12.龍はチーズケーキがお好きな様です
『精霊達が居なくなったのは桜花、其方の妹が原因だ』
梓拍は桜花の首からするりと抜けると人の姿に変わった。
何も居なかった所に突然美形が現れて有紗は卒倒しそうになっていたが、祖父母は特に気にした様子もなく、「ケーキを食べながら話しましょう」と、のほほんとした様子で梓拍にもケーキを渡していた。
梓拍も梓拍で、「いっただっきまーす!」などと呑気にチーズケーキを頬張っては美味い美味いと言いながら食べていた。
「ねぇ桜花…あの人誰?ツノ生えてるけど…」
「ぅ〜ん…なんて説明すればいいんだろ…。名前は梓拍って言うの。前に有紗にカラスから助けた生き物の話したでしょ?…アレ」
「あの話マジな話だったんだ…信じて無くてごめん」
信じていなかったとしても目の前にツノが生えた人がいるのだから信じるしかないだろう。
しかし、目の前の口の周りにケーキの食べカスをくっつけた男が実は龍だなどとは到底思えないだろう。
「あの梓拍って人が龍ってのは分かったけど、なんで桜花と一緒にいたの?てか、今まで見えなかったのになんで急に見えるようになったの?」
有紗の疑問は至極尤もな疑問だ。
実際桜花にも謎だった。何せ先程までは確かに有紗には見えていなかったのだから。
「それはこの桜花の祖母殿が作ったケーキが原因だな。精霊の加護がかかったケーキを食べたからお前にも加護がかかり、俺や精霊達が見える様になったんだろう」
精霊の加護…侮りがたし。
しかしそれを聞いたら更に疑問が出てくる。
「でもそれならどうして私は今まで見えなかったの?おばあちゃんの作ったお菓子沢山食べてたのに」
「その原因もお前の妹だな。それもひっくるめて今から全部話してやるから先ずは茶を頼む」
真面目な顔で何を言うかと思えばお茶だった。
一瞬呆気に取られた桜花だが、すぐに我に返ると急いでお茶を五人分入れて来る。
お茶を飲んで一息つくと、梓拍は語り始めた。
「話す前に確認したいことがある。桜花の祖父母殿よ。アンタらは桜花の妹が精霊が見える事を知っていたか?」
梓拍の質問に祖父母は慌てて首を振る。
「いいえ、全く知りませんでした。見える様な素振りも見せなかったので…」
「そうか…。妹は幼い頃から精霊達が見えていた。だが見えただけで精霊達から加護を受けた訳じゃ無かった。精霊を欲した妹は厄介な奴を自身の内側に自分でも気付かない内に宿してしまった。精霊が居なくなったのはそいつが食って妹に与えてしまったからだ」
衝撃的な内容だった。
まさか自分達の孫がそんな事をしたとは思っていなかった祖父母はショックを隠しきれなかった。
「庭の精霊を奪う前、奴は別の所から精霊を奪い取って味を占めて行った。精霊を奪われたのはーーー」
そう言うと梓拍は桜花の方を見た。
「お前だ、桜花。奴はお前に加護を与えていた精霊を次から次へと食って奪っていき妹に与えていた。精霊を奪われたお前は元々持っていた力も共に奪われたから精霊が見えなくなった。まぁ、祖母殿が作った菓子を食っていたおかげで力は回復して、こうしてまた精霊が見える様にはなったみたいだがな。精霊が奪われていなければ今頃お前は精霊の愛し子として様々な加護を与えられていた筈だ。俺ももっと早くにお前を見つけられていた」
忌々しそうに梓拍は呟く。
だがこうして梓拍は桜花を見つけたのだからそれで良いのでは?と桜花は思ったが、言ったところで納得はしないだろう。
「あの〜…」
ここで黙って聞いていた有紗が口を開く。
全員の視線が有紗に集まる。
「なんだ」
「聞きたい事はたっくさんあるけど、まず大事な事を教えてください。桜花は楊花に力を奪われたって言ってたけど…それは取り戻す事は出来ないの?」
有紗の言葉に梓拍以外の全員がハッとする。
奪う事が出来るなら奪い返すことも可能な筈だ。
「不可能では無い。だが、妹の中に巣食っているモノをなんとかしない限りは無理だ。奪い返したとしてもまたすぐに奪われてイタチごっこになるぞ」
やはり先ずは楊花の中にいると言う何かをなんとかしないとならない様だ。
梓拍は桜花と有紗の顔を交互に見ながら「なるほど…」と呟き龍の姿になると、すぐ戻ると言い残して窓から飛び立って行った。
梓拍が居なくなってから、桜花は有紗と祖父母の三人から質問攻めにあい、梓拍が帰って来るまでの間説明するのに苦労したのだった。
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