだけ不快だろうか。


「……あれは部長とか関係ねぇと思うけど…」


「ごめん、なんて言った?」


「あぁ、あんまり背負いすぎるなよって」


「……ありがとう」


「なぁに? 素直じゃん」


 頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でられ、不快になってその手を払い除ける。

 掌がぶつかる音がして強く払いすぎたかと心配になったけれど、秀弥は何も気にしていないように俺の隣を歩いていた。


「てか、なんか俺に用があったんじゃないの?」


「うわ、そうだ。山田に呼んでこい言われてたんだ」


「先生つけろ、バカ」


「昼休み中に団体戦のメンバーと立ち順について話したいって山田…センセーが」


「昼休み……?」


 腕時計を確認すれば後5分も経たずに昼休みが終わろうとしている。

 ここから走ってギリギリ間に合うかどうか。間に合ったとしても何も話せずに終わる。


「それを最初に言えバカ!! 間に合わねぇっつの! ほら、走るぞ!」


「えぇ〜……仲良く一緒に怒られようぜ」


 諦めてヘラヘラと笑いながら急ぐ様子もないその姿に大きなため息をつく。

 マイペースすぎるのもなんていうか……。


 でも、嫌いじゃない。むしろ羨ましいとすら思っている。

 自ら怒られる選択をしたり、誰かに迷惑をかけると分かっていながらそれを行動に移すことは俺にはできないことだ。

 行きすぎたそれはダメだと思うが、秀弥はその限度をちゃんと弁えている。弁えている、というか場面と相手を選んでいる。こういう奴のことを肩の力を抜くのが上手いと言うのだろう。


 きっと、今だって俺のことを気遣ってのことだろう。

 どこまでも優しい奴。


「嫌だよ、お前一人で怒られろ」


 その意図を汲んで、俺はもう大丈夫だと意味を込めて軽口を叩き秀弥の隣に並んだ。


 案の定、部室にたどり着く前にタイムリミットは来てしまったのだけど怒られるどころか昼休みに呼び立てて悪かったと謝られてしまった。


 罪悪感がすごい……。


 結局その場で話を進めて無事にメンバーと立ち順は決められたからまぁ良かったのだけど。


 うちは所謂強豪校と言われるところで、毎年3年の新部長と副部長は引退まで各大会の団体戦メンバーを自分たちで選出しなければならない。

 昔は顧問が選出していたらしいが、山田先生が顧問になってからこの方針になった。生徒の自主性を尊重したいらしい。


 だから、部長の選出もみんな慎重になる。

 適当に選んで後々後悔することになるのは自分だから。


「ついこの間先輩が引退したばっかだってのにもう春季大会かよ」


「早いよね。春季大会が終わったら全国予選だ」


「そしたら引退だな」


「引退したらあっという間に受験だよ」


「うわ、嫌なこと思い出させるなよ」


「忘れるなよ……」


 冗談まじりの会話をしていれば、控えめなノックの後に扉が開かれる。

 入ってきたのは昼間の後輩だった。


「じゃぁ、俺は帰るね」


 長居したら秀弥が気を遣ってくれた意味がなくなってしまう。


「じゃーな」


「佐藤さんもまた部活でね」


「お、お疲れ様です!」

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