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「準備できた?」


「う、うん」


 いまいち何が起きているのか分かっていない様子の彼女に手を差し出す。

 袖口と首元にふわふわとしたファーがついた暖かそうなコートを羽織った桜ちゃんはお人形のようで今日もとても可愛い。


 俺の手を精一杯握りしめる小さな掌を優しく握り返した。

 その手をそっと引いて街の中を歩き出す。

 今日行くのは最近できたばかりだというショッピングモール。

 そこであれば室内だから天気を気にすることもいらないし、気温も暖かいはずだから寒さで風邪をひくこともないだろう。

 ただ懸念点があるとすれば、家族連れが多いことと新装開店で混雑していることだろうか。開店してから日にちが経っているとは言え、今日は休日。しかもクリスマス直前だ。

 家族だけじゃなく恋人たちも訪れているだろうことが予想できる。


「今日は手、離しちゃだめだよ」


 目的地に近づいてきた頃、言い聞かせるようにもう一度念を押した。

 予想通りの混雑具合の場合、連絡手段もない中で見つけ出すのは困難だろう。

 返事の代わりに力の込められた手に少しの愛しさを感じた。


 今日のお出かけは俺から彼女に提案したもの。

 寂しいと言った桜ちゃんが少しでも笑ってくれるように。

 昨夜、普段一つもわがままを言わない彼女が、初めて一緒にいたいと自ら言ってきた。けれど、それはほんの僅かな時間で。『今日だけでいい』と言った彼女はその言葉通り、朝になったら「ありがとう」と笑って部屋を出て行った。

 そんな姿を見て、どうして放っておけるというのか。


 ざわざわと来館者の喧騒で賑わい、赤と緑でそこら中飾り付けられた館内。

 店と店の間にはクリスマスフェアと書かれたチラシが貼られている。


 なんだか新鮮だなぁ、この空気感。

 学校は受験ムードでずっとピリついていたし、冬休みに入ってからは部屋に篭り切りだったからこの浮かれた雰囲気に懐かしさすら感じる。


「なんで、今日お出かけなの?」


「そろそろクリスマスでしょ? 京香にねクリスマスプレゼントを買ってあげたいんだけど俺一人じゃ迷っちゃいそうだから桜ちゃんにも手伝ってほしくて。協力してくれる?」


「うん、いいよ」


「ふふ、ありがとう」


 彼女の手を引いて、子供向けの商品が置いてあるお店を中心に見て回る。

 休憩を挟みながら京香のプレゼントも無事選び終え、気がつけば良い時間。

 日が完全に沈んでしまう前に帰宅した方がいいだろう。日が落ちればもっと冷え込むし、これで体調を崩したりしてしまったら年末年始も楽しめ無くなってしまう。


「そろそろ帰ろうか」


「……」


「桜ちゃん?」


 何かを見つめたまま動かなくなってしまった彼女。

 その視線の先にあったものはハラハラと雪の積もる街が閉じ込められたガラスの球体。

 屋根が白に染められた桜色の壁の家と真っ白なモミの木。所々散りばめられた金箔はイルミネーションみたいに輝いている。


「スノードームだね。逆かさにすると……ほら」


 一度逆さまにして元に戻せば、下に降り積もっていた雪がひらひらと舞い落ちる。


「すごくきれい」


「お店の中、少し見ていく?」


「いいの!?」


「もちろん」


 嬉しそうに瞳を輝かせたままの彼女のを手を優しく引いてショップの中へと足を進めた。

 お店の棚にはスノードームだけじゃなく、赤や緑を基調としたマグカップやお皿、サンタクロースやプレゼントボックスのオブジェなどクリスマスデザインの小物が並んでいる。

 どうやらここは期間限定のショップらしい。


 クリスマスの小物って結構バリエーション豊富なんだなぁ。

 このトナカイの置き物なんかはクリスマスシーズンが過ぎても飾っておけそうだ。


 いくつもの商品を彼女は楽しそうに眺めていたけれど、店前に並んでいたスノードームを見た時を超える反応は見られなかった。

 よほどあれが気に入ったらしい。


 京香ならこっちのジンジャーブレッドに飛びつきそうだ。

 これが女の子と男の子の差だろうか。精神年齢は女の子の方が高いと言うし。


「……好みくらい、もっと年相応でもいいのに」


 俺は、まだ君の信用に値しない?

 あの大人たちと変わらない、君を縛る人間?


「悠ちゃん?」


 大きな瞳が俺を見上げる。

 色素の薄い亜麻色の綺麗な瞳。


「なんでもないよ。暗くなってきたしそろそろ帰ろうか」


 聞けるはずもない本音を笑顔の下に押し込める。

 静かに頷いた彼女の手を引いて、モールの出口へと向かった。

 そうして出た外は、広い空を黄金色に染める太陽と街を彩るイルミネーションが少し眩しかった。

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