表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第一話 人生を入れ替えたい
6/79

初めての「入れ替わり」

 目を覚まして最初に目にした光景は、知らない部屋に飾ってあった天体観測のポスターだ。混乱する頭で洗面所へと急ぎ、鏡に映った自分の顔を見て絶句する。


「誰だ……?」


 鏡に映っていたのは、僕と同い年ぐらいの知らない男の子の顔だった。

 あまりにも混乱しすぎて、数時間は部屋に引きこもっていたような気がする。時計の針は午後四時半を差していて、先ほどまで自分がいた現実と時間はほとんど変わらない。ただ、部屋の中にある家具や、机の上に投げ出された筆箱がなんだか古臭く感じられた。極め付けはゲーム機だ。僕の周りでは誰も持っていないような、分厚いゲーム機とカセットが雑多に置かれていて、目を見開く。

 ここは、どこだ……?

 僕は一体どうしてしまったんだ?

 ぐるぐると思考を繰り返すうちに時間だけがひたすら流れ、午後八時になると、目の前がブツンと真っ暗になった。まるで、セーブをせずにゲームを消してしまった時のように。

 気がつけば僕は、生命橋の上に倒れていた。


「夢……だったのかな」


 その時はそう思ったけれど、翌日の朝八時になると、僕はまた知らない男の子に乗り移っていた。そして午後八時になると、また現実へと引き戻される日々。そんなことが永遠と繰り返されていた。

 これは……ただごとではない。

 信じられないことだが、僕は今、見知らぬ少年と入れ替わっている。

 昼間は学校に行き、知らない人ばかりの教室の中で、記憶喪失のように頭を傾げる僕を、不審そうに見つめるたくさんの瞳が記憶にしみついている。


 少年としての毎日を過ごすうちに、分かったことがあった。

 僕が少年になり変わっている間、少年は僕になり変わっているということだ。僕と同じように、彼も「誰かと入れ替わりたい」と願ったそうだ。どうして分かったのかと言うと、お互いの部屋にあるノートに文字を書くことで、会話をすることができたからだ。

 僕たちは互いに近況を報告し合い、学校でボロを出さないように努めた。


 この入れ替わりの人生がいつまで続くのか分からなかったけれど、ある日突然、二人の入れ替わりは終わりを告げた。

 それは、少年が自分の過去についてノートに書き綴ってから一週間が経った日のことだ。

 少年はノートに、「小学生の頃友達にいじめられたことが原因で、学校に行けていない時期があった」と僕に打ち明けてくれた。たぶん、長い間入れ替わることで僕に心を開いてくれたんだと思う。僕の方も、少年とは同志のように感じるようになったので、自分のパーソナルな部分について、打ち明けてみたいという気持ちが生まれていた。

 その打ち明け話を聞いてちょうど一週間が経ったある日、僕たちはいつものように午後八時に元の世界へ帰った。翌日朝八時、僕は少年の家で目を覚ますはずだったのだが、なぜか自分の部屋で目覚めた。

 その翌日も、またその翌日も、彼と入れ替わることはなく。

 彼との約二ヶ月間の入れ替わり生活に終止符が打たれた。

 これが僕の経験した、初めての「入れ替わり」体験だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