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鬱展開が嫌だと言ったら命を司る存在になったので、とりあえず燃やしてみる

命を司る神の鳥になったので、燃えた畑を再度燃やしてみる事にした

作者: 衣谷強

前作、前々作に嬉しい感想をいただけたので書いてみました。

お楽しみいただけましたら幸いです。

「ひぇっひぇっひぇっ……。災難だったなぁ。収穫前の麦が焼けてしまうとは」

「……うぅ」

「……あなた……」

「お父さん……」

「……っ……!」


 村の広場で、太った男の勝ち誇った声に、家族らしい四人がうなだれている。

 いや、両親と年頃の娘はそうだが、カドリーと同じくらいの少年は男を殺さんばかりの目で見上げていた。


「これで税が納められなければ、貴様等一家には厳しい罰が下るであろう。他の村人にもそれを助ける余裕はあるまい。なぁ!?」

「……」

「くっ……」


 周りに集まった村人に水を向ける男。

 誰も奥歯を噛み締めて目を逸らすところを見ると、男の言う通りなのだろう。


「儂にはそれを肩代わりする財力がある。だが赤の他人に大金をくれてやるほどお人好しでもない」

「……」

「まぁ身内となれば話は別だがね?」

「……!」


 男のねっとりした視線が、娘へと向けられる。

 要するに、畑が焼けて払えなくなった税を肩代わりする代わりに、娘を嫁によこせと言っているのだ。

 娘どころか孫と言っても通りそうな年齢差。

 まともな親なら大事な娘を嫁がせたくはないだろう。


「ほれ、ここなら村の連中が証人になる。さぁ、儂の妾になると言え!」

「ふざけんな! お前が畑を焼いたんだろ! 姉ちゃんをむりやり連れてくために!」


 弟であろう少年が、叫び声を上げる。

 その声に、目に、凄まじい怒りの焔が宿っていた。


「ひぇっひぇっひぇっ。そんな証拠がどこにある。無礼な事を言うと、お前の姉が我が家でどんな目に遭うかわからんぞ?」

「ぐっ……! ぎっ……!」


 男は子どもだからと侮っているのだろう。

 だがあの焔は本物だ。

 あのまま大きくなれば、いずれあの男に破滅をもたらすだろう。

 少年の身と共に。


「あ、あんなのひどいよ……。でも畑が焼けちゃったから、お金が払えないんだよね……? ぼ、僕はお金なんかないし、どうしたら……」


 泣きそうな声でつぶやくカドリー。

 俺は命を司る神の鳥にして、テイマーであるカドリーの従魔だ。

 カドリーがそう願うなら、叶えてやるしかない。


『ならば畑を燃やそう』

「えっ、で、でももう燃えたものを燃やすって……!?」


 戸惑うカドリーの肩から飛び上がると、あの家族のであろう焦げた畑を見つけた。

 俺は緑の炎を放つ。


「えっ!? また火が!?」

「昨日ちゃんと消したのに……!」

「大変! 今度はお家まで燃えちゃう!」

「お、お前! 姉ちゃんがうんって言わないからってまた……!」

「ち、違うぞ!? 今回は儂じゃない!」

「ラヴァ! 何やってるの!」


 大騒ぎをしながら一行とカドリーが来る頃には、全てが終わっていた。


「……麦が、生えてる……?」

「しかも一昨日の収穫間近な状態で……?」

「で、でもお父さん、お母さん……。この麦、いつものより綺麗で大きい……!」

「……こ、これなら、姉ちゃんあんな奴と結婚しなくていいよな! な!」

「……こ、こんな馬鹿な……!」


 喜ぶ家族とへたり込む男。

 その横で呆然としているカドリーの肩に、俺は降りた。


「……あー、びっくりした。でもこれできっとあの人達、助かるよね」

『そうだな』


 それは同時に、復讐譚の火を一つ消した事になる。

 十年と経たず、少年は男を復讐の焔で焼いただろう。

 あの男の命と、少年の人生。

 そしてその復讐の結果に悲しむ家族と、弟の人生を台無しにしたと自分を責める姉。

 その全てを救った事も知らず、無邪気に微笑むカドリー。

 それで良い。

 起きもしなかった悲劇など想像もせず、お前はその笑顔でいてくれ。




「……おい、聞いたか? あの豚野郎、フラれた腹いせに自分の所の畑に火をつけたみたいだぜ?」

「聞いた聞いた! しかも『こうすればもっと良い麦が生えてくるはずなのに!』とか騒いでたって?」

「お陰で大人しかった奥さんが豹変して、キツく懲らしめたらしい。豚野郎の泣き叫ぶ声が、近所に響いてたって!」

「あそこは奥さんはしっかり者なのに、気弱で豚野郎の言いなりだったからなぁ」

「それでいて『妻は文句も言わず面白くない』とか贅沢言って、妾を作ろうとかしてたんだろう?」

「これで随分刺激的な生活になるだろうさ」

「むしろ腹を割って話ができて、良い夫婦になるんじゃないか?」

「違いない! あっはっは!」


 爽やかな朝の空気の中、農夫達の笑い声を聞きながら、俺は間もなく目を覚ますであろうカドリーの元に向かって羽ばたくのだった。

読了ありがとうございます。


十年後。

そこには村一番のおしどり夫婦と呼ばれるようになった豚野郎の姿が!

そんな無理矢理ハッピーエンド。

お姉ちゃんは行商人として成功し、村に店を構えようと引っ越して来た青年と、お互いに一目惚れして結婚。

家を継ごうと畑仕事に頑張る弟君にも思いを寄せる女の子が……。


甘い話に後書きで蜂蜜を乗せたっていい。

自由とはそういうものだ(暴論)。


お楽しみいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きも含めて、八方丸く収まって良かったです。 次は豚領主の脂肪を燃やして、痩せたら格好良くなった!? と奥さんが喜ぶといいですね(笑) [気になる点] 今回の場合、蘇ったのは燃やされた…
[一言] 拝読させていただきました。 緑の炎だと麦が生えるのですね。
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