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僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第八話 生きたいと願うことは
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修学旅行

 桜晴が私の身体で病院に行ったのは二週間と少し前のことだ。私も夜にお母さんから予定を聞かされていたので、定期検診の日は把握していた。けれど、ノートでは検診について、桜晴には事前に何も伝えていなかった。検診の話をすれば、おのずと過去の話をしてしまうから。

 でも、検診が終わると桜晴から何らかの質問が来ると思っていた。病院に行けば、私の身体のことを嫌でも知ってしまう。動揺してノートに何かしらの反応を残していても、おかしくないと思っていたのだけれど。

 実際のところ、桜晴は私に何も聞いてこなかった。その日のノートにはうっすらと一度書いた文を消した形跡があった。もしかしたら、心臓のことかもしれない。それでも桜晴は具体的なことは何も書かず、単にその日学校であった出来事だけを綴っていた。

 私を気遣ってのことだろう。

 優しい彼のことだから、あえて質問しないでくれたのだ。

 それは、彼が私との入れ替わりをまだ続けたいと思ってくれている証拠でもあった。

 だから私も、桜晴には「病院どうだった?」などと聞くことなく、今日まで過ごしている。


「はい鳴海ー、これ回して」


「うん」


 十一月下旬に差し掛かった今日、都立西が丘高校一年二組の教室で、朝のホームルームの際に一枚のプリントが配られた。前の席の男の子からプリントを受け取り、後ろの人へと回す。タイトルは『来年度修学旅行積立について』。

 修学旅行かあ……。

 その時まで私たちは、入れ替わりを続けているのだろうか。

 ぼんやりと考え事をしていると、担任の先生が説明を始めた。


「みんなも知ってると思うけど、二年生の四月に修学旅行がある。そのための積立についての手紙だ。保護者の方に渡しておくように」


 先生からはそれだけだった。私は言われた通りに鞄の中にプリントをしまう。これは今日、桜晴のお母さんに渡さなくちゃ。もしかしたら私が桜晴として行くかもしれないんだし——なんて考えていると、一時間目の始業のチャイムが鳴り響く。みんな、唐突にポンと目の前に差し出された「修学旅行」というおいしいネタについて考える時間を取り上げられそわそわとしているのが分かる。そりゃそうだ。私たち高校生にとって、修学旅行は学校行事の中で一大イベント。友達と話したくなる気持ちはみんな同じだった。

 昼休みになると、やっぱり教室の四方八方で修学旅行の話が上がっていた。私も例外ではない。いつも一緒にお弁当を食べる江川くんと、彼と仲が良く、最近私とも話してくれるようになった安達(あだち)くんと一緒に、修学旅行の話を始めた。


「俺たちも修学旅行、二年生の四月なんだな」


「ああ。珍しい時期だと思ってたけど、行き先はやっぱり北海道かな」


「北海道?」


 自分の住んでいる地域の名前が出てきて、ぴくりと身体が反応する。


「あれ、鳴海は知らねえの? まあ部活入ってないから、先輩から話聞くこともないのか」


「う、うん。初めて聞いた。北海道なんだ」


「らしいよ。中学とは違うよな。俺、関西旅行だった」


「俺は北陸ー。北海道は特別感あるよな」


 江川くんと安達くんが、来年の修学旅行に思いを馳せている最中、私は別のことを考えていた。

 北海道か……。

 桜晴が修学旅行に行くのは二〇二五年だから、私からすれば二年と少し前。もしかしたらどこかで彼と出会っていたかも……なんて考えて、馬鹿だな、と否定する。

 広い北海道で、たった数日間だけ滞在していた桜晴と会っていた確率なんて相当低い。まして私は、美瑛町から出ていないんだし。絶対に会ってはいない。


「そういえば、北海道っていってもどこに行くんだろう? 江川くんたちは知ってる?」


 私は気になっていたことを聞いた。


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