二日目
ホテルのロビーで楽しげな大学生の声が聞こえる。
「みんな、昨日の夜はよく眠れた?」
「昨日は京都から博多への移動に結構時間も掛かったし、太宰府天満宮に屋台横丁と歩き詰めで、疲れて爆睡してたぜ」
吉岡の問いにそう答えたのは赤木。
「今日も元気に観光できるようにホテルの朝食でエネルギー補給も完璧!」
そう言っているのは、アウフ・ライズンの胃袋担当の橋本。
「昨日も楽しかったけど、今日の山口県も楽しみね」
旅のしおりを見ながら桜井の目がキラキラしている。
「よし、じゃあ早速、山口県岩国市へ向けて出発!」
一同は博多駅から新岩国駅へ向かうため新幹線ホームへと歩き出す。その道中でも会話は止まない。
「なぁヒロト、目的地の錦帯橋ってどういう所なんだ?」
「おいおいタクヤ、知らないのか?錦帯橋は三百年程前に創建された木造五連のアーチ橋で日本三名橋って言われてるんだ」
「おー、そんなに有名な橋なのか!橋の上から見る絶景も凄いだろうし、今から楽しみになってきたぜ」
博多駅から新岩国駅まで新幹線で約一時間二十分。午前十時過ぎには錦帯橋に到着。天気も良く結構な数の観光客で賑わっている。
「わー、すごい綺麗な橋!」
六人の感想が一致する。
「五連アーチの外観がなんとも言えない趣きを出してるよなぁ」
そう話す吉岡は続けてみんなに問いかける。
「橋の上からの景観もさぞかし綺麗だと思うし、早速行ってみよう」
みんなそれぞれの感想を述べながら橋に向かって歩き出す。橋の上に差し掛かった時には、みんなスマホ片手にそれぞれが好きな場所で写真を撮っており、この綺麗な絶景を楽しんでいるのであった。とその時、大勢の観光客の中から不意に誰かの叫び声が絶景にこだまする。
「きゃー!!誰かが橋の上から落ちた!!」
「救急車!誰か救急車を呼んで!」
その声を聞いたアウフ・ライズンのメンバーも声のした方へと集まって、欄干から下を覗く。周りの観光客の視線も橋の下に集中している。観光客の誰かが橋の中央辺り、五連アーチの中央三番目のアーチ下を指さしている。
「おいおい...あれって赤木じゃないか?!」
青ざめた表情でそう言ったのは橋本。
「間違いないよ...赤木君だわ...」
今にも泣き出しそうな顔で志村も答える。
「取り敢えず、河川敷に降りよう!」
吉岡がそう言って駆け出し、みんなが後を追うように走り出す。
錦川の河川敷に降りた頃には、周りにいた観光客の誰かが呼んでくれた救急車のサイレンが聞こえ始めていた...
それから約一時間後、河川敷で集まるアウフ・ライズンの五人。彼らの前に制服姿の男性二人が手帳片手に問いかける。
「それでは繰り返しますが、君達は京都にある大学の学生で、旅行中にこの橋を訪れて観光していたところ、赤木さんが橋の上から転落してしまった...皆さんはそれぞれ周りの景色に夢中で赤木さんが落ちた瞬間を誰も見ていないという事ですね?」
「はい、その通りです。周りの誰かの叫び声で橋の下を覗くと...そこに赤木が見えました...」
山口県警の警察官の問い掛けに吉岡が力なく答える...
警察官が重ねてこう言う。
「ここは有名な観光スポットなので他の観光客も結構いたんですが、誰も赤木さんが転落するところを見てないんですよ...まぁ、この絶景なので皆さんスマホで写真を撮ることに夢中でしょうし、目撃証言がないのも理解は出来ます。この状況では事件性もなく、不慮の事故という事で処理させてもらいます。あなた方の居住地である京都府警にも連絡は入れておきますので、そちらからも連絡があると思いますし、今日は今晩宿泊する予定の宿に戻っておいて下さい」
アウフ・ライズンのメンバー達が新岩国駅の近くにある旅館に到着してチェックインを済ませたのは夕方五時を少し過ぎた頃だった。ちょうどその時、番頭さんが一行に声をかける。
「お客様!京都府警の立花さんという方からお電話が入っています」
吉岡が代表して電話口に出る。
「もしもし、お電話代わりました。吉岡です」
「初めまして。私、京都府警の立花と申します。山口県警から連絡をもらいまして。この度はご愁傷様です... あなた方のお住まいは京都市内という事なので、我々からも少しお話をお伺いさせて頂きたくてお電話しています」
吉岡から、当時の状況やこの旅の背景など、先程山口県警に話をした事と同じ内容を伝える事となった。
「なるほど。状況は理解できました。では、あなた方はこのまま旅行を続けるという事ですね。念の為に携帯番号をお聞きしておきますが、くれぐれも気をつけて行動して下さいね。それでは失礼します」
電話を終えた吉岡が京都府警の立花刑事と交わした会話の内容をみんなに伝え、明日以降も予定通りに旅行を続けても問題なさそうだと告げる。
昨日のおみくじで凶を引いていた赤木。あのおみくじはこの事故を予言していたのだろうか... こうして彼らの長かった山口県での一日が過ぎたのだった。