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34話

 我はホワイトドラゴンとの会話を終えると、同じ道を辿って冒険者たちが休む場所へと戻った。そして、何事もなかったかのように見張りを続ける。


「おはようございます。アメリアさん、ありがとうございます。この通り、元気になりました」

「まぁ、お主が居なければ、我もあの場で切り殺されていたかもしれんからな」


 このフウという冒険者には、幾度となく救われている。我がこうしてこの場にいるのも、元を辿ればこの冒険者がギルドで手引きしてくれたおかげだ。


「それでは今から帝都へ向かいます!みなさん、集まってください」


 一夜休んだだけだというのに、冒険者たちは魔力が戻ったのか、嘘のように元気だ。回復魔法を受けたのだろうか、傷だらけだった者たちも既に傷が無かったかのようにぴんぴんとしている。


「あの化け物を探して討伐すべきか迷ったが、早朝に現場へ戻ったところ、気配は完全に消えていた。化け物は逃げたものと判断した。追ったところで我々には何もできない。この件はもう一度体制を整えてから行うべきと判断した」

「それでは……——転移魔法!」


 瞬間、我らの周りを囲むように風が舞う。そして我らの眼前には帝都の中央ギルドが広がっていた。


「とりあえず、皆が無事でよかったよ。あの場では死にかけたが……間一髪で急所を外していたからな」


 冒険者たちは互いに誇らしげな顔を見せ、武勇伝のように語り合う。唯一、抗えたのはフウだけであったというのに。あとの者は魔法を放つ間もなく敗北していた。そもそもフウがポーションを持っていなければあの場で息絶えていただろう。


 しばしの安堵の空気を破るように、ギルドの扉が軋みを立てて開く。その瞬間、賑やかだった場は一転して沈黙に包まれた。


「皇帝陛下……なぜ、ここに」


 人々が一斉に頭を垂れる。我もそれに倣って頭を下げた。現れたのは皇帝陛下。やはり、その威圧感だけは桁違いである。


「魔石は?ダンジョンの主の魔石は手に入ったのでしょうな」

「そ、それが逃亡されまして」


 ヘスが答えた瞬間、彼の身体が壁に叩きつけられた。皇帝が一振りで薙ぎ払ったのだ。


「逃亡だと?私が依頼したのは、ダンジョンの主の討伐と魔石の確保。討伐も果たせず、ノコノコと帰ってきたというのか」


 初めて会った時とは印象が違った。皇帝の怒気が肌を刺し、その場の空気は氷のように張り詰めてゆく。


「ですが、こうして皆が無事に——いえ、何でもありません」

「そうだ。お前たちは依頼を果たしていない。ならば、今すぐ戻り討伐せよ」

「くっ……」


 ヘスは苦虫を噛み潰したような顔で立ち上がる。依頼を受けた以上、成し遂げなければならない。それは冒険者の鉄則。だが、ホワイトドラゴンは既に姿を消しているはずだ。今頃はこの町をうろついている頃だろうし、魔族領をさまようこと自体、人間にとっては死と隣り合わせだ。


「無理じゃ。あれは勇者クラスの者でなければ倒せぬ。剣を持つ魔族、たまたま運が良かっただけで、次はないのじゃ」


 思わず、我は皇帝に意見した。このまま沈黙することなど、できはしなかった。すると我の一言に、皇帝の顔が歪んだ。


「剣を持つ……魔族だと?」


 皇帝の声は低く、しかし確実に震えていた。怒りではない。むしろ、恐怖に近いものだと我は直感した。ギルド内にいた冒険者たちの背筋が一斉に凍りつく。先ほどまで勝利の余韻を語り合っていた彼らも、あの魔族に全く歯が立ったなかったことを思い出したのだろう。


