0話 幸福からの転落
【0話 幸福からの転落】
私は一人森を進み、彷徨っていた。
彷徨っている森は大陸の三分の一の広大な大森林であり、共通名称は『ネメシスの森』、別名『深淵の森』と呼ばれるその森を私、アヴィニア・エレメシアはただ一人彷徨っていた。
彷徨っている理由はただ一つ、ネメシスの森の最奥にあると言われている秘宝【神水】を手に入れるためである。
神水は聖水の最上位とも言える回復アイテムでどんな傷や病を完治させ雫の一滴でさえ湖を回復アイテムのポーションに変える程の治癒力を持つとされ、神話や太古の話では死者蘇生をも成しえたとされている。
私はこの神水を使い、彼を生き返らすことが目的である。
私が生き返らせたい彼の名前はカルム・ウォーレシア。
私の幼馴染でライバル、そして私の恋人で婚約者。
彼と初めて会ったのは18年前、私とカルムが当時五歳の頃に私の実家であるエレメスト伯爵家の隣の領地を持つウォーシア侯爵家とのお見合いでウォーシア侯爵家の屋敷に行った際に出会った。
「やあ、久しいではないかイスカリオ」
そう言うのは赤髪に緑色の眼をした二十代に見えるの筋肉がかなり目立つなウォーレシア侯爵家の当主であるタイラス・ウォーレシア。
「そちらも元気そうだなタイラス」
それに応えたのは私の父であり青髪金色の眼をした二十代に見えるてそれなりに筋肉のあるエレメスト伯爵家当主のイスカリオ・エレメストである。
エレメスト伯爵とウォーシア侯爵の当主は学園時代からの付き合いで当主となってからも懇意な関係を持つ間柄であるので仲が良い。
「タイラス、そちらの子はカルム君かな?」
「ああ、カルム自己紹介をしな」
父であるタイラスさんに言われて前に出たのはタイラスさんと同じ赤髪と緑色の眼を持つ少年であった。
「初めましてエレメスト伯爵。ウォーレシア侯爵の次男カルム・ウォーレシアです」
「これはこれは、ご挨拶をどうも。エレメスト伯爵家当主のイスカリオ・エレメストで御座います。そして私の隣にいるのが......」
父に言われて私も前に出て挨拶をする。
「初めましてタイラス様、カルム様。私はエレメスト伯爵家当主イスカリオの三女アヴィニア・エレメストです」
私の見た目は青髪の父と緑髪の母の髪が合わさった濃い青緑色の髪に父と同じ金色の眼をしている。
「流石はイスカリオのであるな。礼儀作法は他の子息と比べて抜きん出ておる」
「いやいや、タイラスの子息も娘と同じくらい作法が出来ていますよ」
そんな風にお互いの娘息子を褒めあっているとカルムから提案をされる。
「父上、エレメスト伯爵。アヴィニア嬢と庭を歩きたいのですがいいでしょうか?」
「ほう、いいぞ。イスカリオもいいよな?」
「ああ、問題ない。アヴィニア、カルム君と庭を散策して来るといい」
「わかりました。よろしくお願いしますカルム様」
そう言って部屋を出て私とカルムの護衛として二人メイドがついて庭に出た。
「さて、庭に出て父上の監視もなくなったし、普通に接しようかアヴィニア嬢」
「そうですか、ではお言葉に甘えてそうさせてもらうわカルム様」
「カルムでいい」
「では、私もアヴィでお願いします」
それから庭を回りながら家での事や武闘派である父のイスカリオの血を引いている為剣術に興味があり、カルムもタイラス様の血を引いていて武闘派であったため剣術に興味を持っており、その為お互いの趣味であった剣術について少しを話したりして盛り上がった。
お見合いを終えて数日後に私とカルムとの婚約が確定して、カルムとの共通の趣味である剣術を学び始めて、カルムとは会ってから何度も剣術で競い合った。
