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一日目

京都駅の新幹線改札前に元気な声がこだまする。


「おーい、こっちこっち!」

元気に手を振りながら吉岡が声をかける。

「吉岡くん!いつもの事だけど今日もやっぱり早いわね。今回は一番乗りを目指して三十分も早く来たのに、また一番乗りはあなたなのね」

そう返したのは、教育学部四年の桜井カオリ。

「ワクワクし過ぎて目覚まし時計よりも一時間も早く目が覚めてしまったから。いつもの事だけどな」

「まるで小学生みたいね」

何気ない会話からも仲の良さが伺える。


それから十五分後、今度は二人の影が遠くの方に見える。歩いて来るのは教育学部四年の瀬戸アカネと文学部四年の志村チヒロの二人。


「おーい、こっちこっち!」

吉岡の呼びかけに笑顔で瀬戸と志村が答える。

「来る途中のキオスクでアカネちゃんと一緒にジュースを買ってきたよ。ちゃんと人数分買っておいたし、後でみんなで飲みましょう」

そう言って志村がジュース入りの袋を少し持ち上げる。

「あとは赤木君と橋本君ね」

周りを見渡しながら瀬戸がそう言った時、ちょうど理学部四年の赤木タカユキがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「おーい、こっちこっち!」

お決まりの吉岡のセリフに赤木が手を振る。

「今回はオレが最後か?待たせてごめん」

「まだ集合時間前だし、それに橋本が来てないから最後でもないぜ」

吉岡がそう言った時、何やら袋を下げた橋本が見えた。

「おはよう。朝食代わりに食べようと”京の手鞠(てまり)寿司弁当デラックス“を買っていたら遅くなったよ。待たせてごめーん」


「全然待ってないよー」

五人の楽しげな声が同時にホームにこだまする。


まだ気温もそれほど上がっておらず、清々(すがすが)しい午前七時過ぎの京都駅新幹線改札前にアウフ・ライズンの四年生六人が集まった。


「結構朝早い時間の集合だけど、今回の旅のコーディネーターは吉岡だっけ?」

赤木がみんなを見渡しながらそう言うと、間髪入れずに吉岡がポンっと手を叩く。

「はい、みなさん!今回は九州から北海道まで、各地を巡りながらの旅です!ちゃんと”旅のしおり“も作って来たし...」

そう言いながら、カバンの中をゴソゴソと探り出す。表紙にデカデカと”日本縦断の旅“と書かれた手作りのしおりが一人一人に渡される。

念の為に作っていた予備の一枚がヒラヒラとカバンから舞い落ちた事にも気が付かず、吉岡がみんなに一言。

「じゃあ、まず最初の目的地、福岡県の博多に向けて出発!」


旅行サークルの大学生六人を中心にした奇妙な日本縦断の旅が始まったのである。


京都駅から博多駅まで新幹線で約三時間弱。車内では瀬戸と志村が購入したジュースをみんなで飲みながら過ごし、博多駅に着いたのは午前十時過ぎ。観光を始めるには丁度良い時間帯である。この日の福岡の天気は快晴で、京都に比べると蒸し暑さは少しマシなように感じられる。


「最初の目的地は太宰府天満宮!学問・文芸術・厄除けの神様が(まつ)られている天満宮で、オレたちのこれからの門出を祝うのには最高でしょ!」

そういう吉岡の先導で博多駅から在来線を乗り継いで約五十分、現地に到着したのは午前十一時ごろ。


「おー、やっと着いたなぁ。じゃあ、観光前にまずは昼ご飯でも食べないか?」

食いしん坊の橋本の提案に男子陣が示し合わせたように賛成の意を表明する。

「それじゃあ、ランチの後は太宰府名物の梅ヶ枝餅(うめがえもち)を食べたいなぁ」

「私もカオリちゃんに賛成!」

男性陣に負けず劣らず、教育学部の女性陣コンビの連携も息ピッタリである。


太宰府名物で腹ごしらえをした後、多くの人で賑わう天満宮の境内(けいだい)をゆっくりと散策する六人であった。


「私、お参りするの久しぶりかも」

そう言う志村に瀬戸も応える。

「お参りをすると身が引き締まる思いがするよね」

そんな会話の横で男性陣はおみくじ売り場を見つけてはしゃいでいる。

「みんなでおみくじ引こうぜー」

各々が順番におみくじ箱に手を入れる。

「おー、ヒロトとタクヤは揃って大吉かよ!いいなぁ。オレなんか凶だってよ...」

ガッカリしている赤木に桜井が声をかける。

「大丈夫よ赤木君。私も末吉で同じようなものだし、こうやって境内の柵に結べば、悪い結果でもそれを跳ね返すような力を授かるそうよ」

「カオリちゃんは優しいなぁ...それに比べてヒロトとタクヤのはしゃぎ様ったら...でも、そういう純粋なところがアイツらの良いところだけどな」

みんな揃っておみくじを開きながらお互いの紙を見せ合い笑い合っている姿は彼らの仲の良さを(まさ)に表現している。


天気も良くて天満宮観光に大満足の六人は同じルートで博多駅に戻り、そこから夕食を食べるために屋台が所狭しと立ち並んでいることで有名な中洲屋台横丁へ繰り出したのである。


「おー、ラーメン、焼き鳥、餃子。道に沿って色々な屋台がぎっしり!」

真っ先に反応したのは、やはり橋本。もちろん彼だけでなく全員のテンションも上がっており、これが良いだの、あれが食べたいだの、迷いながらの屋台選びも旅行の醍醐味(だいごみ)である。この日は複数の屋台で美味しい料理と楽しい会話を楽しんだアウフ・ライズンのメンバー達。一日中、博多を満喫した六人は博多駅前のホテルで旅行初日を終えたのである。

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