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四日目

ここは姫路駅前にあるホテルのロビー。朝の八時だがすでにアウフ・ライズンの五人全員が集まっている。このホテルは温泉の大浴場が完備されていたので各々ゆっくりと疲れを取ることができた様子である。


「ここのホテルは温泉風呂もあって快適だったなぁ。昨日までの疲れが取れたよ」

そう話す橋本に同意するように、全員が頷く。

「今日も天気が良くて観光日和ね」

桜井のコメントにすかさず吉岡が反応する。

「今日は長野県松本市まで行くので、ここ兵庫県姫路市から結構距離があるし現地の天気も良ければ良いなぁ」

「ねぇ、吉岡君。松本市までどれ位の時間が掛かるの?」

そう問いかける瀬戸に吉岡が携帯片手に答える。

「まず新幹線で姫路駅から名古屋駅まで一時間二十分くらいだろ。名古屋駅でJR特急“しなの”に乗り換えて松本駅まで二時間なので、乗り換え時間も入れて四時間は掛かるかな」

「今日は移動だけで四時間も掛かるのね」

驚きを隠せない瀬戸に橋本が一言。

「アカネちゃん、心配いらないよ。電車の中で駅弁を食べていればあっという間に着くから」

食いしん坊の橋本らしいコメントにみんなが笑顔になる。

そんな会話をしながら一行は姫路駅の新幹線ホームへと向かったのであった。


八時過ぎの新幹線に乗り、一行が名古屋駅に着いたのは九時半を少し過ぎた頃だった。


名古屋駅の新幹線ホームに降りた途端に橋本が一言。

「早速、特急の車内で食べる駅弁を買いに行こうぜ」

みんなを手招きしながら食いしん坊を自称する橋本が先導して店へと向かう。みんなで店へと向かいながら、志村が吉岡に問いかける。

「ヒロト君、ところで次の特急は何時出発なの?」

「えーっと、出発時間は... 十時みたいだな」

お手製の旅のしおりを片手に吉岡が答える。

「じゃあ、弁当選びに十分時間を掛けても大丈夫そうだし二つぐらい買おうかなぁ」

満面の笑みで橋本がつぶやいている。


名古屋駅構内の店には色々な駅弁があり、ご当地弁当も充実している。アウフ・ライズンの五人が駅弁選びに夢中になっている間に特急しなのの乗車時間になったのであった。


「それじゃあ、そろそろ車内に乗り込もうか」

吉岡に続いてみんなが乗り込んでいく。


名古屋駅から松本駅まで七駅で約二時間の旅である。車内で食べる駅弁も旅の醍醐味の一つでありメンバーも楽しんでいる様子。車内には一行の楽しそうな声が飛び交っていた。


「タクヤ君、本当に弁当を二つも買ってたんだね!」

驚いた顔で桜井が問いかける。

「味噌カツ弁当に天むすボックス。天むすは三つしか入ってないから、合わせて駅弁一つ半って感じかな。カオリちゃんも天むす一つどう?」

「私の“名古屋いろいろ弁当”にも天むすが一つ入ってるから大丈夫。ありがとう」

そう答える桜井の横から吉岡の手が伸びる。

「じゃあ、俺が一つもらっとくよ!サンキュー!」


そんな楽しげな会話と共にあっという間に二時間が過ぎ、松本駅に到着したのであった。駅から松本城まで徒歩で約二十分。松本城に着いたのは午後十二時半を過ぎた頃だった。


「昨日の姫路城は白くて綺麗だったけど、松本城は黒が際立ってる感じでこっちもすごく素敵!」

そんな志村の感想に吉岡が応える。

「さすがチヒロちゃん!松本城は壁に黒漆(くろうるし)が使われている珍しいお城なんだよ。昨日、姫路城は世界遺産に登録されているって言ったけど、実は姫路城と松本城はどちらも国宝に指定されてるんだ。しかも、五重の天守を持つお城はこの二つだけなんだよ」

みんな驚きの面持(おもも)ちで松本城を見上げている。


「天守に向かう途中の階段はすごく急になっているみたいなので、みんな気をつけてね。じゃあお城の中に入ろうか」

吉岡の先導で一行はお城の中に向かったのである。


松本城は住むためではなく(いくさ)のために建てられた城であり、天守も非常にシンプルな正方形をしている。各所に矢や鉄砲を放つための窓があり、みんな夢中にそれらを見物している。


