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第2話 麦とマナ

 俺は教会を出てから、外を適当にぶらついていた。


 「さて、どうしたもんか。」


 オーケーとは言ったものの、具体策は何も思い付いていない。


 案其の一、真っ向勝負。

 却下だな。相手は庶民なんか及ばない格上魔術師。しかも、モールス家は、本人だけでなく手下も相当の手練れと聞く。

 案其の二、話し合い。

 却下だな。カリンと結婚、つまり魂の契約相手にするということは、よっぽどキレているな。二度と教会に返す気は無いという意志を感じる。

 案其の三、夜逃げ。

 却下だな。皆で逃げたところで、どこかで生活すればいつかは足が付く。それに、神への冒涜罪としてカリンだけでなく、全員に危機が及ぶ。そもそも逃げた先で金を稼ぐ術が無い。


 「真っ当な考えじゃ駄目だなこりゃ。」


 「おう、シラス!神父服脱いでほっつき歩いて、今日はサボりか?」


 麦農家のゴードンのおっさんが気さくに話しかけてくる。


 「そんなところ。おっさんは最近調子どうよ?」


 「どうもこうも、国王め。また麦を納める量増やしやがった。こうも早いペースで増やされちゃ、俺らが食う分が無くなっちまう。」


 「はは、上もよく出来たシステム考えるよな。必需品を絶妙に分取って、庶民は生かさず、殺さず。結局上流階級の一人勝ち。」


 「全くだ。上のやつら、魔法がちょっと上手いからって踏ん反りやがって。マナが無けりゃ俺たち以下だってのによ。」


 「ま、マナには税なんて無いから…」


 頭に電撃が走った。


 「おい、どうしたシラス。急に固まっちまって。」


 「なあ、おっさんはどうして麦を作るんだ?」


 「そりゃ、食い物無いと生きていけんだろう。」


 「じゃあ、何故必須なそれを国王に納めるんだ?」


 「納めないと国を追い出されちまう。」


 魔法の根源はマナ。そのマナを納めさせる別の条件、麦でいう国の居住権のような何かさえあれば、モールス家を破滅に追い込むことができる。

 いや、モールス家だけでない。

 この国の王、それどころかこの世界を掌握することさえ…


 「俺、そろそろ行かないと。おっさんと話せて良かったよ。」


 「折角サボってんのにもう行っちまうのか?精々頑張れよ。」



 ーーーー



 俺は教会に戻ると、中庭の木の影で寝転んだ。

 魔法を使うのに必須なマナ。それを納めさせるほどの魅力的な別の何か、これさえ見つけられれば俺の策は完成する。

 考えろ。何がマナを手放す程魅了させる?

 地位?名誉?金?そんなものこの世界では魔力で決まってしまうから意味がない。

 もっと考えろ。もっと深みに…


 「なーにサボってるの?」


 目を開けると、カリンが顔を覗き込んでいた。


 「丁度頭の中でモールス家に素手で立ち向かって、無双していたところだ。」


 「ふふっ、何それバカみたい。」


 「マナが無い俺には格闘術で戦うしかないからな。」


 「それって、マナがあれば魔法使えるってこと?シラスはマナがあっても魔法下手そ〜。」


 「…今、何て言った?」


 「あれ、怒った?もう、冗談間に受けすぎ。」


 「今何て言った!?」


 「マナがあっても魔法下手そうって言っただけじゃん…。」


 「その前!」


 「…マナがあれば魔法が使える?」


 「それだ!!」


 どうしてこんな当たり前な事に気付かなかったんだ。 

 マナを手放す程魅力的なもの、魔法を使うことじゃないか!


 「完成した…。」


 「え、ちょ、頭撫でるのやめ…ってか今日のシラス変!」


 「これでカリンは、モールス家に行かなくても良いんだ!」


 その言葉を聞いたカリンの表情は徐々に暗くなる。


 「…あのね、その事なんだけどさ、もういいよ。」


 「あー、自分の為に他人が犠牲になるのが辛いって言うんだろ?」


 「そうに決まってるじゃん!死んじゃうかもしれないんだよ!?そんなことになったら、マザーやアンナ、コリーがどれだけ悲しんじゃうか…。」


 「そうだな、例えばカリンがモールス家に嫁げば、二度と帰っては来ないだろう。なんせ魂の契約だからな。じゃあ、俺がモールス家と戦って帰って来る可能性は?確実は無いにしても、ゼロでもない。」


 「それは、そうかもしれないけど…でも!」


 「それに、本当は別の娘を助ける為に、咄嗟に次男坊を引っ叩いたんだろう?マザーから聞いたよ。二人共々攫われる、もしくは殺される状況の中で、相手は小娘に叩かれた恥ずかしさから逃げ帰った。これってさ、限りなく勝ちの目が低い戦いにカリンは勝利したってことなんだよ。」


 「でも、それはただ運が良かっただけだし…。」


 「おいおい、教会の子供とは思えない発言だな。神父代理である俺の教えをちゃんと聞いてなかったな?」


 「え、あれ適当じゃなかったの?」


 「適当じゃねーよ!」


 カリンが少しだけクスッと笑う。


 神の教えを曲解に曲解した、俺の教えを適当と思われていたことは残念だが、これも日々の行いのせいだろうか。


 「えー、おほん。目的の為にはどんなことでもするのです。その時初めて、神はあなたに手を差し伸べるでしょう。」

 

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