表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

1話 目覚め


「う、うーん......えっとここは?」


 目が覚めるとそこは湖の水に浸かりながら木の根に仰向けになりもたれ掛かっていた。

 周囲は自然で溢れていて、少し呆けながら状況を考えた。


 まずは記憶、私の名前はアヴィニア・エレメシア、年齢は23歳、女、夫はカルム・エレメシア、ここに来た目的はカルムを蘇らせる為にネメシスの森の最奥にある神水を手に入れるため。

 特に記憶に問題は無いようだ。


「よっと......」


 起き上がろうとするけれどかなり体が気怠く感じる。

 どのくらい意識を失っていたかはわからないので当然だろうと思った。

 感覚的には昔カルムについて行った時の長期の魔物討伐を終えて帰宅した際に丸二日寝ていて起きたような感覚だ。

 そしてそんな感覚をする事はそれだけ何も口にしていないという事である為、小さく腹の音がなる。


「とりあえず何か食料を探すか」


 そう言って湖から出るように歩き出そうとした。


「っ!」


 背後から何かしら気配を感じ振り向くが、そこには何もいない。

 けれど気配は確実にそこにあるが、姿は一切見えない。

 咄嗟に魔法を打つ準備をしながら気配のある方を見続けた。


『やっぱ、気づいていたかな?』


 そう聞こえるともたれ掛かっていた木の根の上の方の幹がねじれて一人の少女がそこから現れる。


「君は誰だ?」

「我か?我はこの世界樹の精霊だ」


 世界樹の精霊と聞いて私は驚いた。

 世界樹は神話に出てくる原初の木とされる伝説の木で、私の知る限りこの大陸内で二本しか存在しない超貴重な木である。

 次に精霊は基本的に見えないが、契約を交わして力を借りることが出来る存在で、種類で言えば属性精霊と植物精霊の二種類が存在して、契約を交わす精霊の大半が前者で、後者は植物が長い年月をかけて生まれる精霊で、力も生きた時間が長ければ長い程強大である。


 そして精霊は姿を自力で顕現ことは上位精霊以上の精霊ではないとほぼ不可能であり、目の前に居る精霊は自力で顕現した事に加えて世界樹の精霊であることから神話の時代から生きていたと考えてよかった。

 力で言えばエレメシアの地を襲ったダークドラゴン以上である。


「何、そう警戒するな。我は其方と争う気は一切無い。ただ久しぶりの来客が気になっていたが、到着早々悶えてずっと寝たきりだったから心配しているだけじゃ」


 世界樹の精霊はそう言い、私は世界樹の精霊の顔を見つめる。


「ふう、疑ってごめんなさい」

「何、警戒されるのも無理はない」


 私は魔法を解除していると、世界樹の精霊が木の根の形を変化させて椅子状にして手招きしているので、私は椅子状の根に座る。


「さて、まずはこれを食べるといい」


 世界樹の精霊はそう言って木の実を一つ私に渡した。

 その木の実は人の頭部と同じくらいの大きさをした球状の形をして、実の部分が宝石の様な紅い色をしている。


「では、はむ......!!」


 木の実を齧った瞬間、甘酸っぱい果汁が口の中に広がり、少し水分不足であった体全体に水分が行き渡る感覚がした。

 そして空腹と合わさり一分ほどで木の実を食べ終えた。


「えっと、ありがとうございます」

「よい、何せあれだけ長く眠っていたのだ。空腹であるのは当然だろう?」

「ええ、そうですね。おかげで空腹の状態で魔物を狩らずに済ましたので助かりました」


 そんな風にお礼を言って私は本題に入った。


「あの、精霊様。私どれだけの期間寝ていたのでしょうか?」

「其方か?そうだな......詳しい事は覚えていないが、かれこれ100回以上は春を迎えておるな」

「はあ!?」


 春が百回以上という事は少なくとも百年以上は経過しているという事である為、普通の人間として考えたら一部の人間を除いて生きている筈がない。

 そんな風に考えて俯き湖を見ると一つ疑問が出来、世界樹の精霊に聞いた。


「あの、精霊様。私って精霊様から見てどんな存在になっていますか?」

「そうじゃの、我が知る限り其ここに来て数週間は何も変化が無く湖を浮かんでおったから面白くて観察しようと我の膝元(根元)で寝かせていたのじゃ。しかし時間が経つことに魔力が変化し始めてから段々と髪の色が変化しておったし、起きた時に其方の眼も変化しておった」