その10年後、色々なことがありながら、学園に入学して剣術の他に学問でもお互い競い合い良いライバルでありながら学園生活を送り、卒業して結婚を果た。
卒業後はカルムは騎士王都で働き、私はエレメスト伯爵領とウォーレシア侯爵領の境に領地を貰い、領地経営に励んだ。
その結果2年でカルムは最年少で一軍の将として認められて学園時代に貰った爵位と合わせて男爵になりエレメシア男爵となり、領地の方もエレメシア領となり色々開発を行い発展を遂げて、ただ一つ子供が出来ないことを除けば順風満帆と言える人生を送っていた。
ただし、そんな順風満帆な生活は数年後崩壊した。
一軍の将になってから2年後、隣国との戦争が始まり前線に配備されたカルムは多くの戦果と敵の総大将を討ち取り敵軍に大ダメージを与える大戦果を手にしたが、その際に致命傷を受けて治療を受けるが手遅れで命を落とした。
遺体は領地に届いてからは私は公務そっちのけで三日三晩泣き続けてた。
カルムの死後、私は領地を国に手続きをしてエレメシア領をエレメスト伯爵家とウォーレシア侯爵家に返還して、エレメスト伯爵家とウォーレシア侯爵家の共同領地として私はその代官としてエレメシアの地に残った。
けれどそれも長く続かす、エレメシアの地に魔物として最上位の竜種であるダークドラゴンが現れてエレメシア地を荒らし、私はエレメシアの地を守る為に奮闘してダークドラゴンの討伐に成功したが、その代償は大きく、領民の被害は初期の被害だけで抑えれたが、領地は荒れ果て、ダークドラゴンの呪いや汚染により発展したエレメシアの地は領地経営困難なレベルで崩壊。
討伐後は荒れ果てたエレメシアの地を見て鬱状態となりながらも、エレメシアの地の復興に力を注いで、自前でアイテムを購入しては惜しみなく使い1年で呪いと汚染を取り除く事に成功した。
けれど私はその後過労と長期間呪いと汚染が酷い地域に居た為に最上位のポーションであるエリクサーを使わなければ完治不可能の状態となった。
結果、倒れてからは実家のエレメスト伯爵領で療養して、死ぬことは無いが体はボロボロな状態で暮らすことになった。
そんな私に復興の際に一番手を貸してくれた商人からの情報で神水の情報を聞き、家族やウォーレシア侯爵家の人たちと相談して最後の希望として説得して、それなり物がいろいろ入るマジックバックに荷物とカルムの遺体を入れて
エレメスト伯爵領を後にして神水のあると言われるネメシスの森に向かった。
そして今に至る感じだ。
ネメシスの森は魔境の大森林なだけあって魔物の数が非常に多く、グリフォンやキメラ、ヒュドラと言った危険な魔物もそれなりいるので戦闘回数を最低限として進んで数ヶ月、食料も切れてきて、来ていた皮鎧は完全に崩壊して、着ていた服装も少し露出箇所が有るくらいにはボロボロ、体の状態もポーションなどで治癒しているが状態は最悪とほぼ満身創痍の状態になりながらネメシスの森の最奥を目指してついにその場所を見つける事に成功した。
そこは王城並みの大きさを誇る大樹の根やその周辺はガラスの様に透き通る程透明度の高い湖がある。
そして商人の話では神水は天に届く大樹の頂上に出来る雫の事で、この湖は劣化した神水であると。
「とりあえず水分補給を......」
本来ならある程度調べてから飲み水を飲むのが普通ではあるが、満身創痍になっていた私はそのことが抜けており、劣化した神水をそのまま手ですくい飲んだ。
「うっ......」
それを飲んだ瞬間心臓に強烈な痛み発してまるで心臓を串刺しにしてそれを握りつぶされているような感覚が続き、私はのたうち回り湖に落ちて浅瀬だから溺れる心配はないが、入った瞬間全身が火で燃やされるようにじわじわと全身に激痛が走り、激痛によるショックの影響で私は気絶して意識を失った。