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僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第五話 いちばん近くて、いちばん遠い

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会ってみたい

 七月になると、美雨の学校でも、僕の学校でも夏休み前の浮ついた空気が教室に流れ出した。僕は瑛奈と和湖が夏休みの遊びに誘ってくるかと思っていたのだが、和湖の方が吹奏楽部の練習で忙しいらしく、意外にもほとんど予定は埋まらなかった。ただ、花火大会だけは、和湖も部活後に行けるということだった。


「花火大会か。それって、何時から?」


「花火自体は八時からだけど、祭りは五時ぐらいからやってるよ」


「そっか。うーん」


 花火が始まる八時は、ちょうど僕と美雨が入れ替わりから戻る時間だ。

 となると、僕自身は花火を見ることはできない。美雨はきっと花火を見たいだろう。


「分かった。花火大会の日、空けておくよ」


「ありがとう! 三人で行けるね」


 僕の返事に、瑛奈と和湖が嬉しそうに弾んだ声を上げる。この頃になると、僕も二人に対して愛着を感じるようになっていた。花火を一緒に見られないのは残念だが、せっかくなら美雨に、友達との思い出を作ってあげたい。

 僕はノートに、花火大会の件について書いて、美雨に伝えた。

 美雨は、「えー良かったの?」と聞いてきたが、僕は純粋に花火を楽しんできてほしいということを彼女に伝えた。


『ありがとう。すごく楽しみ』


 彼女の嬉しそうな表情がまた頭に浮かんで、僕はそれだけで満たされた気分になった。

 あれ、どうして僕は今、嬉しいと感じているのだろう。花火を見られないことが残念なはずなのに、どうしてか胸の高鳴りが抑えられない。僕は、美雨を笑顔にさせることに、言いようもないほどの喜びを覚えていた。


「美雨に、会ってみたいな」


 思わず口から漏れた言葉に、何を言っているんだと恥ずかしくなり、頭を振った。

 入れ替わった先で、相手と実際に会ってみたいなんて思ったことは一度もない。それなのに、美雨に対してだけは、素直に会って話したいと思う。


 きみは、どんなふうに笑って、どんなふうに話してくれるんだろう。

 僕の中では勝手に、朗らかで、でも時々大人っぽい雰囲気の女の子という印象だけど、実際のきみはどんな人なのかな。

 もしもこの先、きみが望んでくれさえすれば、入れ替わりをやめた後でも、僕たちは会えたりするのだろうか。

 そこまで考えて、馬鹿なことを期待するな、ともう一人の自分が警告した。

 僕たちは入れ替わりという非日常の中で出会ったんだ。リアルで会えるなら、入れ替わりの対象には選ばれていない気がする。単なる僕の勘だけど、現実で会うのはなんだか違うような気もしていた。

 それに、彼女だって実際に僕に会いたいなんて思ってくれないだろう。

 これは、二次元と同じ。僕たちはきっと会うことができない。彼女は僕にとって、いちばん近くて、いちばん遠い存在だった。

 花火大会の当日、僕は午後五時から八時まで、三人でお祭りを楽しんだ。彼女が暮らす美瑛町から電車に乗って富良野まで向かう。公園で行われる花火大会には、多くの人でごった返していた。慣れない女性用の浴衣を着るのは苦労したけれど、浴衣を身に纏った美雨の姿は最高に美しかった。

 まもなく花火大会が始まります、というアナウンスが流れ、三人で必死に場所取りをした。

 良い場所を発見したことに満足していると、身体がすっと僕の世界へと引き戻されるのが分かった。

 それまでお祭りを存分に満喫していたので、このまま僕自身が花火を見るつもりになっていたけど、違う。彼女に身体を返すのだ。僕は、十分満たされた気持ちでぼんやりと掠れていく瑛奈たちを見送った。

 美雨、精一杯楽しんでね。

 心の中で呟いて、僕は彼女とバトンタッチした。

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