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僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第五話 いちばん近くて、いちばん遠い
33/79

ずれ

 僕は、みんなと同じようにわーっと拍手をする寸前で、手を止める。

 いま、彼女は何て言った?

 確か、「令和九年度(・・・・・)」って。

 おかしい。僕が生きている世界は、二〇二四年——令和六年だ。

 でも聞き間違いじゃなければ、さっきのアナウンスは「九年」と言った。そこに違和感を抱いている人は誰もいない。僕は、途端に頭がズキズキと痛くなるような心地がして、うえ、と小さくその場でえずいた。

 幸い、誰にも気づかれず、それ以上の大ごとにはならなかった。 

 美雨の暮らしているこの世界は、二〇二七年の世界……なのか。

 思えば一回目の入れ替わりの時だって、入れ替わり先の人間の部屋で、古臭い筆箱や分厚いゲーム機を目にしていた。おかしいな、とは感じたが、そういう趣味の人なんだと思っていた。 

 この世界でも、僕は年度を確認することがなかった。

 入れ替わり中はスマホも相手のものを持つことになる。僕は、あまり他人のスマホをじろじろ見るのは好きではないので、必要最低限の使用に抑えていた。せいぜい瑛奈や和湖、母親と連絡をとる時ぐらい。学校でも、日付を意識することはあっても、わざわざ分かりきった年度を確認しようとしなかった。

 僕はてっきり、美雨とは同じ年代を生きているのだと思っていた。

 でも本当は違ったのだ。

 僕と美雨は、時代をすれ違っている——。

 あまりにも重大な事実に気づいて、心臓がドクン、ドクンと大きく脈打つ。

 そうだ。木曜日の九時に話題のドラマが見られなかったのも、あのドラマが二〇二七年に放送されているものだからだ。考えてみればとても単純なことだった。

 気づいてみれば、確かにびっくりすることではあったが、それでもこの入れ替わりの生活において、何か支障があるわけではないと感じた。

 開会式中は動揺しまくりで汗が止まらなかったものの、退場して応援席に座る頃には、なんとか暴れていた心臓も落ち着いていた。


「美雨、まだ全然動いてないのにもう汗だくじゃん。これ使いな」


「あ、ありがとう」


 みんな、「寒い寒い」と言っているのに、自分だけ瑛奈から渡されたタオルで汗を拭っている。この先どんな一日になるのか——想像することに精一杯になっていた。


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