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運動音痴

 なんとか着替えミッションを終了した僕は、三人で体育館に向かった。

 体育の授業は、バレーボールだった。

 基礎練習もほどほどに、早速チームに分かれて試合をすることになった。僕は瑛奈や和湖とは違うチームで、まだ名前も覚えていない女の子たちと闘わなければならない。かなり緊張した。


「美雨、お願い!」


 早速目の前にチャンスボールが飛んできた。僕は両手でボールを打とうと身構える。トン、と腕にボールが触れるまでは良かった。でも、僕が受けたボールは早々に横に外れて、コートの外へと飛んでいく。


「アウト!」


 審判の声が虚しく響き渡る。


「次行こ、次!」


 チームメイトは僕のミスをあまり気にせず、次のボールを待った。

 けれど、その後僕がボールを打つことは一度もなかった。なぜなら、僕の前に飛んできたボールを、横から他のチームメイトが滑り込んできて受けたからだ。それ以外にも、僕に対する声かけは格段に減っていった。

 これって、僕にボールを回さないようにしてる?

 途中でそんなふうに考え出すと、そればかりが思考をぐるぐると駆け巡った。

 たまたま受けられそうな球が飛んできても、僕は空振りを繰り返し、ボールを打ってもいないのにその場にこけてしまう始末。

 ここまでくるとさすがに理解できる。


 美雨は極度の運動音痴だ。

 入れ替わり中は悲しいかな、身体能力まで自分のものを引き継ぐことはできない。僕も運動神経がいい方ではないが、美雨はレベル違いの運動音痴だった。

 まず、身体を動かすことに慣れていないのがすぐに分かる。ちょっと動いただけでも転げそうになるし、筋肉量が少ないため、ボールは全然飛んでくれない。足だってすぐに疲れてしまう。これまでろくに運動をしてこなかったのだと即座に分かってしまった。

 思うように動かない身体にあたふたしながら駆け回り、審判の「ピピーッ!」という試合終了の笛の音に、救われる思いがした。

 体育でここまで疲れたの、初めてかもしれない……。

 周りのクラスメイトは清々しく程よい汗をかいているのに対して、僕は背中に冷や汗をかきまくって、気分が悪かった。


「お疲れ美雨。今日もすっ転んでたね」


「大丈夫〜? 外から見ててヒヤヒヤしたよう」


 別のチームだった瑛奈と和湖が授業終わりに僕の元に駆けつけてくれた。同じチームだった人たちはさっさと仲良しグループのところに解散している。チームメイト同士でお疲れ、などの声掛けはなかった。


「う、うん……いや、本当びっくりした。こんなに身体が動かないなんて」


「何言ってるの。今に始まったことでもないじゃん」


「そうだよ。それに美雨は仕方ないよ。中学まで、ずっと体育できなかったんだもん」


「中学まで……?」


 和湖の発言に、僕は首を捻る。

 ずっと体育ができなかった? かなり引っかかる台詞だ。

 僕が疑問を浮かべていることに、逆に二人は訝しげな顔をしている。それもそうだ。自分自身のことなのに、不思議に思う方がおかしい。僕は適当に誤魔化すことに決めた。


「ああ、そうだよね。急に、上手くできるわけないよね」


 それらしいことを口にすると、二人はほっとした様子で「そうだよー」「焦らなくていいって」とフォローしてくれた。

 その場はそれで丸く収まったのだけれど、やっぱり先ほどの和湖の発言が気になってしまう。

 美雨は昔、体育ができなかった。

 それは、何かのっぴきらない事情があるからなんだろう。

 でもそれについて、ノートで彼女本人に聞くことはできない。これは間違いなく、「パーソナルな過去」に関する疑問だからだ。ノートで尋ねれば、一週間後に入れ替わりが終わる。それだけは避けたかった。

 二人の意味深な発言は一度頭の隅へと追いやり、六時間目の保健の授業を淡々と受けた。クラスの三分の一ぐらいの人が体育で疲れて寝ていて、先生に怒られていた。

 僕は時々窓の外を眺めながら、今後のことを考える。

 僕と美雨の間で、いくつかルールのようなものを決めておいた方が良いかもしれないな。

 今日帰ったら、またノートにメッセージを残してみよう。

 脳内作戦会議をしているうちに、いつのまにか終業のベルが鳴り響いていた。

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