異世界に来た底辺作家〜スキル【小説家になろう】でポイント無双するまで〜
人気出たら連載版にするお試し版です。
「おけおけ。恋愛モノがキテると」
バリボリとポテチを食べながら、小説家になろうの攻略法を読み漁る日々。
もちろん、書いてます。
書いてますとも、ええ。
だが読まれないのだ。
PV?
パノラマビューの略かな?
ブクマ?
……ぶ、ぶくぶく太ったマラソンランナーの略かな?
とにかく読まれないから、攻略法を探しつつ、小説をちまちまと投稿しているわけだ。
さて、小説家になろうのランキング踏破法は、完璧にインストールできた。
まずは、人の多い時間帯めがけて予約投稿をしてだな……。
「あれ、あんだ、これ」
PCモニターの異常かとも思ったが、これはヤバいかもしれない。
視界がぐにゃぐにゃするだけでなく、体に力が入らない。
ガシャン――。
キーボードに頭を打ち付けた。
背筋をのばすこともできないし、前を見ることもできない。
ヤバい、これはなんかおかしい。
そう思ったら普通はスマホを探すだろう?
チッチッチッ、甘いな。
底辺作家歴5年ともなれば、マウスを握るのだ。
画面が見えないけど、適当に左クリックを連打して、なんとか予約投稿しようと試みる。
そして……意識を失った。
「おい兄ちゃん、おい」
横っ腹を小突かれるような違和感を覚え、ハッと目を覚ました。
「おーい」
声の方に視線をやると、そこにはおじさんがいた。
叔父ではなく、おじさんだ。
髪がボサボサで、無精髭で……革の胸当てに剣!?
「おいったら」
ガスッ――。
おじさんに脇腹を蹴られ、体がへの字に曲がった。
どうしてだか俺は、地面に膝をついて座り込んでいる。
たしか、PCの前にいたはずなのに。
「頭イッテんのか?」
「いえ、正常です」
「おお、喋った」
また蹴られそうだったので正常だと答えたが、本当に正常なのか?
俺は辺りを見回した。
アスファルト舗装されてない、むき出しの道。
酒場やら商店やら雑多に配置された店店。
そして目の前の建物の上には、でかでかとこう書かれている。
「冒険者ギルド」
「あ?ああ、そうよ、ギルドの前だぜ。邪魔だからどっか行きな」
ここはさしずめ、ナーロッパ。
小説家になろうにおける、テンプレでありお約束の一つ。
ナーロッパじゃないか。
「もしやアナタは冒険者さんですか?」
「ああそうだ」
「やはり。その胸当て、使い込まれた剣、血のついたブーツに、いかめしい顔。C級冒険者ですね!?」
「……な、なんで分かった」
B級以上から、だいたい品性が良くなる。
見た目にも気を使い始め、やさぐれから、遊び人風にシフトチェンジしてくもんだ。
なろうってのは、そういうものなんだ。
ふむ、ここは小説家になろうにおける、異世界テンプレを踏襲しているわけだ。
であれば、俺にはあるはず。
転生・転移者特典の神託スキルがな!
俺は駆け出した。
すべて分かる、手に取るように分かるぞ。
冒険者ギルドにて、鑑定を行う。
それから俺のスキルに全員が腰を抜かして、なんか無双を始める。
意表をついたパターンなら、貧相な鑑定結果になるだろうが、その場合はおおよそ、俺がスキル開発をすればいいのだ。
なろう底辺作家歴5年を、ナメてもらっちゃあ困るね!
バタンッ――。
「鑑定お願いしますッ!」
俺は受付へと勇み行く。
ギルド内の視線を一身に浴びながら、主人公然とした態度でな。
「か、鑑定ですか、どうぞ」
受付嬢が差し出したのは、これまたド定番の水晶玉だった。
よし、これで俺のスキルがわかるぞ。
ソっと手を乗せてみると、水晶玉がボヤーと光る。
そして……ん?特に何も起きないだと?
