7.林の奥には
『ふむ…思っていた以上に早く来たのぅ』
桜花息を切らしながらが今朝の場所に行くと、そこでは既に龍が待っていた。
「ハァ…ハァ…あ、あなたが、ハァ…すぐに来いって、ハァ…言うから」
『走って来たのは感心するが今は深呼吸せい、息を整えねば上手く話せぬだろう?』
どうやら龍は落ち着くまで待っていてくれる様だ。
桜花は深呼吸を数回繰り返した。
桜花の呼吸が落ち着いたのを確認してから龍は道路脇の林へと入って行く。
「え、あの、どこ行くの?」
『ついて来い。この先で其方にやって貰わねばならない事がある』
龍に言われるがままに着いて行く桜花はふと違和感を感じて周りを見回す。
草木がいっさい身体に触れないのだ。
鬱蒼と生い茂る林の中に入ったはずなのに、まるでそこに道があるかの様に桜花が一歩踏み出す度に草木が避けて行く。
「この林、生きてるの?」
『当然じゃ。植物も生き物、息もすれば動きもする』
「いや、普通風に揺られない限り葉っぱは勝手に動かないでしょ」
『人間は目先の事しか見ようとせんから草木の動きも気付かん。自分達の利益しか考えんから大切な事は見えなくなるんじゃ』
「…」
龍の言葉に何も言えないまま暫く歩き続けると、広場の様な場所に出た。
その広場の真ん中には小さな祠が建っていた。
林の中は薄暗かったのにその広場だけは太陽の光が差し込み、祠を照らしていた。
「なんだかここだけ違う世界みたいだね」
『それを言うたのは其方で二人目じゃ』
もう一人は誰なのか気になったが、聞いてはいけない気がした。
龍は祠まで行くと中から小さな盃を取り出して来た。
「盃?お酒飲んだりするのに使うヤツだよね?何に使うの?」
『これに其方の血を入れる』
「はい!?」
突然の龍の言葉に桜花は驚愕する。
突然血を寄越せと言われてはいそうですかと渡す奴はいない。
「血を入れるって何!?私手首切らなきゃいけないの!?」
『そんな訳無かろう。指先を我が咬む故そこから血を一滴垂らせば良いだけじゃ』
「痛いのには変わり無いじゃん…痛いのは嫌だよ」
『すぐに我が治してやる。早よぅせい』
「うぅ〜…。痛ッ!」
龍に急かされ、桜花は渋々指を出した。
その指先を龍は遠慮無く噛み、桜花の指先から血が滴り落ちた。
その血をすぐ盃に入れると龍は祠まで行き盃を置いた。
そして何やらブツブツと唱え始めた。
『刻は来れり。我此処に主神との盟約を果たし闔開きたもう。名を梓拍、梓速白神命と申す者成り。』
龍がそう唱えた瞬間、祠の扉が勢い良く開き突風が吹いた。
あまりの風の強さに桜花は目を開けていられず、咄嗟に腕で顔を庇った。
風が止み、桜花が恐る恐る目を開けると目の前にいたはずの龍の姿は無かった。
代わりにいたのはーーーーーーー。
「え…誰?」
長い白銀髪に鹿の様な小さな二本の角を生やした男だった。
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