***2024年問題で大型トラックの速度規制廃止。もしも重大な事故が起きても、それは個人の責任で良いの?***
あっ!
タイトルで、既に言いたいことを全て言っているような気がしますが、ここから少しずつ枝葉を付けて行きますので御了承くださいませ(^^ゞ
2024年問題とは、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法で決まった自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題のことです。
(ちなみに自動車運転業務以外の職業に関しては720時間と決められていて、前記の通り既に施行されています。更にこの問題は建設業界にも発生しているのですが、今回は自動車運転業務の中でも特に運送業界に話を絞らせていただきます)
政府は、この問題の解決に向けて大型トラックの高速道路上の最高速度を現状の時速80キロから“元の”時速100キロに戻そうとしています。
“元の”と言うことは、以前は最高速度が時速100キロだったと言うことになります。
では、いつから?
なぜ、変ったのでしょう?
大型トラックの最高速度時速80キロ規制は、2003年に決まりました。
その主な理由は「安全面」と「環境面」です。
この規制により、2005年の大型トラックによる死亡事故件数は80キロ規制前の1997年から2002年までの平均件数より約40%低減したと報告されていますので、効果はあったという事です。
効果があったにも関わらず、なぜ最高速度を時速100キロに戻すのでしょう?
つまり2024年問題をクリアするために、「安全面」と「環境面」は切り捨てられるという事なのでしょうか?
答えはYESです。
この最高速度を時速100キロに戻すということ、実は業界団体が国に要望していたと言うから驚きです!
たしかに高速道路は信号がありませんから東京~大阪間で約1時間の短縮となりますが、走行速度が上がりますので確実に燃費は悪くなります。
なにせ約10トン~40トンの荷物を運んでいますので、たった時速20キロと言っても馬鹿になりません。
燃費が悪くなると言うことは、CO2の排出量が増えるという事ですので、世界的に目指している地球温暖化対策とは逆行する考え方ですよね。
そして一番大切な安全面ですが、実際問題現行の時速80キロ規制に於いても大型トラックに搭載されているスピードリミッターが作動するのは、実測時速95キロです。
つまり大型トラックは、現状で既に時速約100キロ程度走行していることになり、コレを100キロに改定すれば以降は時速約120キロで走行すると言うことになります。
ここにトラック協会が示した興味深い資料がりますので掲載します。
この「危険認知速度」とは、運転者が危険を認知した時点の走行速度をいいます。
もっと簡単に言えば走行中に危険に気付いて「あっ‼」っと驚いた瞬間に出していた速度のことです。
資料を見て分かる通り、最高速度が時速100キロに上がると言うことは、実質時速100キロ以上の死亡事故率45.5%の領域に入って行くという事です。
トラック協会が示した資料があるのに、なぜ運送業界は自ら進んで最高速度を上げる方向に進んだのでしょう?
他に対策はなかったのでしょうか?
スイスでは、そもそもトラックによる長距離輸送が禁止されています。
理由はCO2削減と、景観の保護です。
トラックは最寄りの貨物輸送ターミナルから、その地区にある企業へ配送するだけです。
これメッチャ良い!
現実的に私が調べた結果、対策として挙げられるのは、荷待ち時間の短縮です。
荷待ちとは、現地に到着したものの諸事情により積み込み、または積み卸しが出来るまで待たされる時間を言います。
トラック輸送状況の実態調査結果によると、荷待ち 1 回あたりの平均時間は 1 時間 13 分と言う事ですので予約とかが無い限り、積み込み+積み卸しで2時間半近く就業時間を費やすことになります。
更に積み込みや積み卸しの時間は、その荷物の状態によって大きく異なることになります。
!?
それって何のこと??
つまり、“バラ積み”か、“パレット積み”かで、作業時間は全く異なります。
下の写真で左側がバラ積みで、コレはトラックに積み込む際に荷物を一つずつ人の手で搭載します。
それに対して右側のパレット積みでは予めパレットに乗せられた荷物をフォークリフトによってまとめて搭載しますので、掛かる労力と時間はバラ積みに対して大きく軽減できます。
どちらが良いかって言えば、当然パレット積みが良いに決まっていますが、これも少し問題があります。
一つ目は、パレットには幾つもの種類がありますので積み込んだ時に使用しているパレットが、積み卸し先でも使用できることが必要です。
二つ目の問題は、積み込んだパレットは、相手先に行ってしまうという事です。
当然この状態が続いてしまいますと、出荷する企業のパレットは直ぐに無くなってしまいますので、降ろし先の企業で“差し替え”と言うパレットの交換が発生しますが、折角自社のネーム入りの綺麗なパレットが無くなることを嫌がってワザと持ち出し禁止とか、使えないパレットを使用するケチな企業もあるようです。
最近では自社専用のパレットを持たずに、ドライバーさんの作業効率を上げるために、パレットのレンタルを積極的に導入する企業も増えているようですが、運送業界全体には未だ普及していません。
パレット輸送が当たり前になれば、1台当たりの積み込み積み卸しの時間が短縮されますので、荷待ち時間は確実に少なる事でしょう。
コレならスピードを出して走ると言うリスクを負わずに、労働時間の削減が出来ますよね。
私は余り車の運転は得意ではありませんので、差し迫って必要な時以外、車は運転しません。
そして仕方なく運転をするときには、時間的に余裕をもって出発します。
もし渋滞やトラブルで約束の時間に遅れそうになったときには、早めに先方に連絡を入れて遅れる旨を伝えますし、酷い渋滞でクタクタになればコンビニなどに寄って休憩します。
今回の高速道路での大型トラック最高速度引き上げは、遅れをスピードで取り戻そうと言う行為に似ていると思います。
“遅れ”の部分が“残業時間”に変わっただけ。
時速80キロの規制により、約40%も低減した事故数を元に戻そうと言うのですか?
危険認知速度を死亡事故率の高い時速100キロゾーンに上げることに誰が責任を持つのでしょう?
全ての責任を、事故を起こしたドライバーさんに擦り付けるつもりですか?
過去に時速100キロから時速80キロに変えることにより、成果があったにもかかわらず、元に戻すと言うことに対して自分たちでは何の努力もせず、ただ単に速度を上げて解決させようと言うのなら企業や政治家もそれ相応の責任を負うべきではないでしょうか?
物体は、その質量が大きくなればなるほど大きなエネルギーを持ちます。
つまり子供の3輪車同士の衝突では“たんこぶ”程度で済みますが、時速100キロを出す大型トラックと衝突したら“たんこぶ”では済まない事は誰だって分かりますよね。
最後に車両は違いますがスピードで挽回しようとした事故例として思い出してもらいたい事故があります。
それは2005年4月25日にJR福知山線塚口駅~尼崎駅間で発生した脱線事故。
乗客と運転士合わせて107名が死亡し、562名が負傷した痛ましい事故です。
これは鉄道事故ですがスピードが起因していることは明らかです。
トラック限定であれば2013年9月5日、南アフリカで暴走したトラックにより何台もの車が押しつぶされて22人が死亡する交通事故が発生しました。
もし料金所や事故の渋滞の中で、トラックが突っ込んできたとしたら、アナタは常にそんなことを考えながら家族を乗せてドライブを楽しむことが出来るでしょうか……。