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僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第十一話 好きという二文字
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友達の好きな人

 お店に着くと、僕たちはドリンクバーを頼んだ。瑛奈はいちごチョコクレープも頼んでいて、頬にチョコをつけながら満足そうにクレープを平らげた。


「あのね、美雨。実はこの前、浅田に告白したんだ」


「浅田……」


 僕はその人のことを知っていた。一年生の頃同じクラスで、瑛奈が片思いしていた浅田圭介。まだ好きだったのか、と感心すると同時に、彼に告白したという彼女の勇気には驚いた。


「うん。それでさ、振られちゃったの。だから今日はやけファミレス! 巻き込んでごめんね」


「……そうだったんだ」


 好きな人に振られてしまったのに、明るく振る舞う瑛奈を見ていると、胸が疼いた。

 瑛奈はコーラやメロンソーダなどの炭酸飲料を好きなだけガブガブと飲み干した。見ているだけで身体が冷えそうな飲みっぷりだ。僕も同じように飲んでいたけれど、瑛奈のそれには叶わない。


「浅田から、聞いたんだけど。去年の運動会の打ち上げの後、美雨に告白したんだってね。浅田、今でも美雨のことが好きなんだって言ってたよ」


 世間話の一つでもするかのように、するりととんでもないことを瑛奈が暴露した。


「え?」


 思わず素直な反応が口から漏れる。


「え? じゃないでしょ。まさか忘れたの?」


「い、いや。確かにそんなこともあったなって……ごめん」


 運動会の打ち上げの後ということは多分、僕と美雨がそれぞれの世界に戻っていった後だ。でも、美雨のノートにそんなことは書かれていなかった。わざわざ言うことでもないと思ったのだろう。


「もう、友達の好きな人なんだぞ〜? まあ、美雨が悪いわけじゃないしね。きちんと断ってくれて、むしろ嬉しかった」


「そっか……」


 事情を知らない僕は曖昧な返事をすることしかできない。でも、瑛奈がこのことでショックを受けていないのは良かったと思う。もっとも、口にしないだけで本当の心のうちは分からないのだけれど。


「美雨はいないの? 好きな人」


「へ!? いや、うん、どうだろう」


「うわ、誤魔化した! そういえばあの手紙の子はどうなったのよ。その人のこと、好きなんじゃなかったの」


「ああ、手紙、ちょうど久しぶりに昨日届いたんだけど……どう返事を書けばいいか、分からなくて」


 図らずも、今朝読んだ衝撃的な美雨のノートについて、ずっともやもやしていたことを瑛奈に吐露していた。彼女は「ほほう」と意味深に呟く。


「どんなことが書いてあったのか知らないけどさ、久しぶりに手紙が来たんなら、まだあんたと交友関係を続けたいってことじゃない」


「うん、それはそう……だと思う」


 入れ替わりのことを言えないので、やっぱり曖昧に頷いた。


「それなら、美雨が思ってることを素直にぶつけるしかないんじゃない? ていうか、ぶつけるべき! くどくど迷ってたら、いつかタイミングを失うよ。恋ってそういうもんだよ。ここぞという時に、ガツンと行けるかどうか。もうそれにかかってると言っても過言ではない」


 瑛奈の言葉には力強さがあり、僕は自然に「そうだよな」と納得させられていた。

 そうだ、そうだよ。

 僕たちの入れ替わりから、僕が美雨の心臓移植のドナーになることまで、すべて絶妙なタイミングで運命は動いていた。今、美雨に伝えたいことがあるなら、一秒だって無駄にはできない。こうしている間も、僕と美雨に残された時間は確実に減っているのだから。


「瑛奈の言う通りだね。私、ちょっと寝ぼけてたかも」


「もう、そうでしょ? 美雨は可愛いんだから、その子だって返事をもらえたら嬉しいはず!」


「……結局そこなの?」


 僕のツッコミに、瑛奈がぷっと吹き出した。二人で大笑いしながら、残りのジュースを飲み干す。瑛奈の顔はとても満足そうだった。


「今日はありがとう。きちんと相手に向き合ってみるよ」


「ううん、こちらこそありがとうね。私も浅田のこと結局まだ諦められないからさ、まだたぶん好きでいる。それでいつか吹っ切れた

ら、またお祝いしてよね」


「そのときは和湖も一緒に」


 きっとそのとき、僕はもうこの世にはいない。 

 でも、美雨が瑛奈や和湖と笑っている未来を守れるなら、僕は全力で美雨の命を救いたいと思う。

 僕の命をきみに捧げるまでの一週間が、これから始まるんだ。



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