5.一緒に帰ろう②
「……プリン」
ポソリ、小さい声でつぶやかれたリクエストメニュー。
またメイン料理にいかないのがなんというか……。子供らしくないというか。
この子は少し周りに気を遣いすぎだ。
何かを言う時に少しの間が含まれることが多い気がする。きっと考えているんだ。
言って良いのかダメなのか、言うとしたらどこまでが相手を困らせない回答なのか。そんなこと、この年の子は考えなくても良いことなのに。
でも、プリンならこの前のタイムセールで多めに買った卵があるし丁度いいか。
「俺が作ったのでもいい?」
「うん」
「今日のご飯はハンバーグとプリンに決定〜!」
はしゃぐように喜ぶ京香と静かなままの桜ちゃん。
ハンバーグが苦手とかだったら悪いことをしたなと横目で様子を伺っていれば、僅かだけど口角が上がっていて安心した。
2人を両手に抱えたまま帰宅し手を洗ってくるように促した後、俺は材料の確認のためキッチンへ向かった。
「卵…ひき肉…牛乳……パン粉……、おっ、玉ねぎもあるな」
固める時間もあるしプリンから作ろう。
カラメルとプリン液を容器に入れオーブンで焼く。
子供達はリビングの机でお絵描きをしているみたいだ。本当に手間がかからないな。
「この間にハンバーグっと……」
玉ねぎをみじん切りにして軽く炒める。粗熱を取って挽肉と調味料、パン粉と混ぜてタネの出来上がり。
形も形成したし、焼くのは母さんが帰ってきてからな。
なんて思っていれば。
「ただいまぁ」
疲れた様子の母さんがリビングへ入ってくる。
お絵描きをしていた子供達もその声に反応してクレヨンを投げ出し短い距離をパタパタと掛けて行った。
「おかえり!!」
「お、おかえりなさい」
「おかえり、母さん」
「ふふ、ただいま。はぁ、可愛いわぁ。ごめんなさいね悠叶、ご飯まで作らせて……。今手伝うわ」
2人の天使をギュッと抱きしめたあと眉を下げて謝ってくる。立ちあがろうとした母さんを静止してエプロンの紐を縛り直した。
「いいよ、料理好きだし。あと焼くだけだから大丈夫、それより京香たちと居てやって」
2人とも騒ぐようなタイプじゃないし、少しでも休めるだろ。
「息子が出来すぎてて母さん怖い」
「なんだよそれ」
「それじゃぁ甘えさせてもらうわね」とリビングで一息つく母さんを横目にフライパンへハンバーグを投入した。
ジュゥゥと音を立てて焼き目が付いていくお肉。焼けていくのに比例していい香りが増す。
裏返したところでオーブンが鳴って、天板を取り出しプリンを冷蔵庫へ入れた。
夕飯を食べてプリンにありつく頃にはいい感じに冷えているだろう。
「京香、お皿持ってきて」
「はーい! ママお皿どれ!」
はい、俺の弟今日も可愛い。
母さんに教えてもらい取り出したお皿を持ってこちらにやってくる。
「ボク、ソースたくさん!!」
「はいはい」
京香の要望も聞きつつそれぞれのお皿に盛り付けてダイニングテーブルに腰掛けた。
もちろん、京香のだけ多めにというわけにいかないので桜ちゃんのも気持ち多めにかけた。
「「いただきます」」
4人で手を合わせ食べ始める。
うん、我ながら上出来。
桜ちゃんはどうかなと気付かれないように様子を伺えば。
「おいしい…!」
「本当? よかった」
大きな瞳をキラキラさせてハンバーグを頬張る姿は小動物のようで。
作ったものを美味しいと言って食べてくれるのは純粋に嬉しい。けれど、何よりも俺が作ったもので彼女がこんなに愛らしい表情してくれたことがとても嬉しかった。
ハンバーグと同じプレート盛ったサラダも残さずに綺麗に食べ「ごちそうさまでした」と手を合わせて各々食器を持っていく。
続けて俺も食器を重ねて台所へ持っていけば洗い物を始める母さんの姿。
「俺やるのに」
「いいわよ。ご飯作ってもらっちゃったしこの位はさせてちょうだい。悠叶は全部1人でやろうとしすぎなのよ!」
「……お願いします」
さて、手持ち無沙汰になってしまった。
2人はソファーに並んで座っている。京香のするゲームを隣で覗き込むようにしている桜ちゃん。
いつの間にあんなに仲良くなったのだろう。同じ保育園で近所で過ごしていれば必然と仲良くなるか。
「悠叶、顔緩んでる」
「ん゛ん……」
母さんに指摘され頬を触り緩んだ表情を正す。
「風呂掃除してくる」
恥ずかしさのあまり逃げるようにリビングを飛び出した。
落ち着くために深い息を吐く。
テストとか部活とか何か予定がない日、特に夜はこうして何か家事をしていないと落ち着かない。
うちは俺が幼い時から父さんが単身赴任で同じ家にいなかった。
半年に一度帰ってくればいい方で、基本は俺と母さんの二人暮らし。
京香が生まれてからは三人で暮らしている。
母さんも仕事をしているし、京香の迎えがあるからと定時で帰ってくるこがとが多いとはいえ、繁忙期には今日見たいに遅くなることもしばしば。