16.餓儖童を捕まえろ
「梓拍…」
「やっぱこの家に帰すのは間違いだったな。大丈夫か桜花?痛かっただろ」
そう言って梓拍は桜花の頭を優しく撫でた。
梓拍の顔を見て安心したのか、桜花は静かに涙を流していた。
「な、何だお前は!?どこから入った!そいつは今から説教するんだ!邪魔をするな!」
父親は突然現れた梓拍に動揺しながらも、桜花に掴みかかろうと迫って来る。
「黙れ。父親だろうと桜花を傷付ける奴は俺が許さん」
梓拍は桜花を抱きしめながら片手を上げた。
すると突然父親が階段から転がり落ちて来た。
桜花は訳も分からずただ落ちて来た父親を見ていた。
父親は落ちた時に頭を少し切ったらしく、血を流していた。
「何の騒ぎなの!?…あ、あなた!?」
「お父さん!?」
騒ぎを聞きつけて、リビングから母親と楊花が出て来て、父親の姿を見て悲鳴を上げた。
しかし楊花は梓拍の姿を見るなり目の色を変える。
「桜花、その人誰?彼氏?超イケメンじゃん。初めまして〜、私〜桜花の双子の妹の楊花です〜♪お会い出来てすっごく嬉しいです〜」
猫撫で声で梓拍に近づいて来る楊花。
父親が怪我をしたというのに呑気なものだ。
楊花には既に梓拍しか見えていない様だ。
「へぇ…アンタが桜花の妹か」
「わぁ!私の事ご存知なんですか!?すっごく嬉しい〜♪せっかく来てくれたんですからお茶を淹れますね♪一緒にお話しながら飲みましょ♪」
そう言って楊花は梓拍に腕を絡めて来た。
梓拍はとても冷たい目で楊花を見ていたが、楊花には見えなかった。
「楊花!お父さんが大変なのにお茶なんて飲んでる場合じゃ無いでしょ!早く救急車呼んで!」
後ろから母親が叫んでいる。
「呼ぶ必要無い。こんな親の風上にも置けない様な奴は今この場で殺してやろう」
「ちょ、ちょっと待ってダメだよ!」
梓拍は父親に向かって手を伸ばそうとしたが、それを桜花が止める。
「何で止める?こんな親ならいない方がマシだろ?」
「それでもやっぱり私の親だし…」
「甘いな。今見逃したら付け上がる。いつか必ずお前に迷惑をかけて来るぞ」
「そうかも知れないけど…梓拍に人殺しになって欲しくない」
桜花にそう言われては梓拍も負けてしまう。
梓拍は、軽く手を振ると父親の怪我を綺麗に治してくれた。
「…桜花がそう言うなら今回は見逃してやる。だが次に桜花を傷付けようとした時には炭にしてやる」
「な、何なのよ貴方は!桜花説明してちょうだい!私達が何したって言うのよ!」
母親は泣きながら桜花に縋り付いて来た。
母親を宥めるのに気を取られた隙に、楊花が梓拍をリビングに引っ張って行ってしまった。
(あの子、今度は梓拍まで奪うつもり!?)
慌てて後を追おうとすると、リビングから楊花の悲鳴が聞こえた。
楊花の悲鳴を聞いて母親はふらつきながらもリビングへ走って行った。桜花も後を追った。
「楊花!?」
「ァ…ァガ…ぐッ…がえしでぇ!!」
リビングでは、あの短時間で何があったのかと思う様な光景が広がっていた。
梓拍は片手で楊花の首を絞め壁に押し付け、片手には黒いモヤの塊を持っていた。餓儖童の本体の様だ。
楊花はモヤを取り返そうと梓拍に片手を伸ばしている。
「楊花!楊花を離しなさい!警察を呼ぶわよ!」
母親は叫んでいるが梓拍は気にもしていないのか、片手に持った黒いモヤをジッと見つめると、誰もいない場所に話しかけた。
「狐、コイツで間違い無いか」
「…はい。間違いございません」
誰も居なかった場所にいつの間にか尚樹と父親が立っていた。
尚樹の父親の言葉を聞いた梓拍は、もう用済みと言わんばかりに楊花を母親の方へ投げ飛ばした。
「楊花!大丈夫!?」
「ゲッホ…ゲホ、ゴホッ!なん、で雲ちゃん、触れるの!?雲ちゃん返してよ!狐坂君!その人から雲ちゃん取り返して!」
母親の心配を余所に楊花は餓儖童を取り返そうと必死だ。
尚樹が目に入るなり尚樹にお願いをしている。
そんな尚樹は梓拍から餓儖童を受け取ると何やら呪文を唱えた。
すると、モヤの中から沢山の光が飛び出して来た。今まで食べられていた精霊達だ。
自由になった精霊達は本来傍にいるはずだった桜花の元へと帰って行く。
精霊達の加護なのか、なんだか身体が軽くなったような感覚になる。
精霊を全て吐き出して一回り小さくなった餓儖童に、尚樹はお札の様な物を貼り付け壺の様な入れ物に入れ、蓋をし、蓋の上からも更にお札を貼り付けていた。
「私の精霊達が……雲ちゃんに何してるの!?早くその子を渡して!」
「ごめんな?それは出来ん。コイツは俺らで預からせてもらう。これ以上悪さされたら俺らが困んねん」
「その子は何も悪さなんてしてない!ただ私にキラキラの精霊を届けてくれただけよ!」
「それが悪い事やって思わんかったん?精霊達は元々姫さんのモンや。姫さんから精霊奪うんは泥棒と同じやで」
「なんでよぉ!私の事好きって言ってたじゃない!好きなら味方しなさいよ!」
「勘違いすんなや。お前に近付いたんは餓儖童を見張る為や。むしろお前みたいな女苦手な部類や。第一俺好きな女おるし」
「尚樹、痴話喧嘩なら他所でやれ。若、姫様、目的も果たした故我らは先に失礼致します。餓儖童の処罰は後日如何様にも」
「分かった。ご苦労だった」
尚樹の父親は尚樹を諌めると、梓拍と桜花に一礼すると二人で煙の様に姿を消した。
後は楊花達をどうするのかだ。
楊花は精霊達も餓儖童も奪われた為、呆然としながら涙を流していた。
母親は訳が分からずオロオロするしか無かった。
(…声掛けづらいよ…どうしよう…)
そう思っていると、階段の方からバタバタと走って来る音が聞こえた。どうやら父親が目を覚まして慌てて来た様だ。
「母さん!楊花!無事か!?」
リビングに駆け込んで来た父親は目の前の光景に、怒りが頂点に達した様で、額に青筋を浮かべながら梓拍に掴みかかる。
「貴様ぁ!俺の大事な家族に何をした!?桜花!この男はなんなんだ!?こんな事をしてタダで済むとーーーガハッ!」
「まったく…これだから冷静に物事を見極められん奴は嫌いなんだよねぇ。梓拍、それに…桜花ちゃんだったかな?怪我は無いかい?」
突然物凄く美人な男性が現れて、梓拍に掴みかかっていた父親を金の紐の様なもので吊し上げていた。
「は、はい大丈夫です。あの…貴方は?」
「……親父殿。何故現世に」
(え!?梓拍のお父さん!?)
なんと、今現れたのはまさかの梓拍の父親だった。
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