水晶玉が光った後は、特に何も起きなかった。
これでは、ぼんやりと明るい玉を触ってるだけの、いきがった変な男になってしまうじゃないか。
水晶玉から手を離すタイミングもわからないし、とりあえず黙って受付嬢を見つめていると、べべーッと変な音がした。
なんかファックスみたいな音だなあと懐かしく思ってたら、受付嬢は手元をゴソゴソして、何かをビリッと破り、俺に差し出してきた。
それは、文字が書かれた1枚の紙だった。
「鑑定が終わりました。あの、もう離していいですよ」
「……はい」
俺が手を離すと、急いで水晶玉が回収された。
泥棒だとでも思われたのだろうか。
気を取り直して、受付に置かれたレシートみたいな紙に目を通す。
そこに書かれていたのは、ステータス表だった。
体力やら年齢やら名前やら色々書かれてて、その一番下には……あった!
「スキル【小説家になろう】か。ふむふむ」
【小説家になろう】ねえ。
そんなスキル、あったっけ?
普通は【剣聖】とか【大賢者】とかそんなんでしょ。
なんだ【小説家になろう】って。
ただのサイト名じゃないか。
「スキルの説明なら、すぐ下にありますよ」
困った顔をしていたら、受付嬢が助け舟を出してくれた。
言われた通りにスキルのすぐ下に目をやる。
なるほど、大雑把ではあるがスキルの説明が書かれているな。
内容はと……。
【小説家になろう】
HinaProject Inc.が運営する、投稿型小説サイトを異世界で運営することができる。
システム改変、規約改変はスキルホルダーの自由裁量。
ただし、小説家になろうの運営理念にそぐわない場合は、上記の限りではない。
スキルを使用する場合、魔力を込めて「ログイン」または「なろう」と詠唱する必要がある。
異世界にはインターネット、PC等が存在しないため、スキルホルダーは別の媒体を、決定しなければならない。
別の媒体は、一度決めたら変更不可。
ふむふむ。
「これ、意味わかりますか?」
一応、受付嬢にも確認してみたが、首を傾げている。
やはり分からんよな、だってここ異世界だし。
俺は日本で、5年もの歳月を費やして、なろうと向き合ってきた。
だからほとんどのことは理解できる。
ただ最後がなあ。
PCがないから別媒体を用意しろと言われても。
しかも、一度決めたら変更不可だもんな。
……どうしよう。
「小説家さんなんですか?」
うんうんと唸っていると、受付嬢が質問してきた。
レシートみたいなステータス表を見て、疑問に思ったのだろう。
【小説家になろう】だもんな。
小説家だと思うよなー。
ただの底辺作家なんですよ俺、なんて言いたくないし。
あ、いや待てよ?
底辺でも作家は作家だ。
見向きもされない小説を山のように書いていたわけだが、書いてるってことは作家だよな。
評価されなきゃ小説家とは認めれない、なんて法律ないでしょ?
義務教育でそんなこと習ってないし。
てことは俺、小説家じゃん。
「……まあ、そっすね」
「へえー、それなら冒険者登録は不要ですよね?」
「……え?」
「だって小説家なんですよね?冒険者になるんですか?」
「あー」
たしかに。
冒険者には……ならないっていうより、なれない。
体が頑丈ってわけでもないし、剣は触ったこともないし、喧嘩もしたことないし。
冒険者が不向きってことは、俺が一番良く分かってる。
うーん、てことは必然的に小説家になるしかないよな。
スキル【小説家になろう】だし?
小説書けって言うんなら、いくらでも書ける自信はあるし?評価されるかは別だけど。
「そうですね、冒険者は止めときます」
「はーい」
ポイッ――。
受付嬢は、俺のスキル表を丸めて、ゴミ箱へと放り投げた。
いやいいんだけどさ、なんか切ないわ。
こっそりと捨てたらいいじゃない。
ゴミのように捨てなくても……まあゴミか。
また笑顔を貼り付けてこちらを見ているし、別に悪意があってのことではないだろうからな。
うん。
……うん?
ゴミか、ゴミなのか!
「ちょっと、質問なんですけど」
俺は受付嬢の答えを聞いて、PCやスマホに代わる別の媒体とやらを決めた。
そもそも小説家になろうは、インターネットと、インターネットに流れる情報を出力する装置 (要するにPCとスマホ)によって成り立っている。
それなのに、俺のスキルが【小説家になろう】ということは?