「ヘス、それは本当か?」

「はい。人の姿をしながら、翼を持ち、魔法ではなく、常軌を逸したスピードで剣を振っておりました」

「ははははは!」


 次の瞬間、皇帝が狂気じみた笑い声を上げた。ギルドの床が震えるほどの声量に、誰もが息を飲んだ。


「そうか、そうか……。まさかそんな隠し玉を置いていたとはなッ。いいか、貴様ら。剣を持つ魔族を討ち取るまで、誰一人として帝都に戻ることは許さん!」


 その命令は、まるで死刑宣告に等しかった。冒険者たちの顔が青ざめ、重苦しい沈黙が広がる。我は思った。皇帝はホワイトドラゴンの事を知っているのではないかということ。


「ですが……あまりにも力の差がありまして」

「ポーションで何とか生き延びたんです、あれは正真正銘四天王かと」

「関係ない、討伐せよ」


 冒険者たちは口々に言うが、皇帝は一蹴すると、その場を立ち去ろうとした。その時だった、フウが皇帝に近づき、耳元で何かをささやいた。その瞬間、皇帝は青ざめ、フウの顔を見た。


「今の発言を撤回し、追ってまた連絡する」


 そして皇帝はどこかへと消えて行った。


「アメリアさん、冷や冷やしましたよ……ダイヤモンド皇帝に向かって」

「ムカついたから言っただけなのじゃ。それより、何を言ったのじゃ?」

「ポーション代を請求しただけですよ。私があの場で使ったのは上級回復魔法相当の治癒草から作られたポーション。一つでおよそ金貨数十枚の価値はありますから」

「そうだったのじゃな、何はともあれ、我はこれから寄るところがあるのじゃ。それでは」


 我はその足で城の近くにある酒場に来ていた。昼間から開いているのはここくらいなので、ホワイトドラゴンが迷うことは無いだろう。店内は薄暗く、ホワイトドラゴン以外に客はいなかった。カウンターの奥でマスターが暗い表情をしながら、こちらを見ていた。


「お待たせなのじゃ。色々あって、報酬はまたあとでって感じだったのじゃ」

「今は一文無しというわけですか?」

「ま、まぁそうじゃな」

「一応こちらの貨幣は持っていますから、安心してください」


 ホワイトドラゴンはやれやれといった顔でこちらを見つめた。どうやら我はかなり待たせていたみたいで、ホワイトドラゴンの前には皿が置かれていた。何かを食べたのだろう。


「それでは、お会計を」

「石貨四百枚だ」

「はい」


 腰のポーチから貨幣を取り出す。いわゆるマジックバッグだ。ホワイトドラゴンは剣をこの中に収めているため、常に手放さず持ち歩いている。


「それではユーカ様のもとへ案内をお願いできますか?」

「当然なのじゃと言いたいところじゃが、あの城の中なのじゃ。我は小柄ゆえ換気用の小窓から出入りできるが、流石にお主には無理じゃろう」

「では、吸血鬼をどうやって中へ入れるおつもりだったのですか?」

「我に聞かれても困るのじゃ。せめて隠密魔法が使える者でもおれば、良いのじゃが……そうじゃ、あの悪魔は戻ってきたりしておらんか?」

「悪魔は戻ってきていません」

「それなら魔道具!魔道具はどうじゃ?」


 ホワイトドラゴンは少し乗り気ではなかったが、我は奴の手を引いて、街の魔道具屋へ向かった。大きな町だけあって店は何軒かある。とりあえず一番に目に入った店へ入る。


「マジックバッグ……金貨百五十枚?」

「魔道具の作り手が減ってるからね。高騰は避けられないのさ」


 店員はそう言いながら、いくつかのマジックバッグを取り出し、我に見せる。


「お主はどれほど持ち合わせておる?」

「金貨二十枚程です。これは以前、頂いたものですから」

「ここにある品はどれも百枚以上するな……」


 すると店員はホワイトドラゴンの腰にあるポーチに目を留める。


「そのウエストポーチ、かなりの逸品だね」

「これは頂き物ですので」

「いや、売ってほしいと言っているわけじゃない。大切に使うことだ」


 そう言って笑う店員。魔道具はどれも高額でとても購入できるものではなかった。自分だけなら帰れるが、ホワイトドラゴンの身体では通ることは不可能だ。そもそもの話だが、扉には何らかの魔法が掛けられて破壊できなくなっているし、中から外に出ることは出来ない。そんな状況下で吸血鬼を連れてカホの眠る医務室までどう行こうと考えているのだろうか。ユーカのことだから何か策があるのだろう。あの鉄壁の防御にも驚いた様子はなかったのだから。


