6.一緒に帰ろう③
少しでも母さんの負担を減らせたらと、空いた時間に家事をするようにしていたら今みたいに習慣化していた。
「そういえば……」
彼女の両親は帰ってきているのだろうか。お風呂掃除を終え、湯張りを始めたところでふと思い出した。
階段を少し登って踊り場の小窓を開ける。広い駐車場にはまだ一台も車が止まっていなかった。
20時を過ぎ、もうすぐ21時になる頃。
流石に遅過ぎないか? どれだけ忙しくてもどっちかは帰ってきていい頃だろう。
あのまま京香だけを保育園から連れて帰ってきていたら、桜ちゃんは一体いつまであそこで待ち続けていたのだろう。あんな小さな子が、たった1人で、家族に迎えられていく友達を見送りながら、自分の親が迎えにきてくれることを。
「母さん、このあと桜ちゃんどうする?」
いけない話をするわけでもないのにキッチンで明日のお弁当の仕込みをする母さんへ小声で話す。
向こうの両親がまだ帰ってきていないことを伝えれば「そうねぇ」と少し悩んだ様子だった。
隣だと言ってもこの時間に5歳児を1人で返すわけにはいかない。
母さんも俺と同じ考えだったのか手を止めると、ソファーに座る彼女の元へ行き目線を合わせるために屈んだ。
「桜ちゃんはパパとママが何時に帰ってくるか聞いてるかしら」
ふるふると首を横に振る。
「そう……。それじゃぁ今日はうちに止まって行きなさい。パパとママには私が連絡しておくわ」
「わたし、1人でもだいじょうぶだよ」
綺麗に浮かべられた子供らしからぬ貼り付けたような笑顔。
年齢に見合わない言葉と性格はきっとあの両親が原因だろう。
涼白家が引っ越してきてまだ数週間。
彼女の両親と関わったのはあの初めの挨拶きりでそんなに深く関わってはいないけれど、今のこの状況や桜ちゃんの様子を見ていればなんとなく想像できる。
それならばこちらもずるい大人になろう。
「俺と母さんが桜ちゃんのこと心配だからうちに泊まっていってくれないかな?」
俺らのためだと言えばこの子はきっと断れない。案の定彼女は申し訳なさそうにしながらもこくりと頷いた。
「ありがとう。じゃあお着替えとか用意しましょうか。お風呂はおばさんと一緒に入りましょう」
「なに!? さくちゃんお泊まり!?」
「そうだよ」
さっきまで我関せずでゲームをしていた京香が嬉しそうな声色と共に俺の足へ抱きつく。
「京香は俺と風呂な〜、早く来ないと置いてくぞ〜」
「あっ、兄ちゃん待って!!」
風呂に入って温まったあとは作っておいたプリンをみんなで食べて。
桜ちゃんのお泊まりでテンションの上がった京香がまだ遊びたいと駄々をこねるのをなんとか宥めて寝かせた。
結局この日隣家の明かりが灯ったのは23時を過ぎた頃だった。