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僕の命をきみに捧げるまでの一週間  作者: 葉方萌生
第二話 初めての経験
12/79

初めまして

***


「……う」


 再び目が覚めた時、私は自分がどこにいるのか分からなかった。


「……あれ、私、どうして」


 視界に映る見慣れた黄色い花の壁紙を見て絶句する。ここは間違いなく、自分の部屋だ。私——有坂(ありさか)美雨の部屋で間違いない。


「戻ってきたんだ」


 おうせいの家で階段を踏み締めた時、意識が薄くなったのが分かった。まるで美瑛神社で祈った後、意識が消えたときのようだ。

 壁に掲げた時計を見ると、時刻は午後八時二分。美瑛神社に行ったのが今日の放課後なので、時間にして四時間くらい、入れ替わっていたということだろうか。


「入れ替わってた……」


 そうだ。私がおうせいの身体に入り込んでいたということは、おうせいが私の身体に入っていたということ!?

 今更ながら重大な事実に気づき、部屋の中をさっと見回す。荒らされている様子は少しもない。ほっと胸を撫で下ろしつつ、はっとして今度は自分の身体をぺたぺた触ってみた。


「さ、さすがに何もされてない、よね……?」


 おうせいがどんな人間なのかは分からないけれど、少なくとも見た目の感じからして、見ず知らずの女の子に犯罪まがいのことをしでかすような人間ではない、と信じたい……。

 一体さっきの入れ替わりは何だったんだろう。

 誰に答えを聞くこともできない。夢だったのだろうか、と都合の良い解釈を試みてみたものの、おうせいの家で食べたカレーライスの味が忘れられない。やっぱり現実だろう。


「あれ、このノート、こんなところにあったっけ?」


 さっきは気づかなかったけれど、机の上に新しいノートが置かれていることに気づいた。

 ノートはよくある大学ノートで、高校の授業で使うためにお母さんに買ってもらったものだ。五冊入りのもので、まだ使っていなかった新品のノートが、置かれていた。

 何かの意思を感じた私は、ノートをそっと開いてみる。

 一ページ目に書かれていた文に、釘付けになった。


『初めまして。僕は鳴海桜晴といいます。都立西が丘高校の一年二組です。きみと、さっきまで入れ替わっていました』


「鳴海、桜晴……おうせい、だ」


 桜に晴れと書いて、桜晴。

 その美しい響きを持った彼の名前が強く印象に残る。と同時に、先ほどまで自分と入れ替わっていた彼が、こうしてノートにメモを書き残している事実に、胸の鼓動はどんどん速くなっていた。


『いきなりこんなこと書かれて、混乱してるかもしれませんね。僕はこの入れ替わりを何度か経験していますが、きみは初めてですか? もし初めてだったら、入れ替わりのルールについて、知っておいた方が良いかもしれません』


 入れ替わりのルール?

 突然ゲームマスターのようなことを言い出す彼に、私は面食らう。彼自身この場にはいないのに、まるで宙から私のことを観察しているみたいな。

 不思議な気分に浸りつつ、頭はいくらか冷静だった。たぶん、さっきまで実際に彼と入れ替わっていたという経験があるからだろう。むしろ、桜晴が実際に存在する人間であることが分かり、ほっとしている自分がいた。


『では、説明しますね。


 一、初めて入れ替わる時は、特定の場所に行かなければなりません。僕の場合は「生命橋」という橋の上。この場所を「命の交差点」と呼んでいます。きみも、入れ替わった時、どこか特殊な場所にいたかと思います。そこがそちらの「命の交差点」です。


 二、入れ替わりは朝八時から、夜八時までです。これは僕が今まで経験した入れ替わりで立証済み。いつ何時でも、きっかりこの十二時間だけです。朝八時になると強制的に入れ替わりが始まり、夜八時になると終わります。


 三、これは一番重要なことですが……入れ替わりの最中、こうしてノートなどで会話ができますが、どちらかが自分の過去を話す(・・・・・・・・)と入れ替わりが一週間後に強制終了します。過去と言っても、自分のパーソナルな部分に関わる過去です。例えば、昨日ハンバーグを食べたとか、転んで怪我をしてしまったとか、些細なことなら影響はありません。この過去の話については僕もまだ曖昧に認知しているところが多く、はっきり定義づけができないのが難しいところですが……。例えば今まで入れ替わった人からは、「過去に夫に不倫されたことで鬱になった」と打ち明けられて、入れ替わりが終了しました。


 四、一度過去の話をして入れ替わりが強制終了した相手とは、二度と入れ替わることができません。


 ——ざっとこんな感じですが、どれも僕が把握している限りのルールになります。これ以外にも細かいルールが存在しているかもしれませんが、僕たちがお互いの入れ替わりを十分に楽しむためのルールは、これがすべてだと思います。』


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