その時!突然の悲鳴が天守内に響き渡った。


「きゃー!」

その声は明らかに桜井のものである。


「どうした!」

真っ先に橋本が声のした方へ向かう。他のメンバーも集まり始める。

「カオリちゃんが...」

声を詰まらせる橋本に吉岡が近づき同じように絶句する。

「カオリちゃんが窓から落ちた…」


その頃地上では明らかに人集り(ひとだか)が出来ている一角があった。天守から慌てて降りてきたメンバーは人垣をかき分けてその中心へと向かう。


「カオリ!」

そう叫びながら近づいて抱き起こそうとする同じ教育学部の瀬戸を吉岡が制止する。

「ちょっと待ってアカネちゃん!この高さから落ちたんだ!無闇に動かすと悪化するかもしれないし、まずは救急車を呼ぼう!」

そう言っている間に橋本がすでに救急車を呼んでいた。


それから約五分後、救急隊員が到着し桜井を取り囲む。それとほぼ同時に長野県警の警察官も現場に駆けつけて人垣の整理と状況確認を始めていた。


桜井の転落から約三時間後。

転落現場の松本城から救急車に同行して一旦はみんな病院にいたが、今はその病院から長野県警へ場所を移しており、今回の状況をメンバーから一通り説明し終わったところだった。


長野県警の警察官が話し始める。

「君たちは京都の大学生で元々は六人で旅行を始めたが、山口県で赤木さんが転落死。そして桜井さんも同じく転落死... さすがに偶然にしては不運すぎるし、何か気になる事はないですか?」

丁度その時、何やら周囲が騒がしくなってきた。


「いやー、バタバタと入ってきてすいません。なんせ京都から慌てて来たもので。京都市から長野県松本市まで三時間で来れるんですね。あっ、挨拶が遅れました。私は京都府警の捜査一課で警部をしている真鍋と申します。横にいるのが私の部下で刑事の立花です」

真鍋がそう言って立花に目をやると、立花も自己紹介を始めた。

「京都府警捜査一課の立花です。みなさん初めまして。と言っても二日前に山口県での出来事の後で吉岡さんとは電話で会話しましたが」


その時長野県警の警察官が真鍋と立花に冷たい麦茶を差し出しながら、恐縮そうに申し出る。

「お話は伺っておりますので、本件は京都府警で引き継いで頂くという事で宜しくお願い致します」

そう言うと敬礼をして退出した。


「ここは長野県警ですし同じ警察官ですが我々としてはアウェーな感じもするので、一旦今晩宿泊する予定のホテルに行きましょうか」

真鍋がそう言うと、すかさず立花が車の手配を始めた。


ここは松本駅前のホテルの一室。真鍋が話し始める。

「我々も今日はあなた達と同じホテルに泊まる事にしたので、ここは我々の部屋ですがどうぞくつろいで下さい。その上で少しお話を聞かせてもらえますか?」


真鍋と立花はキビキビとしている一方で、どこか穏やかで親しげな雰囲気もありアウフ・ライズンのメンバーも少しずつ緊張がほぐれていった。


「...という事なんですね。転落事故が続けて二件。うーん、偶然の出来事にしては奇妙ですね。これまでの道中で何か気になった事はありませんでしたか?」

真鍋の問いかけに吉岡がハッとして答える。

「そういえば...昨日僕たちは姫路城を見学していたんですが、天守閣で桜井さんが誰かとぶつかって窓から落ちかけた事がありました。すぐに周りを見たんですが、観光客は何組かいましたがそれらしい人は見当たりませんでした」

「なるほど... それは気になりますね...」

真鍋はそう言いながら立花に視線を送る。それを受けて立花は何かを手帳に走り書きしている。


「ありがとうございました。みなさんお疲れでしょうし、まだ旅行は続けるとの事なので今日はゆっくりして下さいね。何かあればすぐに我々の携帯に連絡してもらえれば駆けつけますので」

真鍋が笑顔でそう言うと同時に、立花が携帯番号の記載された名刺を全員に渡している。


こうして長かった長野県での一日が終わりを告げた。

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