23.高級旅館と自分の現状
「では姫様、朝餉の準備が出来ましたらお呼び致しますのでごゆっくりなさっていて下さいね。何か聞きたい事、必要な物などありましたら遠慮なくサヤにお申し付け下さいませ。では、ごゆっくり」
と言い残しカヨは部屋から出て行った。
桜花が通された部屋は和式なのに洋風な雰囲気もある所謂和モダンな広々とした部屋だった。
高級旅館に来た様な感覚になる。
桜花は落ち着かない様子でキョロキョロ周りを見回していると、サヤがお茶を用意してくれた。
お茶を飲んで一息付く。
「初めて隠世に来たので姫様もお疲れでしょう?お茶のお味は如何ですか?」
「緑茶なのに甘味もあって凄く飲みやすくて美味しいです!でもあの…その姫様って呼び方やめて貰えると…私の事は桜花って呼んで貰えると嬉しいです」
「え…ですが姫様は若様の伴侶となられるお方です。お名前でお呼びするのは…」
「呼ばれ慣れてないから落ち着かなくて…距離も感じるし、せめてお世話してくれるサヤさん達には普通に名前で呼んでもらいたいです」
桜花の言葉にサヤはしばらく何かを考える様にしていたが…
「分かりました。では桜花様とお呼び致しますね。桜花様からその様なお申し出をされるとは思わなかったので…大変嬉しゅうございます!」
と、初めて満面の笑みを浮かべてくれた。
が、すぐに真剣な顔をして桜花を見る。
「ですが桜花様…一つ覚えておいていただきたい事がございます」
「な、なんですか?」
「桜花様は若様の大切な花嫁様です。いつ何処からその御身を害そうとする者が現れるかわからない状況です。全ての妖がそうとは限りませんが、妖というのは只人を惑わし誑かす者達です。名を知るだけで惑わせる能力を有する妖もいます。ですので安易に名前を呼ぶ様に…などとは仰らない様お願い致します。桜花様の安全の為に。ですので…残念でなりませんが私が桜花様をお名前でお呼び出来るのはお部屋にいる時のみになります」
「はい…分かりました」
なんとなく気付いてはいたが、気安く名前も呼んでもらえない状況にガックリと肩を落とす。
「そう落ち込まないでください。桜花様を狙う者達が捕まれば皆も桜花様の事を名前でお呼びできる様になりますから」
そう言うとサヤは「コレはイマイチ…こっちは髪色に合わないわ…」などブツブツ言いながらやたら大きな箪笥を物色し始めた。
「あの…サヤさん?何してるんですか?」
「桜花様に似合う服を吟味しているんです。もうすぐ朝餉の支度が整うでしょうから、カヨさんが呼びに来る前に桜花様のお召し物を替えようと」
「あ!私着替え…」
「ご心配なさらず。いつでもお迎え出来る様に、桜花様のお着替え等は既に若様が手配して準備してありますから」
そう言ってサヤは箪笥の中を見せてくれた。
中には着物・洋服、それに合わせた髪飾りや装飾品が沢山入っていた。
どれも桜花の為にと隠世で一流の呉服屋に頼んで作らせた逸品だとサヤは説明してくれた。
(うッ…、コレ絶対高そう…服に負けるよね絶対)
そんな桜花の様子を見て、サヤは少し考えた後何かを閃いた様子で箪笥から一組の服を出して来た。
「どれも桜花様にお似合いになると思いますが…ご不安でしたら私に任せて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、お願いします。私じゃどれを来たら良いかわからなくて…」
とサヤを見ると、サヤはにっこりと笑うが目が笑っていなかった…まるで獲物を狙う肉食獣の様な気迫があった。
サヤは鼻息荒く「腕が鳴ります!」と言ってあれよあれよと言う間に桜花の服を脱がし、先程出した服を着せて行く。
袖を通した着物はとても肌触りが良く、本当に高級品であると分かった。
着物を着終わると次は袴を履かされ、あっという間に着付けは終わった。
と、思ったら化粧台の前に座らされる。
サヤは桜花の髪を丁寧に丁寧に梳かして行く。
「少し傷んでいますね…せっかくの綺麗な御髪が勿体ないです。少し椿油を付けますね」
「ヘアーアイロンかけてたから傷んじゃって…」
「その、へあーいろん?と言うのは現世のどうぐですか?どんな道具なのですか?」
そんなやりとりをしている内に髪結も終わった様で、桜花の髪は編み込まれ、編み込みを留める為にピンクと白レースのツートンリボンが結ばれていた。
「わぁ…可愛い…」
「最後に少しお化粧もしますね」
と、サヤはあっという間に桜花に化粧を施した。
身支度が終わった桜花の前に姿見を持って来る。
鏡には薄ピンク地に桜柄の着物、薄紫色の袴姿の大正レトロ風に仕上がった桜花が映っていた。
「サヤさんて何者ですか…こんなに短時間で…」
「今日はあまり時間が無かったので落ち着いた感じに仕上げてみました。桜花様は磨き甲斐のある方ですね!」
ふんすふんすとサヤが鼻息荒くしている。
さっきまでの落ち着いた感じのサヤはどこに行ったのかと若干引いているとーー。
「失礼いたします姫様、朝餉の支度が整いましたのでご案内致します」
と、カヨが部屋の外から声をかけて来た。
外を見るとまだ真っ暗だ。
「え?今ってまだ真夜中なんじゃ…」
「あぁ…説明不足で申し訳ありません。この隠世はずっと夜のままなのです」
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