 そう湖に反射した時に見た私の姿は濃い青緑色の髪に金色の眼であった髪と眼は灰に近い銀髪に紅色の眼に変化していたのである。


「私はいったい何になったの......」

「そうじゃの、私は詳しい事を知らんが、其方が寝ている間に来た商人に聞いたが吸血鬼と言っておったぞ」

「吸血鬼......」


 吸血鬼とは魔物寄りの亜人に分類される種族で、御伽噺などでは度々出ては国を滅ぼしたり貴族の娘を攫ったりとかなり凶悪な存在として知られる。

 一般的には亜人と言っても討伐対象としても知られて現れた場合軍が動くこともあるらしい。


「けど、どうして私が......」


 吸血鬼になる方法は主に三つ。

 一つ目が吸血鬼の血を飲み契約を行う事で通常の吸血鬼となる方法。

 二つ目が吸血鬼に血を吸われる事でなる簡易的な従属吸血鬼になる方法。

 三つ目が初めから吸血鬼であったが覚醒したか。


「私が寝ている間に何かされたことってありますか?」

「特にないな。そもそもここら周辺は魔物は寄り付かないからな」


 世界樹の精霊の言葉を聞き考えるとますます私が吸血鬼になったかが分からなくなる。

 まず一つ目は絶対ありえなく、吸血鬼自体100年以上眠る前でも数十年以上目撃情報がゼロ。

 なので会ってもいないのに契約は不可能。

 二つ目は可能性としてはありそうだが、世界樹の精霊の観察対象である私に何かさせるとは思わないし、そもそも劣化したとはいえ聖水の上位である神水に触れれば、吸血鬼に対して特攻の様な物なので普通に大怪我するので普通に考えても不可能。

 三つ目は貴族の場合はまずあり得ないと言っていい。

 理由は貴族は毎年神殿で浄化の光を受けているので、20年もあれば吸血鬼としては覚醒することは完全になくなるので、これも不可能。


「うーん......精霊様、一つ聞きたいのですけれど私が吸血鬼と言った商人って怪しいと思いますか?」

「否定はせぬが、その商人は空間属性の魔法の使い手じゃ、徒歩で来ることはマズ無く、【転移】でくるから魔力が集まれば我が気づいておる」


 それを聞いた瞬間、私には何となくその商人のイメージが何故か浮かぶ。


「その商人って黒髪黒目で中性的な見た目をして空間属性の魔法を使う男の商人ですか?」

「そうじゃが、其方その商人を知っているのか?」

「知っているも何も、私がここに神水があるという情報を聞いたからネメシスの森の最奥とも言えるこの場所に来たのです」

「そうか、まぁ、あの商人なら考えそうじゃな」


 世界樹の精霊も納得したようで、私の頭の中にはあの商人に対しての殺意が地味にじわじわと湧いていた。


「あ......そういえば精霊様!私が持っていたマジックバックがどこにあるかはご存じありませんか!」


 商人を呼ぶアイテムを私は持ち歩いていたので、思い出すと同時にカルムの遺体が入っていたことに気づき私は世界樹の精霊に尋ねた。


「ああ、あれなら我が今持っておるぞ」

「あの、そのマジックバックの中に一つ遺体は入っておりましたか?」

「知らぬ人様の荷物を探る気など一切ないからそのままじゃが、今中身がどうなっているかはわからんぞ?」

「それではマジックバックの中を確認したいので返却してもらえますか?」

「いいぞ、ホレ」


 世界樹の精霊はそう言って木の幹に手を入れて幹の中から私のマジックバックを取り出し受け取った。


「うーん、かなり劣化しているな......あった!」


 そう言ってカルムの遺体入った袋を見つけた私はそれを取り出し開ける。


「うん、問題ない」


 袋に入っているのはカルムの遺体で人骨だ。

 アンデット対策の為火葬してある為人骨しか残っていないカルムの骨を見て私は安心した。


「それとこれだね」


 カルムの骨を見て安心した私は商人を呼ぶアイテムを取り出す。

 そのアイテムはベルで、鳴らすと混んでなければ直ぐに来て、忙しければ文字が浮かび待ってもらう感じのアイテムだ。


「ほう、これがそのアイテムか」

「はい、これですね。さっそく鳴らしましょう」


 そう言って私はベルを鳴らし普通のベルと同じ音が響く。

 そして忙しい様で文字が浮かび上がる。


『一週間ほどお待ちください』


「案の定無理でした」

「そうか、それなら待つとしよう」


 そんな感じで、私についての情報は一週間お預けとなった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