10.だいすきなひと
桜side
今日も私は広いおうちでひとり。
前のおうちでもお留守番をすることはたくさんあったけど、今みたいな気持ちにはならなかった。
寂しいけど、絵本をよんだりお絵かきをしていればあっという間で。
お日様がいなくなったら、ママの言いつけどおりごはんを温めて食べてどっちかが帰ってきてくれるのを待つの。
二人はおしごとで忙しいからおうちにはあまりいられないんだって。
新しいおうちは前よりもお大きくて、初めてこのおうちに来たときは久しぶりにママとパパがずっといっしょにいいてくれてうれしかった。
お話をしたり、遊んだりはなかったけれど、いっしょにいてくれるだけでうれしかったの。
お隣のおうちはお花がとてもキレイで、後から出てきたお兄ちゃんは絵本の中の王子様みたいだった。
かっこよくて、優しくて、いつも笑顔の悠叶くんが大好き。
私とたくさん遊んでくれて、いっしょにごはんを食べてくれて抱っこしてくれたり。頭をふわふわなでられるのも好き。
でもいちばん好きなのは、悠叶くんがお名前をよんでくれるとき。
お花みたいにキレイに笑って、お日様みたいなあったかい声で私のお名前をよんでくれるの。
広くて静かなお部屋で悠叶くんのことを思い出すと暗い気持ちがどこかにとんでいくんだよ。
それでもどうしても、とんでいってくれないときは心のなかで何回も悠叶くんのお名前をよぶの。
そうするとね。
「桜ちゃん」
いつもお迎えにきてくれるんだ。
悠叶くんがずっとそばにいてくれたらいいのに。
そうしたらこわい時間もさみしい時間もぜんぶなくなるのに。