インターネットの代わりになるものが、この世界にはちゃんとあるってことだ。
日本にあってこの世界にないもの、この世界にあって日本にないもの。完璧とは言えないが、なんか代替できそうなもの、といえば、恐らく魔力だろう。
では魔力を使って情報を流せたとしよう。
何に流すのか?それが一番重要だ。
PCやスマホは、作家と読者を繋ぐ媒体なのだ。
スマホは常に持ってるし、PCは家に帰ればあるし。
日本にいれば、24時間小説家になろうに触れることができるわけだ。
それに代わる物は何なのか。
そりゃあ、もう一択しかない。
べべーッ、ビリッ――。
今の音が、まさにそれだ。
やっぱり小説といえば紙だ!
さっき受付嬢に聞いたのは、紙の値段とか普及率だった。
俺の鑑定結果を出力して、それでポイと捨てるぐらいだから、大して貴重でもないんだろうなと思ってら、やっぱりそうだった。
メモ帳とか、塗り絵帳とか、小説だって、みんなが普通に買える値段で売ってるらしい。
だから紙だ。
常にポケットに入れられるし、そして書ける。
小説家になろうの醍醐味は、小説家になれるって夢があるとこだろう。
だから作ろう、俺と同じ底辺作家を。
俺は受付へと赴き、渋い顔で言った。
「紙、もらえますか?」と。
トイレか?後から気づいて、ちょっと恥ずかしかった。
レシートみたいに細い紙を1枚手に入れて、またギルドの端っこへ。
そして、気合を入れて例の呪文を唱える。
『なろう』
すると紙の上に浮かび上がったのは……。
青と白を基調としたデザイン、某声優を全面に押し出したラジオ告知、そして!エロい広告。
「あれ?なんか見切れてるな」
細長いレシート状の紙なので、とてつもなく見切れてるけど、まあ分かる。
これは小説家になろうだ!
で、どうしたらいいんだろう。
と思いながら、細い画面をよくよく見てみると、サイトトップにあるはずの、ランキングが空白になっているではないか。
いつもならここには、えげつないポイントを稼ぐ猛者が軒を連ねているのに……白紙だと!?
今ならランキングの表紙を飾れる……書きたい、今すぐ書きたい。
はやる気持ちを抑え、紙をスクロールしてみると、スマホのように動いてくれた。
んで、ぺージ下部へと流してみるが、ない。
完結作品、更新作品、新着短編、コンテストやら書報やらがない!
これってつまり、日本で書かれた小説はここに掲載されてないということか。
え?
てことは、1から登録者を増やしてかなきゃならないの?
なるほどなるほど。これは燃えるな、燃えてくるなあ!
俺は、小説家になろうの底に溜まってる、泥水をすすって生きてきた男だ。
小説家になろうの仕様は隅々まで把握しているし、これまでに培ってきた作家脳もある。
今この世界で、小説家になろう上で、まともに小説を書けるのは俺しかいないのだ。
つまり、登録者を増やせば増やすだけ、すべてが俺の読者になる。
PV爆上がりの、ブクマと星のランデブーが始まるということだ。
やるしかないな。
俺はまた、受付へ。
今度は受付嬢ではなくて、ギルド内にいる全員へ届くように、声を張り上げた。
「めっちゃ面白い小説を、ただで読みませんかー!」
「……」
全員がキョトンとしていたが、俺はめげない。
この程度、5年間の修行に比べれば屁でもない。
俺のスキルを明かし、俺の持ってる紙を全員に見せて、娯楽の少ないであろう彼らに、色々と吹き込んだ。
ハーレムもの、恋愛、BL、それからちょいエロまで何でもあるよ!とな。
「おっしゃ、登録してやる!」
「俺もだ俺も!」
そしてこの世界で初めての、小説家になろう登録者が誕生した。
しかも20人も。
「んで?小説はどこにあんだ」
もう待ち切れないようだな、C級冒険者おじさんよ。
仕方ない、俺が今すぐ書き上げてやるぜ。
「えーと、タイトルは雪の道。ジャンルは純文学と」
純文学小説をなッ!
最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。
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