「おそらくユーカ様なら手立てをお持ちでしょう。とりあえず、これまで通りアメリアが使っていた手段で侵入してみましょう」

「そうじゃな」


 その考えはホワイトドラゴンも一緒らしい。我は城の奥手から壁を登る。魔法を使って一気に登るのだが、ホワイトドラゴンは普通に跳躍して見せた。翼を使わなくてもジャンプでこの壁を越えられるのかと思いつつも、我は木陰に隠れるようにして、ユーカの居る部屋まで、壁を登ったときと同じ方法で飛ぶ。


「こんな感じじゃ」

「なるほど」

「ん?なんか穴が大きくなったような……」

「ぎりぎりですが、中に入れそうです」


 我が中に入ると、我に続くようにホワイトドラゴンが中に入った。


「ユーカ!久しぶりなのじゃ!どれくらい経ったのじゃ?」

「四日くらいだな。無事にホワイトドラゴンと会えたんだな。それは良かった。ホワイトドラゴン、改めて言うが、私は今ただの人間だ。四天王時代のような主従関係はない。私の命令を聞く必要もない。それに、今は力もない。元魔王であったことを証明できるのは、過去の話をするくらいだ」

「そうですね。まずは本当に、あなた様が十七年前に勇者に討伐された我らが仕えた魔王なのかを確かめさせていただきます」


 ホワイトドラゴンは真剣な目でユーカの事を見る。


「アメリアが知らないことで、私とホワイトドラゴンだけが知ること……そうだな、ホワイトドラゴンが使える魔法は目くらましとロックブラストだけだ」

「……っ。そうですね。それを知るのは、数少ないですから」

「ええっ!魔法使ったことあるのじゃ?我と戦う時はいつも魔法なんて使ってなかったのじゃ」

「私だって、少しは使いますよ」


 その瞬間、ホワイトドラゴンは警戒の糸を解いたのか、ユーカに頭を下げた。ユーカはこれまでの経緯を告げる。別世界に転生したこと、この世界に転移してきたこと、そして魔族に襲われ、友人が危機的状態にあること。


「吸血鬼を明日にもここに連れてきましょう。吸血鬼も分かってくれるはずです」

「申し訳ない」

「いえ。あの時、勇者パーティーを止められなかったことをずっと悔いていましたから、恩返しをさせてください」


 ホワイトドラゴンは何かを思い出したかのように口を閉ざすが、すぐに元の表情に戻る。


「そういえば、人里ではホワイトドラゴンと呼ぶのはあまりよろしくないのではないですか? 私のことはツキとお呼びください。昔の名です。故郷ではそう呼ばれていました。四天王になれる者だけがホワイトドラゴンを名乗る資格を持つ、それが掟なので、今の私には名乗る資格はありませんから」

「分かった。それではツキ、頼んだぞ」

「はい」


 ツキはそう言うと、包帯で押さえていた翼を解いた。白く美しい翼である。


「怪我をしているじゃないか。大丈夫なのか?そんな翼で」

「っ、それは……」

「カホのことは、この城の医師に診てもらっている。良い報告はまだないが、今日一日は休め」

「分かりました。明朝には出発いたします。それまではユーカ様に甘えさせていただきます。ですが、女性の部屋に泊まるのもあれですから、どこか格安の旅籠を探して泊まりますね。それでは」


 そう言うと、ツキは翼を包帯で巻きコンパクトにし、服で隠してから、窓から飛び降りた。


「そういえば、あの窓」

「ああ、私が少し削っておいた。防御魔法は魔法耐性こそあるが、物理耐性は皆無だ。つまり、このドアも蹴破れば壊れる。まあ、大きなことをしてしまえば、カホやショウゴ達の身に危険が及ぶかもしれない。だからアメリアが出た後、少しずつ窓枠を削って広げておいた。初夜、ここに入るときはスムーズだっただろう?」

「確かに言われてみれば……てっきり体が慣れたのかと思ったのじゃが」

「まさか、私がただアメリアを呆然と待っていたわけではない」


 そう言ってユーカは我の頭をくしゃくしゃした。


「アメリア、ありがとう。吸血鬼が来てくれれば、きっとカホは治る。私がこの場でやれることというのはそれくらいだ」

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